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7つの断章編
第40話
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「まさか、あれがルザーフの使い魔?」
あまりの巨体に、私は面食らってしまった。
体長は恐らく100mほどあろうかという巨体で、
今まで見た中で一番大きな悪魔だった。
踏みつけられただけでひとたまりもないであろうその巨体は、
私達をぼんやりと見下ろしていた。
ベアトリスが緊張で固唾を呑み込む。
「断章を奪い去ったのはお前たちか?」
太く、辺り一面に響く声で、巨体の主が私達に語り掛けて来た。
「だとしたら?」
ベアトリスが敵に隙を見せないためか、強い語気で返した。
「今すぐ返せば何も言うまい。」
巨体の主は冷静な態度でそう言うと、
大きな手を私達に差しのべて来た。
返す?断章は台座にあったというのに、
既に自分のものにしたつもりだったのだろうか?
相手の、冷静ながらも図々しい態度にムカついたものの、
力ではとても敵いそうにないことを察して、
私は皮袋に手をやり、断章を手に取った。
すると、ベアトリスは、私に向かって首を振り、
渡してはいけないと目で訴えてきた。
彼女は戦うつもりなのだろうか?
いくら手練れの彼女であっても、
今、穏やかに差しのべられているこの手で、
ハエでも叩くかのように潰されてしまうのがオチだ。
レイリアにしてもそうだ。
今回ばかりは、レイリアの攻撃がいかに強力であったとしても、
この巨体では流石に倒せないだろう。
人間で言えば、針でつついた程度の痛みに終わるに違いない。
つまり、私達に勝ちの目などない。
「断章をいくつか持っているようだな。
全部渡してもらおうか。」
巨体の主の言葉は、私を絶望的な気持ちに陥れた。
最も恐れていたことが起きてしまったからだ。
最悪の場合、ここで手に入れた断章1つを渡せば、
他は見過ごされるのではないかと踏んでいたのだが、
他にも断章を持っていることまでバレてしまった。
せっかく6つも集めたのに、ここで全てを奪われてしまえば、
これまでの旅、全てが台無しだ。
だとしても、今ここで命を失くしてしまうよりはましだ。
ここで命を失くしてしまえば、希望はゼロになってしまうのだから。
「まだ、最後の一個があるわ。
全部揃わなければ意味がないのだから、
それにかけてもいいんじゃない?
あいつを倒すのは無謀よ。」
私の言葉にベアトリスは迷いだした。
自信家のベアトリスでも、流石に今回ばかりは危険だと感じてはいるのだろう。
「屈辱的だが、それしかないか。」
ベアトリスは、そう言ってコンパスをチラとみる。
「やっぱりダメだ。断章は渡せない。」
急に気が変わったのか、ベアトリスは巨体の主に視線を戻した。
「どうして?なにがあったの?」
私は、ベアトリスの背中に問いかけた。
「コンパスが動いてない。
壊れたのか、最後の断章は既に台座にないと考えられる。
どちらにしても最悪の状況しか思い浮かばない。」
コンパスが壊れていたとしたら、最後の1つもルザーフに先を越されるかもしれず、
既に台座にないとするならば、ルザーフの手元にあると考えるのが自然だ。
つまり、ここで6つ渡してしまえば、
ルザーフの手に、7つ全てが渡ってしまうことになるのは、
時間の問題ということだ。
「そんな・・・。」
最悪だ。最悪なタイミングでの敗北。
これまでやってきたことがすべて無に帰してしまう。
そんな時、レイリアが沈黙を破った。
「皆さんの力を、私に貸してくれませんか?」
レイリアが自分から発言することなどあまりないため、
私達の視線はレイリアに集中した。
「あたしたちの運命を、あんたに預けろって?」
ベアトリスが、少しイラついたような口調で言った。
「みんなの力を合わせれば、きっとうまくいきます。」
レイリアは強い眼差しで私達に訴える。
「乗ろう。私は、それでいい。」
リスバートがレイリアに歩み寄り彼女の左肩に触れた。
「私は元々戦闘向きじゃあないんでね。
力を貸すくらいしかできない。」
レイリアが何をするつもりなのかは分からないが、
今は彼女を信じて力を託すことくらいしか私には出来ない。
いや、信じなければいけないと、私は感じていた。
「私も託します。この力。」
私は、レイリアと向かい合って、
彼女と右手を繋ぎ、彼女に力を流し込んだ。
「分かったよ。あたしも、あんたを信頼する。」
私達がレイリアの案に乗ったからなのか、
ベアトリスも、諦めてレイリアの右肩に触れた。
レイリアの魔力が高まっていき、
彼女の体全体から赤黒い光が溢れ出した。
「それは、敵対心と見て相違ないな?」
今までとは違い、怒りの混じった声が、地面を揺らして響く。
もう後には引けない。
レイリアに更に私達の魔力が集まり、
いままでに見たことがない、黄色のオーラを纏う。
魔力の高まりと共に、
心なしか、背も高くなったような気がする。
いや、確実に大きくなっている。
私達と遜色ない、大人の体つきになり、
顔も今までのような、人間に似たそれとは違う。
まるで、キツネのような顔だ。
一言で表すなら妖狐と言ったところか。
これが、彼女本来の姿なのだろう。
「私を信じてくれてありがとう。
少し、離れていてください。」
私達は、レイリアから離れた場所に移動し、
遠巻きに見守った。
巨体の主は、左手を大きく振りかぶり、レイリアに向けて振り下ろす。
レイリアも左手を敵に向けて翳し、魔力を集中し始めた。
彼女の全身が、バチバチと音を立てる電気で覆われた。
巨大な拳がこちらに迫ってくる。
レイリアの左手が黄色に眩く光り、まるで黄金のようだ。
その吸い込まれそうな綺麗な光を眺めていると、
何故だか、すごく落ち着いた。
きっと大丈夫だ。
普通なら、敵のあまりの強大さに怖気づいてしまうところなのだろうが、
私は、謎の安心感に包まれていた。
温かい黄金の光に包まれ、
神々しいオーラを纏ったレイリアこそが、真の聖女様のようだった。
やがて、レイリアの手元から、線のようにか細い光が、
こぼれるように直進し、巨体を貫通した。
しかし、いまだに敵の拳は止まらない。
隕石のような拳が、レイリアの頭上に迫る。
直後、目を開けていられないほどの閃光と、衝撃波が周囲を包んだ。
私は目を瞑って、胸に右手を置いて祈る。
大丈夫、怖いことなどない。
どれほど時間が経っただろうか、短かったような長かったような時間が終わると、
ゴロゴロという爆音と共に、立っていられないほどの地震に襲われた。
目を開けると、レイリアが少女の姿に戻り、前のめりに倒れるところと、
山を越えるほどの巨体が半分ほど消滅し、後ろに倒れて海に消えていくのが見えた。
戦いは終わったのだ。
あまりの巨体に、私は面食らってしまった。
体長は恐らく100mほどあろうかという巨体で、
今まで見た中で一番大きな悪魔だった。
踏みつけられただけでひとたまりもないであろうその巨体は、
私達をぼんやりと見下ろしていた。
ベアトリスが緊張で固唾を呑み込む。
「断章を奪い去ったのはお前たちか?」
太く、辺り一面に響く声で、巨体の主が私達に語り掛けて来た。
「だとしたら?」
ベアトリスが敵に隙を見せないためか、強い語気で返した。
「今すぐ返せば何も言うまい。」
巨体の主は冷静な態度でそう言うと、
大きな手を私達に差しのべて来た。
返す?断章は台座にあったというのに、
既に自分のものにしたつもりだったのだろうか?
相手の、冷静ながらも図々しい態度にムカついたものの、
力ではとても敵いそうにないことを察して、
私は皮袋に手をやり、断章を手に取った。
すると、ベアトリスは、私に向かって首を振り、
渡してはいけないと目で訴えてきた。
彼女は戦うつもりなのだろうか?
いくら手練れの彼女であっても、
今、穏やかに差しのべられているこの手で、
ハエでも叩くかのように潰されてしまうのがオチだ。
レイリアにしてもそうだ。
今回ばかりは、レイリアの攻撃がいかに強力であったとしても、
この巨体では流石に倒せないだろう。
人間で言えば、針でつついた程度の痛みに終わるに違いない。
つまり、私達に勝ちの目などない。
「断章をいくつか持っているようだな。
全部渡してもらおうか。」
巨体の主の言葉は、私を絶望的な気持ちに陥れた。
最も恐れていたことが起きてしまったからだ。
最悪の場合、ここで手に入れた断章1つを渡せば、
他は見過ごされるのではないかと踏んでいたのだが、
他にも断章を持っていることまでバレてしまった。
せっかく6つも集めたのに、ここで全てを奪われてしまえば、
これまでの旅、全てが台無しだ。
だとしても、今ここで命を失くしてしまうよりはましだ。
ここで命を失くしてしまえば、希望はゼロになってしまうのだから。
「まだ、最後の一個があるわ。
全部揃わなければ意味がないのだから、
それにかけてもいいんじゃない?
あいつを倒すのは無謀よ。」
私の言葉にベアトリスは迷いだした。
自信家のベアトリスでも、流石に今回ばかりは危険だと感じてはいるのだろう。
「屈辱的だが、それしかないか。」
ベアトリスは、そう言ってコンパスをチラとみる。
「やっぱりダメだ。断章は渡せない。」
急に気が変わったのか、ベアトリスは巨体の主に視線を戻した。
「どうして?なにがあったの?」
私は、ベアトリスの背中に問いかけた。
「コンパスが動いてない。
壊れたのか、最後の断章は既に台座にないと考えられる。
どちらにしても最悪の状況しか思い浮かばない。」
コンパスが壊れていたとしたら、最後の1つもルザーフに先を越されるかもしれず、
既に台座にないとするならば、ルザーフの手元にあると考えるのが自然だ。
つまり、ここで6つ渡してしまえば、
ルザーフの手に、7つ全てが渡ってしまうことになるのは、
時間の問題ということだ。
「そんな・・・。」
最悪だ。最悪なタイミングでの敗北。
これまでやってきたことがすべて無に帰してしまう。
そんな時、レイリアが沈黙を破った。
「皆さんの力を、私に貸してくれませんか?」
レイリアが自分から発言することなどあまりないため、
私達の視線はレイリアに集中した。
「あたしたちの運命を、あんたに預けろって?」
ベアトリスが、少しイラついたような口調で言った。
「みんなの力を合わせれば、きっとうまくいきます。」
レイリアは強い眼差しで私達に訴える。
「乗ろう。私は、それでいい。」
リスバートがレイリアに歩み寄り彼女の左肩に触れた。
「私は元々戦闘向きじゃあないんでね。
力を貸すくらいしかできない。」
レイリアが何をするつもりなのかは分からないが、
今は彼女を信じて力を託すことくらいしか私には出来ない。
いや、信じなければいけないと、私は感じていた。
「私も託します。この力。」
私は、レイリアと向かい合って、
彼女と右手を繋ぎ、彼女に力を流し込んだ。
「分かったよ。あたしも、あんたを信頼する。」
私達がレイリアの案に乗ったからなのか、
ベアトリスも、諦めてレイリアの右肩に触れた。
レイリアの魔力が高まっていき、
彼女の体全体から赤黒い光が溢れ出した。
「それは、敵対心と見て相違ないな?」
今までとは違い、怒りの混じった声が、地面を揺らして響く。
もう後には引けない。
レイリアに更に私達の魔力が集まり、
いままでに見たことがない、黄色のオーラを纏う。
魔力の高まりと共に、
心なしか、背も高くなったような気がする。
いや、確実に大きくなっている。
私達と遜色ない、大人の体つきになり、
顔も今までのような、人間に似たそれとは違う。
まるで、キツネのような顔だ。
一言で表すなら妖狐と言ったところか。
これが、彼女本来の姿なのだろう。
「私を信じてくれてありがとう。
少し、離れていてください。」
私達は、レイリアから離れた場所に移動し、
遠巻きに見守った。
巨体の主は、左手を大きく振りかぶり、レイリアに向けて振り下ろす。
レイリアも左手を敵に向けて翳し、魔力を集中し始めた。
彼女の全身が、バチバチと音を立てる電気で覆われた。
巨大な拳がこちらに迫ってくる。
レイリアの左手が黄色に眩く光り、まるで黄金のようだ。
その吸い込まれそうな綺麗な光を眺めていると、
何故だか、すごく落ち着いた。
きっと大丈夫だ。
普通なら、敵のあまりの強大さに怖気づいてしまうところなのだろうが、
私は、謎の安心感に包まれていた。
温かい黄金の光に包まれ、
神々しいオーラを纏ったレイリアこそが、真の聖女様のようだった。
やがて、レイリアの手元から、線のようにか細い光が、
こぼれるように直進し、巨体を貫通した。
しかし、いまだに敵の拳は止まらない。
隕石のような拳が、レイリアの頭上に迫る。
直後、目を開けていられないほどの閃光と、衝撃波が周囲を包んだ。
私は目を瞑って、胸に右手を置いて祈る。
大丈夫、怖いことなどない。
どれほど時間が経っただろうか、短かったような長かったような時間が終わると、
ゴロゴロという爆音と共に、立っていられないほどの地震に襲われた。
目を開けると、レイリアが少女の姿に戻り、前のめりに倒れるところと、
山を越えるほどの巨体が半分ほど消滅し、後ろに倒れて海に消えていくのが見えた。
戦いは終わったのだ。
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