隻腕の聖女

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7つの断章編

第30話

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ヴィアの村に戻り、危険はなくなったことを村人に伝えると、皆喜んでくれた。

前回、悪魔の脅威に曝されていなかったこの村でも、
無事に、退と呼ばれることになった。

ここでは、十邪星を倒したことはそこまで広まっていなかったらしく、
そのことについて触れる者は、幸い居なかった。

そして、その夜、次の行き先を示すコンパスの針に、
私は憂鬱な気持ちになり、なかなか寝付けずにいた。

コンパスの針が指したのは西、
ロスタートを倒したフルトの街がある方角だ。

レイリアにいつかは伝えないとならないとは思うが、
そのタイミングは今ではないと思う。

その日は、レイリアも考え事をしていて寝付けないようで、
私達は、真っ暗な部屋の中で天井を見つめて黙っていた。

やがて、どこかに行っていたベアトリスが部屋に帰ってきた。

「なんだ、起きていたのか。」
最初は、私に話しかけたのかと思ったが、
どうやら、レイリアに話しかけたようだ。

私は、目を閉じて、二人の会話を盗み聞きした。

「あの親子を倒すことが、正しいことだったのか分からなくて・・・。」
レイリアが寝ているであろう私を気遣ったのか、小さな声で言う。

「そんなこと気にしていたのか?
 相手は、レイリア、お前にも攻撃をしてきたんだぞ?」

「それは、私があの人の子達の命を奪ってしまったから・・・。」
レイリアは思い詰めた声で言う。

「その、子供たちだって攻撃はしてきただろう?」
ベアトリスは迷いもなく言い返す。

「きっとあの場所はあの人たちの大切な家だったのかも。」

「そうかもな。だけど、話もせずに急に攻撃するのはおかしいと思わないか?」

「・・・・。」
ベアトリスの言葉に、レイリアは言葉を失った。

「騙されていたにしろ、本意にしろ、
 戦いを始めると決めたのはあいつらでもある。
 誰かに攻撃をするってことは、反撃されてもかまわないってことだ。
 もちろん、攻撃されたからって攻撃し返していいわけでもないが、
 その覚悟は持っていたはずだ。」

言葉の整理に時間がかかるのか、レイリアは口を開かない。

「もし、ロスタートが誰かに倒されていたとしても、
 それが、両者で攻撃しあったうえでの敗北ならば、
 相手を責める筋合いはないだろう。」

私は少し強引なベアトリスの話の持って行き方に、
寝ている体であることを忘れて、思わず声が出そうになった。

「イヴおねぇさんのことを言ってるんですか?」
私はレイリアの言葉に心臓が飛び出すほどに驚いた。
もしかして、レイリアはロスタートのことを最初から知っていたのだろうか?

「やっぱり、知っていたのか。
 あたしたちと、イヴ達、つまり人間とは、
 恐ろしく古い時代からの因縁があるからね。
 でも、それだって、あたしたちと人間の寿命や種族の違いを
 しっかり見極めた上で主張しないと、
 関わりのない人間を巻き込んで憎しみや苦しみを生み出すことになりかねない。
 いや、実際そうなっていた。
 ロスタートにしてみれば最初に攻撃を仕掛けたのはだが、
 にしてみれば、先に攻撃を仕掛けたのはロスタートさ。
 だからこそイヴとロスタートは戦うことになった。
 そこには何やらよくわからない奴の思惑が噛んだりもしてはいたから単純ではないが・・・。」

ベアトリスは人間と悪魔の問題の核心をよく理解している私は思った。
彼女が積極的に人間から魔力を搾り取ることをしなかったのはそのためだろう。

そして、そのやり方に反対していたから、
当時、人間達から搾取を行っていたアルケスたちとはたもとを分けていたのかもしれない。

「あたしが正しかったのか、ロスタート達が正しかったのか、
 はたまたイヴが正しかったのか。
 今でもあたしには分からないんだけどね。 
 ただ一つ言えることは、
 それぞれが、それぞれの判断を信じていた。
 当人が判断したことに、他人が文句言うなんて図々しいと思わないか?」

少し力技のような気もするが、
レイリアは少し不満は残っているものの、納得してくれたようだ。

「まぁ、あたしの特技は騙して誤った判断をさせることだから、
 こんなことを偉そうに語れる義理はないんだけどね。」
ベアトリスはその場を和ませるためなのか、明るく振る舞う。

「明日、疲れが残るとまずいだろう?
 今日はもう考えるのはやめて眠るんだな。
 少し考えたくらいで真理にたどり着けるなら、
 とうの昔に、あたしたちはもっと正しく生きれるとおもわないか?」

ベアトリスは、その言動から粗野なのかと思ったら、
意外と思慮深く、それでいて、諦めの見切りも一流だ。

彼女の言葉に説得されたわけではないが、
おとなしく考えることを止めると、
そう時間がかからず、眠りに落ちた。
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