隻腕の聖女

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7つの断章編

第13話

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空から、少女を乗せたリスバートが降りてくる。
私は立ち上がって二人を迎えた。

「あなた凄いのね。ところで、あなた名前は?」
私は少女に尋ねてみた。
少女は黙って恥ずかしそうにうつむく。
「そっか、私から名乗るのが礼儀ね。
 私はイヴ。
 このおねぇさんがベアトリス。
 そして、さっきあなたを乗せて飛んだおじさんがリスバート。」
「さっきから、おじさんって・・・。」
リスバートが、不満そうに割り込むが、
彼を制して、私はさらに言葉を続けた。

「私は人間だけど、
 ベアトリスも、リスバートも悪魔なの。
 あなたとは仲良くできると思うわ。」
私は少女の緊張を解くために笑いかけた。

「レイリア。」
少女がポツリと言った。

私は少女が言った聞きなれない言葉に、思わず聞き返してしまった。

「私の名前。レイリア。」
そう言われて、私はようやく少女が言った言葉の意味が分かった。

「ごめんなさい、レイリア。
 よろしくね。」
再びレイリアに笑いかけると、少女は、はにかんで応えてくれた。

「なんでこんなところにいた?」
急に、ベアトリスが威圧的な態度で、
レイリアを見下ろしながら割り込んでくる。
少女は、また怯えた表情に変わった。

「ちょっと、あなたバカなの?」
いつぞや、ベアトリスに言われた言葉を返した。

「レイリアが怖がってるでしょ?」
私の言葉に、ベアトリスは私を睨んみつけるだけで答え、
レイリアをさらに問い詰める。

「答えな。なんでこんなところにいた。誰の使者だ。」
ベアトリスが更に威圧するようにレイリアへとにじり寄る。

可哀想に、レイリアは殴られるとでも思ったのか、
頭を両手でかばって縮み込んでしまった。

「やめなさいって。
 これ以上詰めても答えないわよ。」
私はベアトリスとレイリアの間に割り込んだ。

ベアトリスは、視線をそらして、舌打ちをした。

「気を付けな。そいつはルザーフの使い魔かもしれない。」
ベアトリスは、私がギリギリ聞き取れる程度の小さな声で話した。

「そんな。」
私はレイリアを見た。
こんな怯えきった少女がルザーフの使い魔?

確かに状況だけを見れば、こんなところに一人でいる悪魔なんて、
ルザーフの使い魔くらいしかいないと言われれば、そうも思える。

「それじゃあ、あのカマキリは一体なんだったの?」
私が聞くと、ベアトリスは黙った。
ベアトリスも状況を把握できているわけではないようだ。
彼女は、疑わしくば排するという考えなのだろう。

もし、本当にレイリアがルザーフの使い魔だとするならば、
早々に断章を奪ってしまおうと思うのではないだろうか。
だけど、この少女は断章のことなど、まるで知らないかのようだ。
やっぱり、洞窟へは迷い込んだだけなのかもしれない。

「とりあえず、そいつは追い返せ。
 身元の分からない奴を近くに置いておくのは危険だ。」
ベアトリスは、なんて冷たいのだろう。
しかも、わざわざレイリアにも聞こえる声で言い放った。

それとも、私が悪魔の本性を知らな過ぎるだけなのだろうか?

判断が付きかねる私は、リスバートに視線で助けを求めた。

「まぁまぁ、この子がいないとあいつは倒せなかったんだから。
 それに、見ただろう?弱点を射抜けば一撃で相手を倒せる力。
 利用しない手はないだろう。」
私は少し安心した。リスバートは擁護派のようだ。

「あの、私、帰る家もないんです。
 一緒に連れて行ってくれませんか?」
レイリアが悲しそうな表情で私たちを見つめる。

「ほら、この子も一緒に来たがっている。
 連れてってやろう。」
リスバートが後押しする。
私はベアトリスを何も言わず見つめた。

「分かったよ。
 確かにあたしの力が戻るまでは利用する価値はある。
 ただし、不審な動きを見せたらすぐ叩き出すからね。」
唯一の反対者であるベアトリスから初めて出た肯定的な言葉に、
レイリアは、ぱっと明るい表情を見せた。

「改めて、よろしくねレイリア。」
私は三度レイリアに微笑みかける。

「あと、あんたに構っていられる余裕はないんだ。
 自分の身は、自分で守りな。」
ベアトリスはそう言いながら洞窟の奥へと向かった。
一貫してレイリアには厳しいようだ。

やれやれ。
私は、ため息を吐きながらベアトリスの後を追った。
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