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昇り始めた朝の光を浴びて、海面が輝いている。凪いだ景色を、海にせり出すように伸びた岩の上で、男が一人眺めていた。それを、私は男の足元になる海から顔を出して、岩場に上がったところで見つけた。
(随分と、身なりのいい男だな)
手ぬぐいで裸身を拭い、擦り切れた小袖を着て網を持ち上げる。網の中には、今朝の収穫――素潜りをして捕まえた、サザエやアワビ、蛸などが入っている。それらを捕まえるための、小さなカマを腰に差して男の傍へ近づき、声をかけた。
「飛び込んでも、死ねやしないよ」
男は、ゆっくりと体ごと私に向いた。白い肌に、艶やかな黒髪。切れ長の目は何の表情も浮かべていなくて
(人では無いものに声をかけてしまった)
息をのみ、腰を引いて身構えた。
日の落ちる頃――誰彼時には人と妖が混じり始める。そうして、朝の日が上る頃――彼誰時に、妖は自分たちの世界へと戻っていく。私ら漁を生業とする仕事は暁闇に始まるから、十分に物の怪には気を付けるようにと言われていた。うっかりと人ではないものに声をかければ、海の底に連れて行かれて帰っては来られなくなると――。
目の前に立つ男は、闇に帰る前の物の怪に見えた。時折、貝の中に生まれる白く丸い、宝玉の化身かと思えた。
男は表情を変えぬまま、私に向かって一歩踏み出す。物の怪相手に効くかどうかはわからないけれど、私は腰に差したカマを、すぐにでも使えるように手を添えた。それに気づいた男が、足を止める。
「追いはぎか」
決して大きくは無いのに、まっすぐに耳に届く声は頭の中に直接届いたようにも思え、やはり物の怪かと、すぐに走り出せるように腰を落とした。
「アンタが、その先から海に飛び込むように見えたんで、声をかけた」
入水自殺をしようとしているように、見えた。けれど男が物の怪ならば、海に帰ろうとしていたところを、私が見つけてしまっただけなのかもしれない。
警戒を含んだ声は、思うよりも硬質になった。それに、唇の端をほんのわずかに、男が持ち上げる。
「我が、死にたがっているように見えたか」
声が、ほんの少しやわらかく感じるのは、気のせいだろうか。
「少なくとも、生きようっていう気配は、感じられないわね」
(随分と、身なりのいい男だな)
手ぬぐいで裸身を拭い、擦り切れた小袖を着て網を持ち上げる。網の中には、今朝の収穫――素潜りをして捕まえた、サザエやアワビ、蛸などが入っている。それらを捕まえるための、小さなカマを腰に差して男の傍へ近づき、声をかけた。
「飛び込んでも、死ねやしないよ」
男は、ゆっくりと体ごと私に向いた。白い肌に、艶やかな黒髪。切れ長の目は何の表情も浮かべていなくて
(人では無いものに声をかけてしまった)
息をのみ、腰を引いて身構えた。
日の落ちる頃――誰彼時には人と妖が混じり始める。そうして、朝の日が上る頃――彼誰時に、妖は自分たちの世界へと戻っていく。私ら漁を生業とする仕事は暁闇に始まるから、十分に物の怪には気を付けるようにと言われていた。うっかりと人ではないものに声をかければ、海の底に連れて行かれて帰っては来られなくなると――。
目の前に立つ男は、闇に帰る前の物の怪に見えた。時折、貝の中に生まれる白く丸い、宝玉の化身かと思えた。
男は表情を変えぬまま、私に向かって一歩踏み出す。物の怪相手に効くかどうかはわからないけれど、私は腰に差したカマを、すぐにでも使えるように手を添えた。それに気づいた男が、足を止める。
「追いはぎか」
決して大きくは無いのに、まっすぐに耳に届く声は頭の中に直接届いたようにも思え、やはり物の怪かと、すぐに走り出せるように腰を落とした。
「アンタが、その先から海に飛び込むように見えたんで、声をかけた」
入水自殺をしようとしているように、見えた。けれど男が物の怪ならば、海に帰ろうとしていたところを、私が見つけてしまっただけなのかもしれない。
警戒を含んだ声は、思うよりも硬質になった。それに、唇の端をほんのわずかに、男が持ち上げる。
「我が、死にたがっているように見えたか」
声が、ほんの少しやわらかく感じるのは、気のせいだろうか。
「少なくとも、生きようっていう気配は、感じられないわね」
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