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いつもと違うこと
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「ほんと、中って自由だよね。ぼく、元気が出たよ」
「それは何より」
3人がほんわかしている所で、それは起きた。
「ほら!何やってるの?早くして!」
公園の通りに、大きな声が響いた。3人は最近聞こえてくる、その声が誰なのか知っていた。3人と同じクラスにいる春日 基の母親だ。
放課後を遊んで過ごす3人と違って、基は親の希望で学童に預けられている。1年生の中でも、何人かが「安全のため」という名目で、親の仕事が終わるまで学童保育にいるが、基の最近は母に手を引かれながら帰宅、という日課になっていた。
「基母、また怒っている」
小声で中が呟く。
「てか母ちゃん、迎えに行くの早くね?」
静の言葉に、元は公園の時計を見る。姿は見えないが、声は段々大きくなりもう少しで公園の前の歩道を通るだろう。
「まだ4:00前だ。確かに最近のお迎えは早いかも。でもお母さん、仕事が早く終わったんじゃないの?」
「ばーか、あいつん家パートだぞ。そんなに毎日、早く終わるかよ?」
2人姿が歩道に現れる。母親に手を引かれ、引きずられるように歩く基。見慣れた光景になるが、見ていて気持ちの良いものではない。
「それより、基が気になる」
母の仕事の有無はどうでも良い中が、基を見つめる。
学校でも、すぐに泣きそうな顔をする基。それは、何となく2人も気付いていた。
「あいつん家も、親父いないんだっけ?」
「ううん。いることは、いるみたいだけど…」
静と元が首を傾げるが、それで何が分かるわけではない。
「何でダラダラ歩くの?お母さん忙しいって、いつも言ってるでしょ!」
歩幅の違う母親に引き摺られる基は、やっぱり泣きそうな顔をしていた。
中が小さく溜め息を付く。
すれ違う人に眉を顰められても、全く気にせず、基の母親は早さを変えずに歩いて行く。
「あいつの母ちゃん、いっつも怒ってね?」
静の声には、納得がいかない響きがあった。
「もう、早くしてって、言ってるでしょう!」
ぐいぐいと手を引かれ、上手に歩けないのに「早くしろ」と更に手を引かれる。引かれなければ、基も速足で付いていけたかもしれない。それでも、母親は苛々したように基の小さな体を追い立てる。
「バイバイ、基」
2人が公園の前を通過して見えなくなる前に、中は呼びかける。いつも見ているだけなのに、まさか声をかけると思っていなかった2人はそれに驚いたが、同じように手を振る。
驚いたのは基の母も同じだったようで、体をびくっとさせ歩くのを止める。声をかけられた基もポカンとした表情をしていた。
声をかけた中を見て、そこに静と元がいることを認識すると基の母は急に笑顔を浮かべる。
「あら?こんにちは」
下にいる基を見るが、にこりともしないその顔に母の笑いが固まる。
「この子ってば、この頃こんな感じで変でしょ?学校でもそうなのかしら?それより、ここ最近不審者が増えたって連絡メールが来ていたから、3人とも明るい内に帰るのよ。じゃあね」
基の母親は早口にまくしたてると、中たちの言葉は待たずに速足で歩道を歩きだす。
消えていった歩道を見て、静がぽつりと言う。
「あんな母ちゃん、ぜってー嫌だな」
その言葉に、元が小さく頷いた。中は何も応えず、地面に置いたままのランドセルを手にする。それを見て、2人も無言のままのろのろとランドセルを背負う。
まだ日は残っているが、これから更に夕方が長くなることを3人とも知っていた。4:00で流れる下校用の町内放送を聞きながら、3人は公園から出る。
歩道にはもう2人の姿はない。
各自宅まで5分とかからない距離だが、ゆっくりといつもの場所まで歩く。
さっきまで無駄に話していたのに、3人とも無言だった。さっきの光景を、自分なりに理解しようとしていたから。
「じゃ、また明日」
沈黙にいつも通りに中の声が入った。2人とも顔を上げ、小さく手を挙げる。
「明日、基に話しかけてみる?」
中が提案する。その表情は変わらない。2人は顔を見合わせ、困ったように笑う。
「言い出しっぺが、話しかけろよ」
「あ、やっぱりそうなっちゃう?」
静の言葉に中が淡々と返答する。
「だって、ぼくきっと困っちゃうと思うから」
「大丈夫、困るのはみんな同じ」
中のマイペースに、静が「お前馬鹿か?」と呆れた顔をする。
「中にしかできねーって」
「何で、罰ゲームみたいなノリに?」
「だって、ウチも元も、正直やりたくねーし。気まずいよな?」
言いにくいように静が言うと、元も小さく同意した。
「うん。それならそれで。まいっか」
「それは何より」
3人がほんわかしている所で、それは起きた。
「ほら!何やってるの?早くして!」
公園の通りに、大きな声が響いた。3人は最近聞こえてくる、その声が誰なのか知っていた。3人と同じクラスにいる春日 基の母親だ。
放課後を遊んで過ごす3人と違って、基は親の希望で学童に預けられている。1年生の中でも、何人かが「安全のため」という名目で、親の仕事が終わるまで学童保育にいるが、基の最近は母に手を引かれながら帰宅、という日課になっていた。
「基母、また怒っている」
小声で中が呟く。
「てか母ちゃん、迎えに行くの早くね?」
静の言葉に、元は公園の時計を見る。姿は見えないが、声は段々大きくなりもう少しで公園の前の歩道を通るだろう。
「まだ4:00前だ。確かに最近のお迎えは早いかも。でもお母さん、仕事が早く終わったんじゃないの?」
「ばーか、あいつん家パートだぞ。そんなに毎日、早く終わるかよ?」
2人姿が歩道に現れる。母親に手を引かれ、引きずられるように歩く基。見慣れた光景になるが、見ていて気持ちの良いものではない。
「それより、基が気になる」
母の仕事の有無はどうでも良い中が、基を見つめる。
学校でも、すぐに泣きそうな顔をする基。それは、何となく2人も気付いていた。
「あいつん家も、親父いないんだっけ?」
「ううん。いることは、いるみたいだけど…」
静と元が首を傾げるが、それで何が分かるわけではない。
「何でダラダラ歩くの?お母さん忙しいって、いつも言ってるでしょ!」
歩幅の違う母親に引き摺られる基は、やっぱり泣きそうな顔をしていた。
中が小さく溜め息を付く。
すれ違う人に眉を顰められても、全く気にせず、基の母親は早さを変えずに歩いて行く。
「あいつの母ちゃん、いっつも怒ってね?」
静の声には、納得がいかない響きがあった。
「もう、早くしてって、言ってるでしょう!」
ぐいぐいと手を引かれ、上手に歩けないのに「早くしろ」と更に手を引かれる。引かれなければ、基も速足で付いていけたかもしれない。それでも、母親は苛々したように基の小さな体を追い立てる。
「バイバイ、基」
2人が公園の前を通過して見えなくなる前に、中は呼びかける。いつも見ているだけなのに、まさか声をかけると思っていなかった2人はそれに驚いたが、同じように手を振る。
驚いたのは基の母も同じだったようで、体をびくっとさせ歩くのを止める。声をかけられた基もポカンとした表情をしていた。
声をかけた中を見て、そこに静と元がいることを認識すると基の母は急に笑顔を浮かべる。
「あら?こんにちは」
下にいる基を見るが、にこりともしないその顔に母の笑いが固まる。
「この子ってば、この頃こんな感じで変でしょ?学校でもそうなのかしら?それより、ここ最近不審者が増えたって連絡メールが来ていたから、3人とも明るい内に帰るのよ。じゃあね」
基の母親は早口にまくしたてると、中たちの言葉は待たずに速足で歩道を歩きだす。
消えていった歩道を見て、静がぽつりと言う。
「あんな母ちゃん、ぜってー嫌だな」
その言葉に、元が小さく頷いた。中は何も応えず、地面に置いたままのランドセルを手にする。それを見て、2人も無言のままのろのろとランドセルを背負う。
まだ日は残っているが、これから更に夕方が長くなることを3人とも知っていた。4:00で流れる下校用の町内放送を聞きながら、3人は公園から出る。
歩道にはもう2人の姿はない。
各自宅まで5分とかからない距離だが、ゆっくりといつもの場所まで歩く。
さっきまで無駄に話していたのに、3人とも無言だった。さっきの光景を、自分なりに理解しようとしていたから。
「じゃ、また明日」
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「明日、基に話しかけてみる?」
中が提案する。その表情は変わらない。2人は顔を見合わせ、困ったように笑う。
「言い出しっぺが、話しかけろよ」
「あ、やっぱりそうなっちゃう?」
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「だって、ぼくきっと困っちゃうと思うから」
「大丈夫、困るのはみんな同じ」
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「中にしかできねーって」
「何で、罰ゲームみたいなノリに?」
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「うん。それならそれで。まいっか」
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