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11 騎士はただ想う
しおりを挟むいつからだろうか。
小さかったあの人が自分よりも逞しく、頼りになる存在になってしまったのは。
『忘れないでハル。いつでも貴方を想ってるわ』
別れ際、貴女は俺を安心させるように何度もそう言うのがクセだった。でもその反面、何も出来ない自分が腹立たしくて大嫌いだった。
孤児で、弱くて、泣き虫だった俺を、あの人はいつも温かい笑顔で包んでくれる。
あれからもう10年以上は経った。
身長はとうの昔に越し、細い線だった体格は父親の鍛錬のおかげで逞しく育った。
ルノア様、今度は俺が貴女を守る番だ。
*****
「そんじゃあ兄ちゃんアレグロから来たのかい?」
がやがやと騒がしい夜の酒場。
ここにいる連中は仕事終わりに酒を飲みに来た男どもと、そんな彼らを楽しませる踊り子の女たちで賑わっていた。
アレグロ王国の隣に位置する国。
ここは旅人たちが立ち寄る港町として有名だ。
「アレグロといやぁ今話題のお家騒動があった国じゃねぇか!ほらあれ、王子様が他の女とデキちまって王家から追い出されたっていう、あの!」
「馬鹿だなオメェ!デキたんじゃねぇよ、何だっけ?そっちが本命だったんだっけ?」
「違うわよぉ、女が騙して慰謝料を……」
酔っ払いたちは好き勝手に話し出す。
どつやら真相はまだこの国に伝わっていないらしい。
「ひょっとしてアンタのその右目、まさか女にやられたんじゃねェだろうなァ?」
客の一人が俺の顔を指差して笑う。
「眼帯までするなんてよっぽどじゃねぇか!え、どんなにいい女なんだい?!」
「いや、これは……」
「えぇーかわいそぉ!お姉さんが慰めてあげる!」
慣れない絡みにあたふたとしてしまう。
どうしよう、この場から離れた方が……
「悪ぃな、ハル」
背後から名前を呼ばれ、振り返り見慣れた男に少しだけホッとした。
「エスカ」
「いやぁここに来るまでに仕事が入っちまったんだ」
「問題ない」
「おっ!これが兄ちゃんの待ち人かい?!」
「何だよ男かよぉ」
酔っ払いたちはやって来たエスカを見て騒ぎ出す。
「やだぁ!黒髪のお兄さんもイイけど今来たお兄さんもカッコいいねぇ!」
「ハハッ!ありがと♪」
「何だオメェら、俺らを冷やかしに来たのかよォ」
「まぁそう言わないでよ旦那ァ、今日はここにいる全員奢っちゃうからさ」
「ほ、ホントかよっ?!」
「よっしゃーー!!おい、酒持ってこいっ!」
エスカがそう言うと酒場にいた酔っ払いたちは歓喜の声を上げどんちゃん騒ぎを再開した。
「ハル、今のうちに出よう」
「いいのか?」
「ああ。ここじゃ落ち着いて話も出来ねぇよ」
エスカはニカっと笑うと酒場を出て行った。
エスカ=マノンは商家の息子だ。
俺よりも若い年齢だが自身の運営する商会をアレグロ王国一に成長させた実績がある。更に、各国にも手広く進出しておりその名はマノン一派として知れ渡っていた。
エスカに案内されたのはさっきの酒場とは違う、静かで落ち着いたら場所。客らしき姿はどこにもなくカウンターの向こうに店主が一人いるだけだった。
「で、お嬢は」
席につくなりエスカは言う。
「お前ら今どこにいんの」
「……市街から離れた教会で今夜は泊まる予定だ。国を出る時にルストゥーバの司教が紹介状を書いて下さった」
「何だよ、言ってくれりゃ宿を用意したのに」
「そこまで迷惑をかける訳にはいかないとの指示だ」
「さすがお嬢だねぇ」
エスカは楽しそうに笑った。
「仮にダリッジ侯爵が捜索隊を出してもこの国に来るのは1週間後、まぁそれも長くは続かねぇと思うよ」
「……取引、解消したのか?」
「もちろん♪」
店主が持ってきた酒をエスカは躊躇うことなくクビっと飲み干した。
ダリッジ家の財源はマノン一派からのマージンが半分を締めている。ただの伯爵家が侯爵までのし上がれたのは、あの人が王家と婚約を結んだこととこの資金があってこそだった。それが無くなったということは……
「侯爵は死に物狂いで探すだろうな」
「多分な。あのオッサン、無能なくせにそういうずる賢さだけは天下一品だからな。まぁ俺らは別に侯爵家の後ろ盾がなくてもやってけるし」
ケラケラ笑うエスカに苦笑する。
マノン一派は今や大商会になった。その顔の広さがあれば侯爵家がいなくとも問題はないだろう。
「で、お前は?」
「……俺?」
「お嬢をどうするつもりだ?」
エスカの目が鋭くなる。
ヘラヘラして見せてもこいつもあの人を慕っている。答えようによっては今この場で殴られてもおかしくないだろう、
慣れない酒をグッと飲み、真っ直ぐエスカを見る。
「俺のやることは今も昔も変わらない。信じて守る、それだけだ」
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