凪の潮騒

水戸けい

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 思いながら進めば、道の先が開けているのが見えた。だんだんと近づき、林を抜けたそこには小さな庵が結ばれていた。

 庵に近づいてみるが、手入れはされているものの、人が住んでいる気配がない。扉を開けていいものか悩んでいると、横から手が伸びてきた。

 爺様が扉を開けて、中に入るよう促してくる。何があるのかと思いつつ足を踏み入れ、何の変哲も無い――必要最低限のものしかない、私の家とかわらない場所をぐるりと見回した。

「ここに、宗近様はよく来られた」

 語りかけるように、独り言のように言いながら、爺様は大切そうに壁を撫でた。

「いつか戻ってこられた時にと思って手入れをしてきたが、宗近様は戻られず、姫様が来られた。――庭を回るでは無く、こちらに参られたのは何かがえにしを結ぼうとしているからでしょうなぁ」

 しみじみと庵に語りかける爺様は、私を見ようともしない。旧友を見る眼差しで、庵を見つめている。

 ここは、父様が結んだ庵なのか。

 そう思うと、なぜか懐かしみを感じた。――家と似通った庵。父様は、ここでの生活を忘れることが出来ず、家も同じような作りにしたのだろうか。父様が村で漁師らと親しくしていたのなら、漁師の家に上がったことがあるのかもしれない。そうしてそれを模した作りにした、ということも考えられる。

 ぐるりと見回し、釣竿が水瓶の横に立てかけてあるのが見えた。近寄り、手を伸ばす。ここで生活をしていた時は、これで釣りをしていたのだろうか。

「そろそろ、戻りますか」

 決定事項をやんわりと告げた爺様の背が導くままに、私はあの広いくせに窮屈な部屋へ戻った。


 誰もいない部屋で、ぼんやりと畳の上に大の字に寝転がり天井を見つめる。たたみの上に乗ることがあるなんて、想像すらしなかった。板間にむしろを重ねて敷くぐらいがせいぜいで、畳の上に寝転がるなど、畳というものの存在を頭に浮かべることすら無いくらいに、無縁の事だった。

 ころりと寝返りを打てば、イ草の良い香りがした。

 肌触りの良い衣に、作り物のように繊細な食事と菓子。そして畳――――。

 部屋の広さは家の倍ほどの大きさで、奥村の爺様が言うにはこれでも狭い方らしい。村人は、この半分の大きさの家で家族と生活をしているものもあるというのに。
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