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第四章 決意
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「烏有」
声をかけられ、烏有は宵闇にたたずむ人影に目を凝らした。近づいた人影が、烏有が出てきた店の窓から漏れる、灯りの中に入る。
「蕪雑」
「よぉ。帰るのか」
「蕪雑は、これから?」
「んー、どうしようかなぁ」
「そのために、ここに来たんじゃないのか」
この食堂のほかに、このあたりで開いている店はない。船着場や宿屋へ向かうにしては道が違うので、そのほかの選択肢は、思い浮かばなかった。
すると蕪雑が、照れくさそうに頭を掻く。
「いやぁ。烏有の笛を、聞きたくってな」
「え」
「烏有はここで、楽士の仕事をしてるんだろ」
「ああ。……まあ、そうかな」
烏有は腰に提げている、横笛を入れた袋に手を添えた。
「そうやって、明江がどんなふうに受け止められているのかを、確かめてんだろ。こういう店は、本音が聞けるからな」
蕪雑が店を顎でしゃくる。烏有は壁ごしに聞こえる人々の楽しげな声に、顔を向けた。
「そういうつもりではないよ」
「じゃあ、なんだ」
「別に。ほかにすることもないし、僕は楽士だからね。本来は、こうして生活をするものだから」
「ふうん? まあ、そうか」
烏有は踵を返した。
「帰るのか」
「そのつもりで、店を出たんだ。中はまだまだ、営業中だよ」
去る烏有に、蕪雑がついてくる。
「入らないのか」
「言っただろう。烏有の笛が、聞きたかったんだってな」
振り向き、口を開いた烏有は、何も言わずに唇を結んで前を向いた。
「それは残念だったね。今日の演奏は、終わりだよ」
「聞かせてくんねぇのか」
「演奏代を、はずんでくれるかい?」
「なあ、烏有」
「……」
「近頃、様子がおかしかねぇか」
「どういうことか、わからないな」
「そのまんまだよ」
「体調は、可もなく不可もなくってところだよ。食欲だって、問題ない。夜もきちんと寝ているよ。工夫や船乗りたちのほうが、よっぽど働いているし宵っ張りだ」
「そういう意味じゃねぇよ」
「僕よりも蕪雑のほうが、忙しいんじゃないのかい」
「ん?」
「あちこち歩きまわって、直接指示を出して、玄晶と打合せをして、民との交流だってしている。すっかり土地の豪族って感じだね」
烏有は蕪雑を見ぬまま、彼から逃れたそうに肩を丸めて足を動かす。蕪雑は大股でのんびりと歩きながら、烏有の見えぬ表情をながめた。
「そうかぁ。そのへんフラフラしてるだけだけどなぁ」
「警兵官とのやりとりも、細やかにおこなっているそうじゃないか」
「細かくなんざ、してねぇよ。寧叡が、どんなことがあっただ、なんだって、俺や玄晶に報告してくれてるだけだって。玄晶がそれに、どうだこうだって、岐から発せられている律令に合わせて、なんか言ってんだよ。俺ぁ、さっぱりわかんねぇから、聞いているだけだ。寧叡は明江でも警兵官をやってたから、そういうのわかるみてぇだけど。そんで玄晶が、そっちでの決まりとは決まりが違うとかどうとか、ああだこうだ言ってるぜ。律令ってのは、申皇が定めたもんなんだろう? それなのに、決まりが違うってのぁ、どういうこった」
「それは、中枢の法を機軸にして、豪族がそれぞれの府に合わせた統治をするからだよ。領主はその土地の豪族が、きちんと申皇の定められた規定に則り、府として機能をさせているかを、監視する役割なんだ。前にも説明をしただろう」
「聞いた気がするけどよぉ……。いまだによく、わかってねぇんだよな。生まれたときから、豪族と領主ってぇのは、すげぇ連中だって教えられてて、どっちもいねぇと困るモンだって聞かされていただけでよぉ。そういうモンだってぇ感じしか、ねぇんだよな」
「それは、蕪雑だけではないと思うよ」
烏有は足を止め、振り向いた。蕪雑がキョトンと烏有を見下ろす。周囲は未完成の建物だった。これから、ここには豪族の屋敷ができる。烏有たちが過ごしている領主屋敷と、商業区画の間に位置する場所だった。
「だいたいの民は、そういうものだという認識しか、持っていないはずだ。民だけじゃない。豪族すらも、そう思っているんじゃないかな」
よくわからない、と蕪雑が表情で示す。
「豪族の決めた土地の法は、その豪族の法でしかないからね。それを神の代弁者たる申皇がお決めになられた規則に合わせて整えていく。その仕事をするのが、領主なんだよ。申皇は唯一無二の、この現世を支配なされておられる方だ。歴代の申皇が定められし律令を伝え守護する、領主をいただいてこそ、その国は加護が認められた府となれる。だけど豪族は民から興るものだから、申皇への礼をつくすために、領主を受け入れなければならない、としか考えていない場合が多い。だから府になりたての国は、領主と豪族が府の法について、よく諍いを起こすんだ」
「ふうん。つまり、申皇のお作りになられた決まりの範囲で、豪族が決まりを作っているかどうかを、領主は確認するためにいるってことか。そんで、そうじゃない場合は、決まりを変えろって言われるから、ケンカになる」
「そういうこと。だから、土地を治める豪族の総領が変われば、その者の意識によって、府の法が改変されたりもする」
「ああ、なるほど」
蕪雑には、思い当たるものがあったらしい。
「だから寧叡と玄晶ではなく、寧叡と蕪雑が話し合うべきなんだ。それを受けた蕪雑が、玄晶に確認をする。蕪雑はここの豪族だからね。明江の秩序は、蕪雑が好きに決めていいんだ」
「中枢の決まりの範疇でってことか」
「そうだよ」
「そりゃあ、おかしいじゃねぇか」
「え」
「明江は、烏有が造ろうっつって、はじめたんだろ。で、俺を豪族にするって言ったよな。だったら、俺と烏有が相談をして、明江の法を決めて、玄晶に確認をして、そっから寧叡に伝えなきゃならねぇだろう。ここは烏有と俺の国なんだからよぉ」
蕪雑を見上げる烏有の目が、丸くなる。宵闇の中でも、蕪雑の笑みは輝いて見えた。
「でも、僕は楽士だ。領主になれるのは、中枢の官僚一族だけだよ」
烏有はまだ、自分にその資格があることを、蕪雑に話していなかった。
「わあってるよ。表向き、玄晶がそうなるんだろ。だからさ、俺が豪族になるんなら、寧叡は俺に報告をしなきゃあ、ならねぇ。それを受けるときは、烏有も隣で聞く。で、俺と烏有が、ああだこうだって相談して、それが問題ねぇかを、玄晶に確認する。……ちょっと面倒くせぇけど、そうなんじゃねぇか? ああ、俺が寧叡から報告を受けるように、できてねぇってのが問題なのか」
まいったな、と蕪雑が顎を撫でて思案する。
「玄晶の横で、蕪雑も報告を聞けばいい。それで問題は解決だ。もしも玄晶が外交などのやりとりで、時間が取れないのなら蕪雑に報告するようにと、玄晶から寧叡に伝えておけば平気だろう」
「俺が聞いても、よくわかんねぇことだったら、どうすんだよ」
「剛袁がいる。玄晶の書官として、申し分ないと聞いているよ。勤勉だしね。共に聞いてもらえばいい」
「そんなら、烏有も――」
「僕の思想は、玄晶がよく知っているから」
それじゃあ、と烏有は蕪雑に背を向けた。拒絶の気配を察し、蕪雑は烏有を無言で見送る。
僕はもう、必要ないだろう。
口角をつりあげた烏有のつぶやきは、彼自身の胸に鋭く突き刺さった。
声をかけられ、烏有は宵闇にたたずむ人影に目を凝らした。近づいた人影が、烏有が出てきた店の窓から漏れる、灯りの中に入る。
「蕪雑」
「よぉ。帰るのか」
「蕪雑は、これから?」
「んー、どうしようかなぁ」
「そのために、ここに来たんじゃないのか」
この食堂のほかに、このあたりで開いている店はない。船着場や宿屋へ向かうにしては道が違うので、そのほかの選択肢は、思い浮かばなかった。
すると蕪雑が、照れくさそうに頭を掻く。
「いやぁ。烏有の笛を、聞きたくってな」
「え」
「烏有はここで、楽士の仕事をしてるんだろ」
「ああ。……まあ、そうかな」
烏有は腰に提げている、横笛を入れた袋に手を添えた。
「そうやって、明江がどんなふうに受け止められているのかを、確かめてんだろ。こういう店は、本音が聞けるからな」
蕪雑が店を顎でしゃくる。烏有は壁ごしに聞こえる人々の楽しげな声に、顔を向けた。
「そういうつもりではないよ」
「じゃあ、なんだ」
「別に。ほかにすることもないし、僕は楽士だからね。本来は、こうして生活をするものだから」
「ふうん? まあ、そうか」
烏有は踵を返した。
「帰るのか」
「そのつもりで、店を出たんだ。中はまだまだ、営業中だよ」
去る烏有に、蕪雑がついてくる。
「入らないのか」
「言っただろう。烏有の笛が、聞きたかったんだってな」
振り向き、口を開いた烏有は、何も言わずに唇を結んで前を向いた。
「それは残念だったね。今日の演奏は、終わりだよ」
「聞かせてくんねぇのか」
「演奏代を、はずんでくれるかい?」
「なあ、烏有」
「……」
「近頃、様子がおかしかねぇか」
「どういうことか、わからないな」
「そのまんまだよ」
「体調は、可もなく不可もなくってところだよ。食欲だって、問題ない。夜もきちんと寝ているよ。工夫や船乗りたちのほうが、よっぽど働いているし宵っ張りだ」
「そういう意味じゃねぇよ」
「僕よりも蕪雑のほうが、忙しいんじゃないのかい」
「ん?」
「あちこち歩きまわって、直接指示を出して、玄晶と打合せをして、民との交流だってしている。すっかり土地の豪族って感じだね」
烏有は蕪雑を見ぬまま、彼から逃れたそうに肩を丸めて足を動かす。蕪雑は大股でのんびりと歩きながら、烏有の見えぬ表情をながめた。
「そうかぁ。そのへんフラフラしてるだけだけどなぁ」
「警兵官とのやりとりも、細やかにおこなっているそうじゃないか」
「細かくなんざ、してねぇよ。寧叡が、どんなことがあっただ、なんだって、俺や玄晶に報告してくれてるだけだって。玄晶がそれに、どうだこうだって、岐から発せられている律令に合わせて、なんか言ってんだよ。俺ぁ、さっぱりわかんねぇから、聞いているだけだ。寧叡は明江でも警兵官をやってたから、そういうのわかるみてぇだけど。そんで玄晶が、そっちでの決まりとは決まりが違うとかどうとか、ああだこうだ言ってるぜ。律令ってのは、申皇が定めたもんなんだろう? それなのに、決まりが違うってのぁ、どういうこった」
「それは、中枢の法を機軸にして、豪族がそれぞれの府に合わせた統治をするからだよ。領主はその土地の豪族が、きちんと申皇の定められた規定に則り、府として機能をさせているかを、監視する役割なんだ。前にも説明をしただろう」
「聞いた気がするけどよぉ……。いまだによく、わかってねぇんだよな。生まれたときから、豪族と領主ってぇのは、すげぇ連中だって教えられてて、どっちもいねぇと困るモンだって聞かされていただけでよぉ。そういうモンだってぇ感じしか、ねぇんだよな」
「それは、蕪雑だけではないと思うよ」
烏有は足を止め、振り向いた。蕪雑がキョトンと烏有を見下ろす。周囲は未完成の建物だった。これから、ここには豪族の屋敷ができる。烏有たちが過ごしている領主屋敷と、商業区画の間に位置する場所だった。
「だいたいの民は、そういうものだという認識しか、持っていないはずだ。民だけじゃない。豪族すらも、そう思っているんじゃないかな」
よくわからない、と蕪雑が表情で示す。
「豪族の決めた土地の法は、その豪族の法でしかないからね。それを神の代弁者たる申皇がお決めになられた規則に合わせて整えていく。その仕事をするのが、領主なんだよ。申皇は唯一無二の、この現世を支配なされておられる方だ。歴代の申皇が定められし律令を伝え守護する、領主をいただいてこそ、その国は加護が認められた府となれる。だけど豪族は民から興るものだから、申皇への礼をつくすために、領主を受け入れなければならない、としか考えていない場合が多い。だから府になりたての国は、領主と豪族が府の法について、よく諍いを起こすんだ」
「ふうん。つまり、申皇のお作りになられた決まりの範囲で、豪族が決まりを作っているかどうかを、領主は確認するためにいるってことか。そんで、そうじゃない場合は、決まりを変えろって言われるから、ケンカになる」
「そういうこと。だから、土地を治める豪族の総領が変われば、その者の意識によって、府の法が改変されたりもする」
「ああ、なるほど」
蕪雑には、思い当たるものがあったらしい。
「だから寧叡と玄晶ではなく、寧叡と蕪雑が話し合うべきなんだ。それを受けた蕪雑が、玄晶に確認をする。蕪雑はここの豪族だからね。明江の秩序は、蕪雑が好きに決めていいんだ」
「中枢の決まりの範疇でってことか」
「そうだよ」
「そりゃあ、おかしいじゃねぇか」
「え」
「明江は、烏有が造ろうっつって、はじめたんだろ。で、俺を豪族にするって言ったよな。だったら、俺と烏有が相談をして、明江の法を決めて、玄晶に確認をして、そっから寧叡に伝えなきゃならねぇだろう。ここは烏有と俺の国なんだからよぉ」
蕪雑を見上げる烏有の目が、丸くなる。宵闇の中でも、蕪雑の笑みは輝いて見えた。
「でも、僕は楽士だ。領主になれるのは、中枢の官僚一族だけだよ」
烏有はまだ、自分にその資格があることを、蕪雑に話していなかった。
「わあってるよ。表向き、玄晶がそうなるんだろ。だからさ、俺が豪族になるんなら、寧叡は俺に報告をしなきゃあ、ならねぇ。それを受けるときは、烏有も隣で聞く。で、俺と烏有が、ああだこうだって相談して、それが問題ねぇかを、玄晶に確認する。……ちょっと面倒くせぇけど、そうなんじゃねぇか? ああ、俺が寧叡から報告を受けるように、できてねぇってのが問題なのか」
まいったな、と蕪雑が顎を撫でて思案する。
「玄晶の横で、蕪雑も報告を聞けばいい。それで問題は解決だ。もしも玄晶が外交などのやりとりで、時間が取れないのなら蕪雑に報告するようにと、玄晶から寧叡に伝えておけば平気だろう」
「俺が聞いても、よくわかんねぇことだったら、どうすんだよ」
「剛袁がいる。玄晶の書官として、申し分ないと聞いているよ。勤勉だしね。共に聞いてもらえばいい」
「そんなら、烏有も――」
「僕の思想は、玄晶がよく知っているから」
それじゃあ、と烏有は蕪雑に背を向けた。拒絶の気配を察し、蕪雑は烏有を無言で見送る。
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