隻腕の聖女

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王の野望編

第22話

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「たかが人間と見縊みくびっていた。
 これほどの魔力を使う人間がいるとはな。」
ザヴァンはそう言いながらも余裕の笑みを浮かべた。
きっと何度やっても同じだろう。
先ほどの一撃で仕留めるつもりだったので、かなり力を使ってしまった。
何か突破口を見つけないと、すぐにこちらの魔力は尽きてしまうだろう。

私は、とりあえず魔力を温存するために剣を抜いた。
ガイツとアリウスも、私のそれに合わせて剣を抜く。

「聖女様、どうした?攻撃を外したのか?」
状況を理解できないガイツが私に聞いてきた。

「いえ、奴の弱点は心臓の辺りのはず。
 ちゃんと命中したのに、また復活してきたの。
 奴にはきっと何かほかの悪魔と違う力がある。」
私はガイツとアリウスに私が考察したことを述べた。

「分かった。俺たちで時間稼ぎするから、
 なんとかならないか考えてみよう。」
そう言って、ガイツがザヴァンに切りかかった。

ザヴァンはハエでも払うかのようにガイツをあしらう。
ようやく気持ちを切り替えたのか、
アリウスもザヴァンに向かっていった。

私は、考えた。

弱点は、確かにザヴァンの左胸に今も確かに見える。
数匹の悪魔達を、その場所を撃ち抜いて倒してきたのだ。
今更あれが偶然だったなどということはないはず。

やはり、ザヴァンだけが特殊な能力、肉体を持つのだろう。
ザヴァンと他の悪魔の違い・・・。

体が大きいこと?
いや、そんなことじゃないはず。
ザーロだって同じくらい大きかった。

この場所?
辺りを見渡してみても、
特に悪魔に有利になりそうなものは見当たらなかった。

しかし、私はあることに気が付いた。
玉座の横に立っているローブの人影。

動きがないから存在を忘れていたが、
今もまだその場所で佇んでいた。

眠っているとか、
恐怖で動かないとかそんな感じじゃない。
ただ、動かないのだ。
大切なものでも守っているかのように・・・。

「イヴまだか?」
ザヴァンの一方的な展開にガイツが音を上げる。

よくよく、見てみれば、
ローブを着た人影の右胸にも赤黒い炎が見える。

悪魔だ。

私は剣を握りしめて、玉座の方へと走り出した。

私の不自然な行動にガイツとアリウスは驚いたようだが、
ザヴァンは、私を行かせまいと追ってきた。

「貴様、どこに行くつもりだ。」
ザヴァンは余裕を装いながらも、顔を引きつらせていた。
私は、その表情で確信した。

ザヴァンは大男故に歩幅も大きく、私はすぐに追いつかれた。

私は、ザヴァンの攻撃を剣で制しながら躱して、
徐々に後退しながら玉座へと近づいて行く。

ガイツとアリウスも私の意図を理解したのか、
ザヴァンを後ろから攻撃して気を引こうとした。
しかし、彼はそんな二人をものともせず、
私だけに攻撃を集中させた。

いよいよローブの人物がすぐ後ろに近づいてくる。
左手の力を使おうとするも、ザヴァンは攻撃の手を休めない。
私に魔力を使わせないようにと、もはや必死になっていた。

「ヴェダ、逃げろ。」
ザヴァンが私を攻撃しながら叫ぶ。
急に我に戻ったかのように、
ヴェダと呼ばれた人物は動き出した。

逃げようとするヴェダを、ガイツとアリウスが切りつける。
ローブが切り裂かれて、ヴェダの姿があらわになった。

ザヴァンにそっくりだけど、小柄で、若そうだった。

私がヴェダの姿を確認したその時、
私は壁際に追い詰められて、回避する場所を失った。

ザヴァンの左腕の一撃を、剣で一度は受け止めるも、
それ以上の身動きが取れなくなり、
そのまま繰り出された彼の右腕が私のわき腹に直撃した。

私は吹き飛び、部屋の隅へと追いやられた。
ザヴァンは脇目も振らず、私を追いかけてくる。

私はわき腹の痛みに耐えつつ上体を起こし、
剣を捨てて、左手に力を集中させた。
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