超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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23.恐怖の屋上

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屋上から見える景色は快晴にも関わらず、場の空気はただただ重い。
以前唯と湊くんと八神くんの三人とパンケーキのお店に行った時も重い空気が立ち込めていたが、今回はその比ではない。

屋上の入口で動くこともできず震えている私を庇うようにして目の前に立ってくれている唯。
その奥で肩を寄せ合って心なしか不安そうな顔をしているギャル三人組。
両手を組みながら彼女たちの正面に立ちはだかっている八神くん。

そして、フェンスにもたれかかっている湊くん。

お昼ご飯の時間帯。唯が突然神妙な顔つきで「屋上行くよ」と誘ってきた。
あまりの迫力にただ事ではないと思ってはいたけれど、まさか屋上にこんな風景が広がっているだなんて誰が想像しただろう。

目を白黒させて辺りを見回したところで、ギャル三人組に思いきり睨まれていることに気付きすぐに視線を落とした。
それから今に至るまで、身体の震えは止まらない。さっきお茶を飲んだはずなのに口の中もカラカラになっている。
何が起こっているかまるで分からなかったけど、とにかくこの場を離れたいとだけ思っていた。

「ねえ、早くしてよ」

突然の低い声にびくりと肩が跳ねる。
それが八神くんの声だと認識するまでに随分時間がかかった。
だって、普段の八神くんとはまるっきり声が違う。

「…てかさぁ、人の恋心を利用すんのってサイテーじゃなぁい?」

重い空気を割って女の子の一人が糾弾するように声を上げる。

人の恋心…利用…
全く話が見えない。

「そうだよ!綺羅が大地のこと好きだって知っててカマかけたんでしょ!?ありえないんだけど!」

花音さんが八神くんに食って掛かっている。
彼女たちの甲高い声だけで体の震えは酷くなっていく。両手で身体を抱きしめてもその震えは止まらなかった。

「…夏菜ちゃんを虐めた最低女に言われたくないんだけど」

弾かれたように顔を上げる。
なんで、八神くんがそのことを。

「は?虐めてなんかっ」

『ああ、アイツ?湊と大地に構ってもらおうなんて100万年はやいんだよね。大地だってウチらといた方が釣り合いとれるっしょ?ぷぷ』

「っ」

八神くんがスマホから音声を流す。
ノイズが入っているけど、これは間違いなくギャル三人組のうち一人の声だと思う。

「これは僕が夏菜ちゃんの話題を出したときの綺羅の反応。何か裏がありそうだよね?」

「だから?綺羅はアイツを虐めたとは言ってない。証拠としては不十分なんじゃない?」

八神くんの抑揚のない声色にも食って掛かって応戦している花音さん。

鈍感な私はここでやっと気づいた。
八神くんも、唯も、湊くんも私のためにここにいるんだと。

さっと血の気が引いていく。
私のせいでまたみんなに迷惑をかけてしまった。

明らかに八神くんたちもギャルたちも怒っている。
ギスギスして、場の空気を悪くしている。
私が。
私のせいで。

「証拠ならここにあるよ。ね、夏菜ちゃん」

「…へ?」

急にいつもの調子で八神くんに話しかけられ目をしばたたく。

「夏菜ちゃん、この人たちに脅されたんだよね?だから最近教室でビクビクしてたし、湊も避けてた。違う?」

きっと八神くんたちは私の言葉を待っている。
私の言葉こそが証拠になる。
だけど、真実を告発する勇気は私にはない。

校舎裏での出来事を思い出す。
憎悪のこもった視線。
暴力と悪口。
そして唯への危害を示唆するような発言。

再び身体が震えだす。

「…夏菜、大丈夫だから」

「ゆ、い」

唯に手を握られて、渇いた口からどうにか言葉を絞り出す。この唯一無二の友達を失いたくない。



「夏菜」

「っ」

懐かしい声に名前を呼ばれて鼓動が一気に脈打った。
フェンスにもたれかかっている湊くんはじっとこちらを見ているけど、見つめ返す勇気はない。

ずっと話したかった。
寂しかった。
毎日が空虚で、貰ったプリントを握り締めて涙を流す日もあった。

「夏菜、本当のことを言え」

じりじりと彼が近づいてくる。
足は地面に縫いつけられたように動かず、呼吸も段々と浅くなっていく。

「お前が勇気を出さないと」
「こ、来ないで、ください」

湊くんの歩みが止まる。
心臓の音がうるさい。
みんなに迷惑をかけるくらいなら、この心臓も止まってしまえばいいのに。

「…ぜ、全部みなさんの勘違いだと思います!なんにもないですっ」

心にもない言葉を投げかける。

私が湊くんと関わらければきっとみんな幸せなんだ。
湊くんも以前と同じ日常に戻れる。
唯に危害が加わることもない。

何百回と自分の心に言い聞かせた言葉を再び反芻する。

「こ、来ないでくださいっ!」

みんなの努力もすべて水の泡にして辛辣な言葉を投げかけたはずなのに、湊くんは再びこちらに向かって歩き出した。
近くに来てしまえば、忘れようとしていた気持ちが再び湧いてしまう。

「湊くん、本当です、本当になんにもないんです…!だから、もう放っておいてください…!」

私の必死の制止も虚しく、湊くんは私の目の前に立ちはだかる。
何か言い訳をしようとして口を開いた瞬間、それを制するように湊くんの大きな身体が私を包み込んだ。

「なんにもないなら、なんでそんなに辛そうな顔してんだよ…!」
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