真夏の笛に 新月の舞う

水戸けい

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第二章

(朔姫を、俺の妻に)

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 そんな天界人のような朔が、笑みを浮かべて気軽に里の者らに手を振っている。深窓の姫とはおよそ言いがたい行為だが、真夏は無邪気な朔の様子を好ましく感じた。

(気取った姫や、たおやかな姫よりも、ずっと面白い)

 仲間の公達らがウワサする、あちらこちらの姫よりも、目の前の朔の挙動のほうが真夏には魅力的だった。彼らの話に出てくる姫は、作り物のように思えて仕方がなかった。血の通った人間として、感じられなかった。けれど目の前の朔は、とても生き生きとしている。

(こういう姫をこそ、妻にすれば楽しいのではないか)

 自分の中に浮かんだ言葉に、真夏はおどろいた。左大臣の姫を妻にする? とんでもないことだと思いつつ、真夏の目は朔に吸い寄せられていた。

 家格で言えば、真夏にまったく望みがないわけではない。真夏の父は穀倉院別当で、位は兄の中納言と同じ従三位。左大臣の娘との婚姻に支障が出るほどの差ではない。そのうえ大伴家は、今は従三位どまりの家柄だが、古くからの名門である。血筋だけで言えば、朔の久我家と同等か、それ以上だ。今の右大臣である柳原家よりも、家格で言えば上位にあたる。

(朔姫を、俺の妻に)

 なんとなく浮かんだ言葉が、真夏の胸に留まり根をおろしはじめた。

 彼女ならば、父や兄の望みと一致する。妻を求めろというのなら、共にこれからの人生を歩んでいく相手を見つけろというのなら、面白味のある人間がいい。朔ならば、そう思っていた真夏の希望に合致する。

 朔は舟のへりにつかまり、目をかがやかせて景色を見渡している。

「あまり身を乗り出されては、落ちてしまいますよ」

 芙蓉に注意され、クスクスと笑っている朔の姿は童女のようだ。湖面の光に浮かぶ彼女は、とても愛らしい。地上の権力争いのアレコレなど何も知らぬ、天女のように見えた。

(彼女を、俺の――)

 じわじわと根を伸ばした想いが、心臓にからみつく。

(はたして、そんなことが出来るだろうか)
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