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第八話:毒が仕掛けられた夜宴
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皇太后陛下の誕生を祝う夜宴は、この世の絢爛をすべて集めたかのように輝いていた。数多の蝋燭が黄金の燭台で燃え盛り、磨き上げられた黒曜石の床にその光を映している。皇帝・叡明を中央に、皇族、そして後宮の妃たちがずらりと並ぶ光景は、さながら天上の絵巻物のようだった。
そして、その絵巻物を彩る花々──妃たちのほとんどが、『玉肌香』の化粧品でその美を磨き上げていた。林淑妃の自信に満ちた微笑みも、他の妃たちの艶やかな肌も、すべてが私の功績だ。新人妃として末席に座る私は、自らが作り出した光景を、静かな満足感と共に眺めていた。
宴が始まり、美酒が注がれ、雅な音楽が奏でられる。その、最も華やかな瞬間に、悲劇は起こった。
「……あ……」
最初は、小さな呻き声だった。麗嬪が、ほっそりとした指で自らの頬を押さえている。彼女の肌もまた、私の作った「真珠光の白粉」で美しく輝いていた。
だが、その輝きは急速に失われていく。彼女が押さえた頬が、不自然な赤みを帯び始めたのだ。赤みは見る間に広がり、ぷつぷつとした発疹となり、やがて顔全体が醜く腫れ上がっていく。
「ああ……ああああああっ! 顔が、顔が熱い! 痛い! 焼けるように!!」
麗嬪の絶叫が、音楽と談笑を切り裂いた。彼女は椅子から転げ落ち、美しい顔をかきむしりながら床を転げ回る。その凄惨な光景に、宴は水を打ったように静まり返り、次いでパニックの渦に包まれた。
その混乱の中、計画通りに動いた者がいた。張貴妃だ。
彼女は芝居がかった悲鳴を上げると、麗嬪のもとに駆け寄った。
「まあ、おいたわしや麗嬪! そのお顔……まるで漆にかぶれたかのようではございませんか! 一体何をお使いになったの!?」
張貴妃は、震える麗嬪の侍女に命じて化粧箱を持ってこさせると、その中から一つの壺を取り出した。白磁に『玉肌香』の銘が入った、真珠光の白粉の壺だ。
彼女はそれを高く掲げ、雷鳴のように叫んだ。
「皆様、ご覧ください! 原因はこの呪いの化粧品に違いありませんわ! 静蘭宮の李雪蘭が売りさばいている、あの『玉肌香』です!」
その言葉は、宴に集った妃たちの心に恐怖の火をつけた。
「まあ、私もあれを使っているのに!」
「早く落とさなければ!」
「やはり妖しげな術だったのよ!」
賞賛は、一瞬にして非難と恐怖に変わった。すべての視線が、凶器のように末席の私に突き刺さる。
張貴妃は勝ち誇ったように、皇帝と皇太后へ向き直り、涙ながらに訴えた。
「陛下! 皇太后陛下! この女は、皇太后陛下の祝宴を悲鳴と呪いで汚しました! 妖術で妃たちを誑かし、あまつさえ毒を盛るとは、万死に値する大罪人! どうか、この李雪蘭を捕らえ、厳罰に処してくださいませ!」
衛兵たちが、私を取り押さえようとじりじりと距離を詰めてくる。林淑妃と趙秀英が、顔面蒼白で私を見つめている。助けたくても、動けない。動けば共犯とされるだろう。私は完全に孤立していた。これが、彼女の描いた完璧な筋書き。
万事休すかと思われた、その時。
「──待て」
低く、しかし場を支配する皇帝・叡明の声が響いた。
衛兵たちの動きが止まる。皇帝は玉座からゆっくりと立ち上がると、騒然とする妃たちを一瞥し、静かに階を降りてきた。彼の足音だけが、大広間に響く。
彼は、苦しみもだえる麗嬪、勝ち誇る張貴妃、そして絶望の淵に立つ私の前を通り過ぎ、中央で立ち止まった。
その氷のような視線が、私を射抜く。
後宮の誰もが、私が引き出され、拷問の末に処刑されるものと信じて疑わなかった。
だが、皇帝の口から発せられた言葉は、皆の予想を裏切るものだった。
「李雪蘭。申し開きは、あるか」
彼は、私に弁明の機会を与えた。その真意は分からない。だが、これが最後の好機であることだけは確かだった。
恐怖で震えそうになる膝に、ぐっと力を込める。私はゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばした。私の頭脳は、この絶望的な状況を覆すための一筋の光を求めて、猛烈な速度で回転を始めていた。
私は皇帝の瞳をまっすぐに見返し、静かに、しかし、その場にいる全ての者に聞こえるよう、はっきりと告げた。
「……申し上げます、陛下。これは、巧妙に仕組まれた罠にございます」
私の言葉に、張貴妃の顔が微かに引きつった。
皇帝は表情を変えぬまま、ただ黙って私を見つめている。その沈黙が、私の覚悟と知恵を試しているようだった。
そして、その絵巻物を彩る花々──妃たちのほとんどが、『玉肌香』の化粧品でその美を磨き上げていた。林淑妃の自信に満ちた微笑みも、他の妃たちの艶やかな肌も、すべてが私の功績だ。新人妃として末席に座る私は、自らが作り出した光景を、静かな満足感と共に眺めていた。
宴が始まり、美酒が注がれ、雅な音楽が奏でられる。その、最も華やかな瞬間に、悲劇は起こった。
「……あ……」
最初は、小さな呻き声だった。麗嬪が、ほっそりとした指で自らの頬を押さえている。彼女の肌もまた、私の作った「真珠光の白粉」で美しく輝いていた。
だが、その輝きは急速に失われていく。彼女が押さえた頬が、不自然な赤みを帯び始めたのだ。赤みは見る間に広がり、ぷつぷつとした発疹となり、やがて顔全体が醜く腫れ上がっていく。
「ああ……ああああああっ! 顔が、顔が熱い! 痛い! 焼けるように!!」
麗嬪の絶叫が、音楽と談笑を切り裂いた。彼女は椅子から転げ落ち、美しい顔をかきむしりながら床を転げ回る。その凄惨な光景に、宴は水を打ったように静まり返り、次いでパニックの渦に包まれた。
その混乱の中、計画通りに動いた者がいた。張貴妃だ。
彼女は芝居がかった悲鳴を上げると、麗嬪のもとに駆け寄った。
「まあ、おいたわしや麗嬪! そのお顔……まるで漆にかぶれたかのようではございませんか! 一体何をお使いになったの!?」
張貴妃は、震える麗嬪の侍女に命じて化粧箱を持ってこさせると、その中から一つの壺を取り出した。白磁に『玉肌香』の銘が入った、真珠光の白粉の壺だ。
彼女はそれを高く掲げ、雷鳴のように叫んだ。
「皆様、ご覧ください! 原因はこの呪いの化粧品に違いありませんわ! 静蘭宮の李雪蘭が売りさばいている、あの『玉肌香』です!」
その言葉は、宴に集った妃たちの心に恐怖の火をつけた。
「まあ、私もあれを使っているのに!」
「早く落とさなければ!」
「やはり妖しげな術だったのよ!」
賞賛は、一瞬にして非難と恐怖に変わった。すべての視線が、凶器のように末席の私に突き刺さる。
張貴妃は勝ち誇ったように、皇帝と皇太后へ向き直り、涙ながらに訴えた。
「陛下! 皇太后陛下! この女は、皇太后陛下の祝宴を悲鳴と呪いで汚しました! 妖術で妃たちを誑かし、あまつさえ毒を盛るとは、万死に値する大罪人! どうか、この李雪蘭を捕らえ、厳罰に処してくださいませ!」
衛兵たちが、私を取り押さえようとじりじりと距離を詰めてくる。林淑妃と趙秀英が、顔面蒼白で私を見つめている。助けたくても、動けない。動けば共犯とされるだろう。私は完全に孤立していた。これが、彼女の描いた完璧な筋書き。
万事休すかと思われた、その時。
「──待て」
低く、しかし場を支配する皇帝・叡明の声が響いた。
衛兵たちの動きが止まる。皇帝は玉座からゆっくりと立ち上がると、騒然とする妃たちを一瞥し、静かに階を降りてきた。彼の足音だけが、大広間に響く。
彼は、苦しみもだえる麗嬪、勝ち誇る張貴妃、そして絶望の淵に立つ私の前を通り過ぎ、中央で立ち止まった。
その氷のような視線が、私を射抜く。
後宮の誰もが、私が引き出され、拷問の末に処刑されるものと信じて疑わなかった。
だが、皇帝の口から発せられた言葉は、皆の予想を裏切るものだった。
「李雪蘭。申し開きは、あるか」
彼は、私に弁明の機会を与えた。その真意は分からない。だが、これが最後の好機であることだけは確かだった。
恐怖で震えそうになる膝に、ぐっと力を込める。私はゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばした。私の頭脳は、この絶望的な状況を覆すための一筋の光を求めて、猛烈な速度で回転を始めていた。
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