熱血隊長を雄にしてみせます!!

小村辰馬

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騒々しい、暑苦しい、危なっかしい。
そんな燃え盛った暴走馬車のような隊長に、いとも容易く恋に落ちてしまったことに気付いたのはもう随分前の話だ。

「諸君!!!! 宙を見上げたまえ!!!!!!」
「……雲ひとつ無い快晴っすね」
「その通り!! 本日は絶好の訓練日和だ!!!! 所詮訓練だと慢心せず、常に心は戦場に、そして忠義は我が王国に!! そして主君に!!! 精を持って訓練に励むのだッ!!!!」
「了~~か~~い」
「諸君、声が小さいぞ!!!! その程度の覇気で国の平和を守れると思っているのかッ!!!!」

「……今日も全力で暑苦しいな~ジーク隊長。なぁ、ミリア」
「うん……今日も暑苦しいほどに全力で、素敵だよね……」
「え、えぇ~~」

訓練中、仲のいい同僚に耳打ちされようと、


「団長ーー! アルフォンス団長ーーーーッ!! 此度の任務の采配、過去比類無き見事な手腕にわたくし戦場であるにも関わらず心の臓が震え上がる思いでありましてーー」
「あぁもう暑苦しい。わかったわかった、ありがとう。お前も疲れているだろうからきちんと休養を取れよ」
「ははぁッ! 団長の命! この不肖ジーク、僭越ながら全力で休養に努めさせていただく所存であります!」
「いや努めなくていいから、努めたら休養じゃなくなるから」

「まーたやってるよあの二人」
「……素敵だなぁ」
「えっ?! どこで?!?!」

兵舎の廊下で団長と隊長を見掛け、思わず漏らした言葉に隣にいた仲良しの同僚にドン引きされようと、


「ぎゃぁあああああまた隊長が訓練中に血塗れにーーーー!!!!」
「おいおい今日は意識まで飛んでいらっしゃるぞ……誰が医務室へ連れてくよ?」
「お、俺は嫌だぞ! 血生ぐせーし、何より傷口が惨すぎて直視すらできねぇ……」
「はいっ! はいはーい!! 私連れて行きます!!!!」
「み、ミリアか……いつも悪いな……」


王宮騎士団の中でも有名な困ったさんであるこの隊長のどんな姿を見ようと、胸が高鳴ってしまうのだからもうどうしようもない。
知れば知るほど彼の言動は面白おかしくて目が離せず、けれど信念は決して見当違いなものではなく高潔だ。気付けば何か素っ頓狂な事態を巻き起こしてしまうのも放っておけなくて、庇護欲を誘う。
気付けばいつでもどこでも彼の姿を目で追ってしまい、彼の声が敷地内に響き渡れば心躍る。
これを恋と言わずに何と呼ぼう。

すっかり顔見知りになった衛生兵のお姉さんに隊長の傷を回復してもらい、ベッドへ横たえられた彼を眺める。

かぁっこいいなぁ……

あの性格だ。眠る時までも豪快なのかと思いきや、その姿は存外静かなもので、むしろ大人しい分普段の8割増しくらい男前に見える。
凛々しい眉はそのままだが、普段ならハキハキとお話しする大きなお口も、見るもの全てを射抜くような力強い視線を放つ切れ長の瞳も、今は見る影も無く閉ざされている。
この人から騒々しさと暑苦しさを取ったら、それはもう別人になってしまうんだろうなぁ。
まぁ、それよりも世間一般的な男前度8割減の普段の隊長の方が私は好きなんだけれど。

「むっ?! ここは……」
「あ、隊長。気が付きました?」
「ミリアか……オレはまたもや訓練に夢中になってしまったのか」

起き上がり、頭を抑えながら唸る隊長。「くっ…!」と顰めたお顔に対して「いや本当に毎度毎度いい加減にしろよ」という気持ちよりも、「険しい表情もまた雄くささが増してかっこいい……」というお花畑な感想の方が優ってしまうからどうしようもない。

「本当ですよ~。毎回医務室へ連れて来る者の身にもなってくださいよね」
「面目ない……訓練に夢中になるとどうもな! ミリアにはいつも世話を掛けている」

深々と頭を下げられ、私は慌ててかぶりと両手を振った。

「だ、だめですよそんな! そうも簡単に上官が部下へ頭を下げちゃ! それに、その……私は好きでジーク隊長のサポートをしているだけで……」

あっ言ってしまった。
思わず両手を胸元で擦り合わせ、もじもじする。ほんのり熱が灯った顔をおそるおそる隊長へ向けると、彼はぱちくりと両目を瞬かせた。
こ、これなら流石の隊長でも察するか……?

「くぅっ……そうかそうかっ! 上官想いの優秀な部下を持ててオレは幸せ者だなぁ!! 感謝するぞ、ミリア!!」

で、ですよね~~!!
心底嬉しそうににっこにこ破顔しながら、ばっしばっしと私の背中を叩いてくるジーク隊長。いたた、いたいです。けど隊長に触れられて嬉しい……なんて思ってしまう自分のバカ!
痛いよ! 思い切って混ぜ込んだアプローチをめちゃくちゃスルーされた心が痛いよ! うっ……でもその笑顔も素敵。

恋心を自覚してからはや一年ちょっと、これまで私なりに幾度もアプローチを繰り返してきた。
やたら危なっかしい隊長の補佐役(お世話係)を進んで買って出るのは勿論、ある日は武具の手入れ中事故を装って抱えていた武具もろとも側にいた隊長の上へ倒れ込んだり、またある日は思い切って休日デートに誘ったり。
しかしそれも、ある日は覆い被さった私の体重が軽すぎるし細すぎると、その足で訓練場へ引っ張り出されて日が沈むまで共に剣を振るう羽目になり、またある日はショッピング中武器の話国の話鍛錬の話をしていたかと思うと、気付けば休日にも関わらず街中で二人して体作りのジョギングをしていた。いい大人がデートにジョギングて。

そして言葉で伝えてもこの有様だ。不発。圧倒的不発。彼に上官部下以上の関係を意識させることはおろか、普通の友人関係すらままならない。一に忠誠二に訓練、三四が訓練で五にアルフォンス団長といった具合なのだから。なんなら隊長の愛馬の方が私なぞよりもっと彼と深い関係に違いない。

いや他の隊員と比べたら、十分に私は隊長に近い位置にいるのは違い無いのだ。私がこれでもかというほどに意識的に彼に付いて回ってるし、慕われることが大好きな彼に可愛がられているのもわかってる。
かと言ってそれが上官に媚び諂う新人、といったように周囲から妬み恨みを買うことも無く、むしろあの隊長に付き合い続ける強者という名の変わり者だの、団の暴走馬車の手綱持ちが漸く現れたことへの感謝だの、団内での私の印象がそんな具合の時点で、私ほど彼に心酔した団員はこれまで存在しなかったことは推察できる。
意中の人に少なくとも部下としては好かれてはいて、騎士として欠かせない鍛錬も彼と共にこなせる。これ以上を求めるなんて、贅沢なのかもしれない。

それでも私は、彼に女性として見てほしいし、あわよくば甘い関係にもなりたい。これでも恋に憧れ田舎からはるばる王都へ出てきた年頃の女なのだ。まだ振られてもいないのに諦めたくなんてないし、夢くらい見させてほしい。


「それはもう体を使うしかないのでは?」
「ブハッッっ?!」

すっかり日常茶飯事となった隊長に関する恋バナを今日も今日とて語り散らかしていたら、同僚兼友人がとんでもないことを言ってきた。思わず吹き出した紅茶を拭いながら友人を睨み付けると、不思議そうな顔で見つめ返された。

「だぁっていくらアプローチかけても女として見てくれないんでしょ? そんな鋼より鈍かーー強靭な隊長の下心をくすぐるには、もはや己の女体をもっての他手段はないでしょうよ」

なんでもない風に紅茶を啜りながら言う友人に、私は言葉を詰まらせる。
た、確かにその通りなのかもしれない。言葉でも渾身のボディタッチでもいたって健全な反応しか示さなかった隊長には、もう直接的な手段に出るほかないのかもしれない。女として全く意識されていない今告白なんてしても、上手くいきそうもないし……。

「でも体からの関係なんて……そもそもあの隊長、性欲自体存在するのかすら怪しいとこだし……」
「確かにそれは否めないけど……でも、それを確かめるためにも、やってみる価値はあると思うよ? あんたが女として意識されないままの部下としての一生の方を優先するなら、話は別だけど」

女として意識されないままの、部下としての一生……
そんなのは嫌だ。けれど、万一上手くいかなかったら今の上司部下の関係すら壊れてしまうかもしれない。いや、上手くいかない可能性の方が高いだろう。そんな隊長に嫌われるリスクを負うくらないなら……

「……まぁ、そんな不安そうな顔しなさんな。保守的なあんたの考えてることなんてお見通しよ。私に良い考えがあるから、とりあえずそれを聞いてから行動するか否か決めてみない?」

テーブルに身を乗り出しながら不敵な笑みを浮かべる友人に、私は固唾を呑んだ。
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