隻腕の聖女

KURO.DIGITAL

文字の大きさ
80 / 121
7つの断章編

第30話

しおりを挟む
ヴィアの村に戻り、危険はなくなったことを村人に伝えると、皆喜んでくれた。

前回、悪魔の脅威に曝されていなかったこの村でも、
無事に、退と呼ばれることになった。

ここでは、十邪星を倒したことはそこまで広まっていなかったらしく、
そのことについて触れる者は、幸い居なかった。

そして、その夜、次の行き先を示すコンパスの針に、
私は憂鬱な気持ちになり、なかなか寝付けずにいた。

コンパスの針が指したのは西、
ロスタートを倒したフルトの街がある方角だ。

レイリアにいつかは伝えないとならないとは思うが、
そのタイミングは今ではないと思う。

その日は、レイリアも考え事をしていて寝付けないようで、
私達は、真っ暗な部屋の中で天井を見つめて黙っていた。

やがて、どこかに行っていたベアトリスが部屋に帰ってきた。

「なんだ、起きていたのか。」
最初は、私に話しかけたのかと思ったが、
どうやら、レイリアに話しかけたようだ。

私は、目を閉じて、二人の会話を盗み聞きした。

「あの親子を倒すことが、正しいことだったのか分からなくて・・・。」
レイリアが寝ているであろう私を気遣ったのか、小さな声で言う。

「そんなこと気にしていたのか?
 相手は、レイリア、お前にも攻撃をしてきたんだぞ?」

「それは、私があの人の子達の命を奪ってしまったから・・・。」
レイリアは思い詰めた声で言う。

「その、子供たちだって攻撃はしてきただろう?」
ベアトリスは迷いもなく言い返す。

「きっとあの場所はあの人たちの大切な家だったのかも。」

「そうかもな。だけど、話もせずに急に攻撃するのはおかしいと思わないか?」

「・・・・。」
ベアトリスの言葉に、レイリアは言葉を失った。

「騙されていたにしろ、本意にしろ、
 戦いを始めると決めたのはあいつらでもある。
 誰かに攻撃をするってことは、反撃されてもかまわないってことだ。
 もちろん、攻撃されたからって攻撃し返していいわけでもないが、
 その覚悟は持っていたはずだ。」

言葉の整理に時間がかかるのか、レイリアは口を開かない。

「もし、ロスタートが誰かに倒されていたとしても、
 それが、両者で攻撃しあったうえでの敗北ならば、
 相手を責める筋合いはないだろう。」

私は少し強引なベアトリスの話の持って行き方に、
寝ている体であることを忘れて、思わず声が出そうになった。

「イヴおねぇさんのことを言ってるんですか?」
私はレイリアの言葉に心臓が飛び出すほどに驚いた。
もしかして、レイリアはロスタートのことを最初から知っていたのだろうか?

「やっぱり、知っていたのか。
 あたしたちと、イヴ達、つまり人間とは、
 恐ろしく古い時代からの因縁があるからね。
 でも、それだって、あたしたちと人間の寿命や種族の違いを
 しっかり見極めた上で主張しないと、
 関わりのない人間を巻き込んで憎しみや苦しみを生み出すことになりかねない。
 いや、実際そうなっていた。
 ロスタートにしてみれば最初に攻撃を仕掛けたのはだが、
 にしてみれば、先に攻撃を仕掛けたのはロスタートさ。
 だからこそイヴとロスタートは戦うことになった。
 そこには何やらよくわからない奴の思惑が噛んだりもしてはいたから単純ではないが・・・。」

ベアトリスは人間と悪魔の問題の核心をよく理解している私は思った。
彼女が積極的に人間から魔力を搾り取ることをしなかったのはそのためだろう。

そして、そのやり方に反対していたから、
当時、人間達から搾取を行っていたアルケスたちとはたもとを分けていたのかもしれない。

「あたしが正しかったのか、ロスタート達が正しかったのか、
 はたまたイヴが正しかったのか。
 今でもあたしには分からないんだけどね。 
 ただ一つ言えることは、
 それぞれが、それぞれの判断を信じていた。
 当人が判断したことに、他人が文句言うなんて図々しいと思わないか?」

少し力技のような気もするが、
レイリアは少し不満は残っているものの、納得してくれたようだ。

「まぁ、あたしの特技は騙して誤った判断をさせることだから、
 こんなことを偉そうに語れる義理はないんだけどね。」
ベアトリスはその場を和ませるためなのか、明るく振る舞う。

「明日、疲れが残るとまずいだろう?
 今日はもう考えるのはやめて眠るんだな。
 少し考えたくらいで真理にたどり着けるなら、
 とうの昔に、あたしたちはもっと正しく生きれるとおもわないか?」

ベアトリスは、その言動から粗野なのかと思ったら、
意外と思慮深く、それでいて、諦めの見切りも一流だ。

彼女の言葉に説得されたわけではないが、
おとなしく考えることを止めると、
そう時間がかからず、眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...