超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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29.想像以上の歌唱力

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音楽の授業で聞くクラスメイト達の歌声は正直苦手だった。
下手なわけじゃない。
歌声の奥底にある感情がネガティブなものばかりで、聞くに堪えなかったから。

―――授業だるいな。
―――歌のテストとかやってらんない。

歌うことに対してみんなは消極的だった。
そんな中で自分だけが歌を楽しむのもはばかられて、結局周りに合わせるように歌っていた。



湊くんの歌声は、そんな彼らとはかけ離れていた。
音程も綺麗に取れているし、そこに湊くんらしさが合わさった、自信に満ち溢れた歌声は今までにない感動を私に与えてくれた。

自分が参考にしている歌い手さん達にも引けを取らない歌唱力だ。
これを投稿したら絶対伸びると思う。

そんなことを考えながらももっと聞いていたいと思っていると、残念ながら曲は終わってしまった。
咄嗟に言葉が出てこなくて一生懸命拍手をしていると、湊くんは器用に片手でくしゃっと私の頭を撫でながら片手で機械を操作している。
湊くんの横顔を見つめながら何と言うべきか思案してみる。

「上手でした!」
…上から目線な気がする。

「すごいです!」
…あまりにも語彙力がなさすぎる。

「基礎的な歌唱力に加え、そこに湊くんの歌声が合わさったことで一つの作品として完成しているかのようでした!」
…のど自慢じゃないんだから。

そんなことを考えていると、先程とは打って変わっておどろおどろしい曲調のイントロが流れてきた。
これ、前回アップしたばかりの曲だ。
聞いてくれてたんだ。

「これなら歌えるだろ」

「は、はい」

自分は優柔不断だから正直湊くんが曲を選んでくれるのは助かる。
歌の感想を言い損ねてしまったなと思いながらもミルクティーで少し喉を潤し、口元にマイクを押し当てた。

***

「夏菜って本当にラギなんだな」

「…はぇ」

いくつかの曲を交互に歌い、すっかり空になってしまったコップに再びアイスティーを注いできてくれた湊くんは、ソファーに腰かけながらぽつりと呟いた。
突然の確認に変な声が出てしまう。

「いや、正直…圧倒されっぱなしだったから。いつもの夏菜からは考えらんねえくらいの自信と熱量でさ、ずっと目が離せねえっつーか」

「あ、ありがとう、ございます…緊張してたから、上手く歌えてたかどうか不安で…」

「お前は上手いとか下手とかそういう次元を超えてんだよ」

「す、すみません…」

「…そんだけの歌唱力があるくせにいっつもビクビクして自信なさげだし」

「それはネットオタクの最たる特徴です!我々ネットの民はネット上でのみイキることが許されているのです」

「?よく分かんねえけど…まあ、もうちょい自分に自信持てよ。俺が保証してやる」

そう言ってニッと笑う湊くんはキラキラ輝いていた。
湊くんに歌唱力のお墨付きを貰って、すっかり私は舞い上がっていた。

「あの、湊くんは…私の歌を上手だと思っていただけるのでしょうか…」

「だからさっきからそう言ってるだろ」

改めて確認して、ゴクリと生唾を飲む。

この人は「夏菜」をよく知っているうえに、「ラギ」としての私の歌唱力も評価してくれている。
相談するなら、彼が適任のような気がする。

「…あの、私の曲、動画サイトで見たことあるんですよね」

「当たり前だろ。自分で見てなくてもクラスの奴らのスマホから勝手に聞こえてくるし」

唾液の量が急激に増える。
室内の温度は少し寒いくらいに設定されているはずなのに、汗が流れる。
もう一度生唾を飲み込んで私は口を開いた。

「わ、わたし…実は、オリジナルの曲を作ったんです」

「は?カバー曲しか出してないだろ?」

「投稿してないんです。いつでも投稿できる状態にはしてあるんですが…」

「カバーよりそっちの方が再生数伸びるだろ、早く投稿しろよ」

「…こ、怖いんです。自信がなくて…この曲が原因で評価が落ちてしまうんじゃないかって」

「歌い手」としての自分と「夏菜」としての自分の乖離かいりに言及した曲。
それは決して明るい曲調のものではない。
しかも自分の殻に篭って悩んでいるだけの歌詞で、大したメッセージ性もない。
ただ、この曲こそが「自分」なのだ。

しかしファンの方が求めているのは、ラギが「ラギ」であり続けること。
歌い手としての自分に夏菜らしさはいらない。

だけど、それでも…
夏菜としての自分も受け入れてもらいたい。

「今音源あるのか」

「へ?あ、あります」

「なら聞かせてみろよ。それが一番話早いだろ」

「え!?い、いいんですか、お時間取らせてしまって」

湊くんが長い脚を組みながら顎をしゃくり上げる。
「早くしろ」ということだろう。
私は急いでスマホを操作し、聞き馴染みのある曲を流し始めた。

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