42 / 49
あなたが分からないです
①
しおりを挟む
「った…」
酷い頭痛に眉を顰めながら、鉛のように重い上体を起こす。
喉が異様に乾いていて気持ち悪い。
まともに歩くこともままならず、壁に手をつきながらリビングへと向かった。
「っは」
蛇口から直接水を飲んで喉を潤していく。
こんなにも原始的な水の飲み方をしたのは小学生以来かもしれない。
口元をシャツの袖で拭いながらべたついた汗に不快感を感じていると、今更ながらリビングの異変に気が付いた。
大量に散らかっていたはずのゴミが無い。
割った酒瓶の残骸もきれいに片付けられている。
酔っ払って掃除でもしたかと思案していると、ダイニングチェアに見覚えのないジャケットが掛けられているのが目に付いた。
よく見ると明らかに自分のよりもサイズが小さく、女性物にしか見えない。
連れ込んだ女が片付けでもしてくれたか。
勝手に納得して電子タバコを片手にソファへと向かおうとした瞬間、息が止まった。
「っ!」
ソファで猫のように丸まって寝ている彼女がおそらくジャケットの持ち主で、部屋を片付けてくれた張本人だろう。
トレードマークのポニーテールは乱れ、心なしか顔色も悪い。
二度とこの部屋に来ることは無いと思っていた、俺の上司。
「たまき、さん」
環さんは俺の呼びかけに反応して唸り、そろそろと目を開ける。
寝ぼけ眼で俺を見つめている姿に、一番の疑問が口をついて出た。
「なんでここにいるんですか」
掠れた声でそう尋ねると、虚ろだった瞳は次第に開いていく。
「お前、昨日のこと覚えてないのか」
環さんは眉をひそめ、上体を起こしながら質問に質問で返してくる。
「昨日…昨日は村田と飲んで…それから…それからの記憶は…ないです」
そうだ。
昨日は、生きているか死んでいるかも分からない状態で仕事をしていた俺を見かねて、村田が飲みに誘ってくれたんだった。
飲み放題を注文して限界まで酒を飲もうと悪ノリをしたことまでは覚えているが、そこから先の記憶が一切ない。
だが、この頭の痛みから察するに相当飲んだことだけは分かる。
昨日の記憶を断片的に掘り起こしていると、環さんの瞳がどんどん潤んでいることに気付いた。
焦って口を開くが、何をしたか分からない以上言い訳のしようがない。
「昨日、自分が何を言ったかも覚えてないんだな」
「…覚えてないです」
必死で記憶を探ろうと夢中で、思いの外冷たい声色で返事をしてしまったと気付いた時には、環さんの瞳から涙が流れていた。
「…最低」
環さんはそう吐き捨ててジャケットを羽織り、目を潤ませたまま家から出ていった。
酷い頭痛に眉を顰めながら、鉛のように重い上体を起こす。
喉が異様に乾いていて気持ち悪い。
まともに歩くこともままならず、壁に手をつきながらリビングへと向かった。
「っは」
蛇口から直接水を飲んで喉を潤していく。
こんなにも原始的な水の飲み方をしたのは小学生以来かもしれない。
口元をシャツの袖で拭いながらべたついた汗に不快感を感じていると、今更ながらリビングの異変に気が付いた。
大量に散らかっていたはずのゴミが無い。
割った酒瓶の残骸もきれいに片付けられている。
酔っ払って掃除でもしたかと思案していると、ダイニングチェアに見覚えのないジャケットが掛けられているのが目に付いた。
よく見ると明らかに自分のよりもサイズが小さく、女性物にしか見えない。
連れ込んだ女が片付けでもしてくれたか。
勝手に納得して電子タバコを片手にソファへと向かおうとした瞬間、息が止まった。
「っ!」
ソファで猫のように丸まって寝ている彼女がおそらくジャケットの持ち主で、部屋を片付けてくれた張本人だろう。
トレードマークのポニーテールは乱れ、心なしか顔色も悪い。
二度とこの部屋に来ることは無いと思っていた、俺の上司。
「たまき、さん」
環さんは俺の呼びかけに反応して唸り、そろそろと目を開ける。
寝ぼけ眼で俺を見つめている姿に、一番の疑問が口をついて出た。
「なんでここにいるんですか」
掠れた声でそう尋ねると、虚ろだった瞳は次第に開いていく。
「お前、昨日のこと覚えてないのか」
環さんは眉をひそめ、上体を起こしながら質問に質問で返してくる。
「昨日…昨日は村田と飲んで…それから…それからの記憶は…ないです」
そうだ。
昨日は、生きているか死んでいるかも分からない状態で仕事をしていた俺を見かねて、村田が飲みに誘ってくれたんだった。
飲み放題を注文して限界まで酒を飲もうと悪ノリをしたことまでは覚えているが、そこから先の記憶が一切ない。
だが、この頭の痛みから察するに相当飲んだことだけは分かる。
昨日の記憶を断片的に掘り起こしていると、環さんの瞳がどんどん潤んでいることに気付いた。
焦って口を開くが、何をしたか分からない以上言い訳のしようがない。
「昨日、自分が何を言ったかも覚えてないんだな」
「…覚えてないです」
必死で記憶を探ろうと夢中で、思いの外冷たい声色で返事をしてしまったと気付いた時には、環さんの瞳から涙が流れていた。
「…最低」
環さんはそう吐き捨ててジャケットを羽織り、目を潤ませたまま家から出ていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
305
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる