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ざわ、と産毛が逆立つ。身分違いも甚だしいと、そういうことなのだろう。ならば、そのように説得をすれば殺さずとも済む話なんじゃないか。今の説明では、説得をする前に決めてしまったように聞こえたが、そうなのだろうか。
「宗近様は、忽然と姿を消された。身ごもった村の娘と共に、な。むろん、探し回った。そして、見つけた」
ゆっくりと、爺様の顔が持ち上がる。ひたりと目を合わし、懐かしさをにじませた爺様が言った。
「よう、健やかにお育ち下さいましたな、伊佐姫様」
体中から、力が抜け落ちてしまった気がした。なんとなく、話を聞きながらもしやその村娘が身ごもったというのは、私のことでは無いかとは思ったけれども、理解と納得をするには爺様の話は簡潔にすぎる。それがわかっているのだろう。爺様は手を伸ばし、父様の形見を掴んだ。古ぼけた布を開き、小刀を両手にささげて見せてくる。
初めて見る父様の形見の小刀は、白木の柄と鞘に彫り物がされてあった。蔦がからまり、花を咲かせている。柄に、台形に逆三角形が重なり、その上に小さな丸が描かれている模様があった。
「これは、伊駒家の家紋。この小刀は、宗近様がお生まれになった時に、この爺が作らせた守り刀に相違ない」
弾かれたように爺様を見た。
「この爺は、宗近様の養育係を、まかされておりました」
「父様の、養育係――」
呆然と反芻した私へ、言葉遣いを改めた爺様はにこやかに頷く。
「そして、これから姫様の養育係も務めさせていただきます」
いったい何がどうなって、こんな話になってしまっているのか。嫌悪からではなく、唐突すぎる話に頭が理解を拒絶していた。腑に落ちない所も多々あると言うのに、疑問と質問が具体的な形を取らずにクラゲのように浮遊している。
そんな状態であることを察したのであろう爺様は、そっと私の膝の上に布ごと小刀を置いて立ち上がった。
「庭に、散歩にでも行かれますか。それとも、一人で少し、考えてみますか」
「庭に出たい」
私は、即答をした。見える景色を、変えたかった。
「宗近様は、忽然と姿を消された。身ごもった村の娘と共に、な。むろん、探し回った。そして、見つけた」
ゆっくりと、爺様の顔が持ち上がる。ひたりと目を合わし、懐かしさをにじませた爺様が言った。
「よう、健やかにお育ち下さいましたな、伊佐姫様」
体中から、力が抜け落ちてしまった気がした。なんとなく、話を聞きながらもしやその村娘が身ごもったというのは、私のことでは無いかとは思ったけれども、理解と納得をするには爺様の話は簡潔にすぎる。それがわかっているのだろう。爺様は手を伸ばし、父様の形見を掴んだ。古ぼけた布を開き、小刀を両手にささげて見せてくる。
初めて見る父様の形見の小刀は、白木の柄と鞘に彫り物がされてあった。蔦がからまり、花を咲かせている。柄に、台形に逆三角形が重なり、その上に小さな丸が描かれている模様があった。
「これは、伊駒家の家紋。この小刀は、宗近様がお生まれになった時に、この爺が作らせた守り刀に相違ない」
弾かれたように爺様を見た。
「この爺は、宗近様の養育係を、まかされておりました」
「父様の、養育係――」
呆然と反芻した私へ、言葉遣いを改めた爺様はにこやかに頷く。
「そして、これから姫様の養育係も務めさせていただきます」
いったい何がどうなって、こんな話になってしまっているのか。嫌悪からではなく、唐突すぎる話に頭が理解を拒絶していた。腑に落ちない所も多々あると言うのに、疑問と質問が具体的な形を取らずにクラゲのように浮遊している。
そんな状態であることを察したのであろう爺様は、そっと私の膝の上に布ごと小刀を置いて立ち上がった。
「庭に、散歩にでも行かれますか。それとも、一人で少し、考えてみますか」
「庭に出たい」
私は、即答をした。見える景色を、変えたかった。
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