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日はすっかり暮れ、街の喧騒も穏やかになり始めた夕闇時。私はなんとジーク隊長と同じ屋根の下、宿屋の同室内にいた。
事の発端は数週間前より国内にて略奪を繰り返す盗賊団の存在だ。彼らの捕縛のために出没地域への調査を命じられた私と隊長は、二人王国内の辺境の農村へやって来ていた。
一通り聞き込みや周辺地域の探索を終え、ひとまず今日はこの農村に居を構える宿屋に腰を落ち着けようとしたのだけれど……
「えっ?! 空室がもう一部屋しかない?!」
「ええ……もともと部屋数もそんなに多くはないんですけど、今日は特に旅の人が多くって……」
「ど、どうしましょうたいちょーー」
「ご婦人! その部屋に寝具は一台しか備え付けられてはいないのだろうか」
「い、いえ……部屋にベッドは二つございまーー」
「ならば問題ないだろう! その部屋を借りるぞご婦人!」
「えっちょっ……!」と、焦る私が口を挟む暇も無く。隊長の勢いに目を瞬かせる宿屋の女将さんから鍵を受け取ると、ジーク隊長はさっさと部屋へと向かってしまい、私はバタバタ彼の後を追い掛ける他なかった。
室内は如何にも辺境の農村の宿屋です、といった具合の簡素な作りで手狭だ。しかし木の温もりが感じられ、平民卒の私にはなんだかほっとする雰囲気の良いお部屋だった。
「ミリアはそちらの寝具を使うといい!」
ボッスン! と扉側のベッドに腰かけると、いつもの朗らかな笑顔で窓際のベッドを指し示される。
「はぁ……」と私は言われるがまま窓際のベッドに歩み寄り、ぽすん、と然程弾力は無いマットレスに腰掛ける。ベッドとベッドの距離は体二つ分ほどしか無い。向かい合った私たちは、お膝とお膝がぶつかりそうな程であった。
いやいやいや! まずいでしょこれは!!
いくらなんでも妙齢の男女が二人、お互いの息遣いがすぐそこで聞こえてしまうほどの狭い部屋で夜を過ごすのはまずすぎるでしょう!
ジーク隊長の勢いに流されてここまで来てしまったけれども…! いくらあの隊長でも20も後半の良い大人だ。流石にその辺りは考慮してくれるものだと思ったが…………ハッ! まさか、隊長は最初から私との関係を望んで……?!
胸の高鳴りを抑えながら、目の前に座る隊長へ視線をやる。
「ん? どうかしたか? 先ほど夕食は取ったが、まだ足りなかったか??」
ミリアは見かけによらずよく食べるからなぁ~! とわはわは豪快に笑う隊長に、哀れにも膨らみかけてしまった期待が、しおしおと萎んでいくのを感じる。
……いやまぁそりゃそうですよね、あの隊長ですもの。私のことを女性として意識していないのはハナから知っていたが、ここまでだったとは……。
きっと彼ならどんなに色気が毛穴から常に放出された、手練手管を持った女性と一夜を共にしようとも何も起こらないまま翌朝を迎えてしまうのだろうな……。
眠るにはまだ早いし、武器の手入れでもするかといそいそと剣を磨き出した隊長を横目に、私もこっそりと溜息を吐きながら槍を手にする。研磨剤を取り出そうとポーチを開くと、ここ数ヶ月何度も目にした小袋が目に入った。
数ヶ月前、己の体を使えなどという爆弾発言をかました同僚に持たされたものだ。
曰く、使用すればたちまち全身のありとあらゆる性感帯が疼き、快楽を欲してやまなくなる即効性の催淫剤らしい。
どんな堅物であろうと一瞬で獣と化し、己の欲を満たす事のみしか考えられなくなるという、とんでもない劇薬だ。これを隊長に使えと、これさえ使えば流石の彼も雄としての顔を覗かせざるを得ないだろうと言って託されたのだが、どうにも踏ん切りが付かず気付けば数ヶ月も経ってしまった。何より使用するタイミングに恵まれなかったこともあるのだけれど。
今こそが使いどきなんじゃないの……?
ちらりと、すぐ側でご機嫌な様子で剣の手入れをする隊長を見やる。
あの性欲のせの字すら連想できない、清廉潔白、思春期の少年よりも煩悩の無さそうなあの太陽のような隊長が獣のように変貌する瞬間には、正直興味がある。いやめちゃくちゃ見てみたい。そんな隊長に抱かれるなんて、夢のような展開を迎えられるのなら喜んでそれに乗っかりたい。そして私が女であることを自覚させ、意識してほしい。
隊長に見つからないよう、小袋をきつく握り締める。
けれど、純粋にジーク隊長へ懸想する私はそれじゃあ嫌だとも言っている。だってそれって、正気を保っていない状態の彼に触れてもらうということじゃないか。それでは意味が無い。
ありのままの隊長に、私を見てほしいのだ。
「む? どうしたミリア」
「いえ、ちょっとお茶でも入れようかと」
いきなり立ち上がった私を、不思議そうに見上げるジーク隊長。
何の汚れも無い、いつもの爽やかで凛々しいお顔にキュッと胸が苦しくなる。私がこれから何をしでかそうとしているのか、何も知らない穏やかな表情。
ごめんなさい、私、こんなにも私を仲間として信頼してくださっている隊長を、裏切ることになります。もしかしたら金輪際口すら利いてもらえなくなってしまうかもしれない。
けど嫌なんです。このままこうしてずっと、好きな人にただの部下としてしか見てもらえないなんて。一人の女性として、あなたに見てほしいんです。
だからほんの少しだけ背中を押してもらうために、この薬の力を借りようと思う。
普段ならできないようなことも、この薬を使えばきっと……
私は隊長の死角で小袋の中身の粉末をカップの中に振り撒き、お湯と混ぜ合わせると一気に飲み干した。
事の発端は数週間前より国内にて略奪を繰り返す盗賊団の存在だ。彼らの捕縛のために出没地域への調査を命じられた私と隊長は、二人王国内の辺境の農村へやって来ていた。
一通り聞き込みや周辺地域の探索を終え、ひとまず今日はこの農村に居を構える宿屋に腰を落ち着けようとしたのだけれど……
「えっ?! 空室がもう一部屋しかない?!」
「ええ……もともと部屋数もそんなに多くはないんですけど、今日は特に旅の人が多くって……」
「ど、どうしましょうたいちょーー」
「ご婦人! その部屋に寝具は一台しか備え付けられてはいないのだろうか」
「い、いえ……部屋にベッドは二つございまーー」
「ならば問題ないだろう! その部屋を借りるぞご婦人!」
「えっちょっ……!」と、焦る私が口を挟む暇も無く。隊長の勢いに目を瞬かせる宿屋の女将さんから鍵を受け取ると、ジーク隊長はさっさと部屋へと向かってしまい、私はバタバタ彼の後を追い掛ける他なかった。
室内は如何にも辺境の農村の宿屋です、といった具合の簡素な作りで手狭だ。しかし木の温もりが感じられ、平民卒の私にはなんだかほっとする雰囲気の良いお部屋だった。
「ミリアはそちらの寝具を使うといい!」
ボッスン! と扉側のベッドに腰かけると、いつもの朗らかな笑顔で窓際のベッドを指し示される。
「はぁ……」と私は言われるがまま窓際のベッドに歩み寄り、ぽすん、と然程弾力は無いマットレスに腰掛ける。ベッドとベッドの距離は体二つ分ほどしか無い。向かい合った私たちは、お膝とお膝がぶつかりそうな程であった。
いやいやいや! まずいでしょこれは!!
いくらなんでも妙齢の男女が二人、お互いの息遣いがすぐそこで聞こえてしまうほどの狭い部屋で夜を過ごすのはまずすぎるでしょう!
ジーク隊長の勢いに流されてここまで来てしまったけれども…! いくらあの隊長でも20も後半の良い大人だ。流石にその辺りは考慮してくれるものだと思ったが…………ハッ! まさか、隊長は最初から私との関係を望んで……?!
胸の高鳴りを抑えながら、目の前に座る隊長へ視線をやる。
「ん? どうかしたか? 先ほど夕食は取ったが、まだ足りなかったか??」
ミリアは見かけによらずよく食べるからなぁ~! とわはわは豪快に笑う隊長に、哀れにも膨らみかけてしまった期待が、しおしおと萎んでいくのを感じる。
……いやまぁそりゃそうですよね、あの隊長ですもの。私のことを女性として意識していないのはハナから知っていたが、ここまでだったとは……。
きっと彼ならどんなに色気が毛穴から常に放出された、手練手管を持った女性と一夜を共にしようとも何も起こらないまま翌朝を迎えてしまうのだろうな……。
眠るにはまだ早いし、武器の手入れでもするかといそいそと剣を磨き出した隊長を横目に、私もこっそりと溜息を吐きながら槍を手にする。研磨剤を取り出そうとポーチを開くと、ここ数ヶ月何度も目にした小袋が目に入った。
数ヶ月前、己の体を使えなどという爆弾発言をかました同僚に持たされたものだ。
曰く、使用すればたちまち全身のありとあらゆる性感帯が疼き、快楽を欲してやまなくなる即効性の催淫剤らしい。
どんな堅物であろうと一瞬で獣と化し、己の欲を満たす事のみしか考えられなくなるという、とんでもない劇薬だ。これを隊長に使えと、これさえ使えば流石の彼も雄としての顔を覗かせざるを得ないだろうと言って託されたのだが、どうにも踏ん切りが付かず気付けば数ヶ月も経ってしまった。何より使用するタイミングに恵まれなかったこともあるのだけれど。
今こそが使いどきなんじゃないの……?
ちらりと、すぐ側でご機嫌な様子で剣の手入れをする隊長を見やる。
あの性欲のせの字すら連想できない、清廉潔白、思春期の少年よりも煩悩の無さそうなあの太陽のような隊長が獣のように変貌する瞬間には、正直興味がある。いやめちゃくちゃ見てみたい。そんな隊長に抱かれるなんて、夢のような展開を迎えられるのなら喜んでそれに乗っかりたい。そして私が女であることを自覚させ、意識してほしい。
隊長に見つからないよう、小袋をきつく握り締める。
けれど、純粋にジーク隊長へ懸想する私はそれじゃあ嫌だとも言っている。だってそれって、正気を保っていない状態の彼に触れてもらうということじゃないか。それでは意味が無い。
ありのままの隊長に、私を見てほしいのだ。
「む? どうしたミリア」
「いえ、ちょっとお茶でも入れようかと」
いきなり立ち上がった私を、不思議そうに見上げるジーク隊長。
何の汚れも無い、いつもの爽やかで凛々しいお顔にキュッと胸が苦しくなる。私がこれから何をしでかそうとしているのか、何も知らない穏やかな表情。
ごめんなさい、私、こんなにも私を仲間として信頼してくださっている隊長を、裏切ることになります。もしかしたら金輪際口すら利いてもらえなくなってしまうかもしれない。
けど嫌なんです。このままこうしてずっと、好きな人にただの部下としてしか見てもらえないなんて。一人の女性として、あなたに見てほしいんです。
だからほんの少しだけ背中を押してもらうために、この薬の力を借りようと思う。
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