隻腕の聖女

KURO.DIGITAL

文字の大きさ
68 / 121
7つの断章編

第18話

しおりを挟む
道のない道を、滑落しないよう、
木にしがみついたり、地面を這うようにしながら登っていく。

山の中腹まで差し掛かった辺りで、リスバートが待っていた。

「遅かったじゃないか。大分待ったぞ。」
リスバートが高笑いする。

この時ばかりは、彼の高笑いに本当に腹が立ったので、
軽く拳を握って、リスバートに向かって突き出す。

彼も、戦闘に向いていないとはいえ、
この程度のパンチは、軽く受け流されてしまった。

私も、本気で殴ろうなどと思っていなかったので、
そのまま彼の横を通りすぎたのだが、

直後、ボフッという音と、リスバートのうめき声が聞こえた。

振り返ってみると、ベアトリスの右アッパーが彼の腹部に食い込んでいた。

「少々ふざけただけじゃないか。
 やるべきことをしっかりやっているのに、この仕打ちは酷い。」
リスバートがよろめきながら後ずさる。

「あたしも少々ふざけただけだよ。」
今度はベアトリスが高笑いする。

「仲間割れはやめてよね。
 私達そんなことしている暇はないんだから。」
私は少し声を張り上げて二人を止めた。

「気にするな。こんなの日常だ。」
ベアトリスが言う。
「日常!?」
リスバートが大げさな声を上げて驚く。

「バルゼビア、君はもう少し穏やかな性格になったほうがいい。」
「リスバート、あんたはもう少し黙ったほうがいい。」
二人の言い合いは平行線で、何一つ進展しなかった。

そして、私はその光景を見て、あぁ、本当に日常なんだなと理解し、
二人が言い争う声も特に気にならなくなった。

少し歩くと、猛烈な熱風が吹き出いてきた。

「熱いな。うるさい鳥でも焼いて食べれそうだ。」
ベアトリスが口喧嘩の延長をしながら言う。

よく見れば、周囲の木々の葉は、
熱波で茶色く変色し、枯れてしまっている。

「しかし、冗談じゃないな、この熱さ。」
リスバートが呟くように言った。

「これも、悪魔のせい?」
私がそう呟いた直後、先頭を歩いていたベアトリスが、
何かに気付いて立ち止まり、私達を制止した。

「なんてこった。
 あたしとしたことが、しくじった。」
私は意味が分からず、「どういう意味?」と聞きながら
ベアトリスの視線の先を伺った。

数メートル先、茶色く変色した葉の降り積もる地面が、わずかに動いている。

最初は、立ち上る熱気で視界が揺れてでもいるのだろうと思ったが、
地面は、動いたり止まったりしている。
まるで生きているようだ。

もしかして・・・。

それが一体何なのか気付くのとほぼ同時に、
は、私達に迫ってきた。

動いていたものは地面ではなく、茶色い外皮の大きな蛇だった。

茶色い葉に紛れていた大蛇が巻く輪の中へと、
私達は足を踏み入れてしまっていたのだ。

私とベアトリスは蛇に絡みつかれて、締め付け上げられる。

リスバートが咄嗟にレイリアを抱えて飛び上がってくれていたため、
二人は無事のようだ。

「このような場所に何の用だ。断章を奪いに来たか?」
蛇型の悪魔が口を開いた。
口から吐き出される熱気で、
周囲の熱さは、この悪魔の仕業だと確信した。

「そんなものに興味はないから、逃がしてくれないか。」
ベアトリスが相手の締め付けから逃れようと嘘と吐く。

「断章を持ちながらそのような嘘が通るとでも思っているのか?」
蛇型の悪魔が断章の気配を感じたのか、ベアトリスの嘘を見破る。

「分かってるんなら、最初から聞くなよ。」
ベアトリスが苦しそうな息づかいで答えた。

と、突如、どこからか現れたカマキリ型の悪魔の鎌が、
蛇型の悪魔に切りかかる。

鎌は蛇の体に深々と刺さり、
大きな傷跡を残した。

そのお陰で、蛇型の悪魔の締め付けが一瞬緩み、
その一瞬を突いて、私とベアトリスは抜け出した。

「まだ仲間がいたとはな・・。」

カマキリ型の悪魔の突然の登場に感謝しながらも、私は困惑した。

以前倒したはずのカマキリ型の悪魔がなぜここに?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

乙女ゲームのヒロインなんてやりませんよ?

喜楽直人
ファンタジー
 一年前の春、高校の入学式が終わり、期待に胸を膨らませ教室に移動していたはずだった。皆と一緒に廊下を曲がったところで景色が一変したのだ。  真新しい制服に上履き。そしてポケットに入っていたハンカチとチリ紙。  それだけを持って、私、友木りんは月が二つある世界、このラノーラ王国にやってきてしまったのだった。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...