47 / 84
47
しおりを挟む
そして、父様が今でも帰ってくるのではないかと――海の底に眠っているであろうことを認めていなかった自分を、父様が死んだことを確認するような話をする中で、知った。
静かに、涙が頬を伝うに任せて拳を握り、唇を噛む。少し考えれば、気付けたはずだ。汁が出来ていることを、不思議に思いはした。けれど、それ以上何かを思うことなく、受け入れていた。玄関先に届けられるものがあることも、父様がいるころよりあったことだと、当たり前のことだと受け止めていた。
私は、なんて傲慢だったのか――。
あたたかく、やわらかなものに包まれた心に、自分の浅はかさを呪う気持ちや後悔も生まれる。村の人々の気遣いが――死してもなお届けられる父様の優しさが、私を生かしていた。
「――帰りたい」
思うより先に、言葉が出た。
帰りたい。
私の居る場所は、あの家だ。こんな大きな屋敷の畳の上ではない。板張りの、この部屋の半分ほどの広さの古ぼけた家だ。――ああ、そうだ。幸正と投網の練習をしていて、沢山捕らえた魚を干しているんだ。あれを取り入れ、村の人々に配ろう。全員に配れるほどは無いから、手近なものをつかまえて渡して分けてもらうように言えばいい。私が今まで与えられてきた分を、返したい。ほんの少しでも、返していきたい。
手の甲に涙が落ちる。
「帰りたい」
「ここが、伊佐姫様の家であるのに――?」
首を振り、違うと呟く。
「帰らせて」
「出来かねますな」
「どうして――」
顔を上げれば、別人のように険しく厳しい顔をした奥村の爺様が居た。
「伊佐姫様は、この伊駒家になくてはならぬ存在だからです」
「私には、関係の無いことだ」
「伊駒家の正当な血を引くものは、伊佐姫様しかおらぬのです」
「それは、そっちの都合だろう」
「伊駒家が取り潰しになれば、あの漁村は飢えることになると言えば、帰るわけにもまいりますまい」
「――え」
静かに、涙が頬を伝うに任せて拳を握り、唇を噛む。少し考えれば、気付けたはずだ。汁が出来ていることを、不思議に思いはした。けれど、それ以上何かを思うことなく、受け入れていた。玄関先に届けられるものがあることも、父様がいるころよりあったことだと、当たり前のことだと受け止めていた。
私は、なんて傲慢だったのか――。
あたたかく、やわらかなものに包まれた心に、自分の浅はかさを呪う気持ちや後悔も生まれる。村の人々の気遣いが――死してもなお届けられる父様の優しさが、私を生かしていた。
「――帰りたい」
思うより先に、言葉が出た。
帰りたい。
私の居る場所は、あの家だ。こんな大きな屋敷の畳の上ではない。板張りの、この部屋の半分ほどの広さの古ぼけた家だ。――ああ、そうだ。幸正と投網の練習をしていて、沢山捕らえた魚を干しているんだ。あれを取り入れ、村の人々に配ろう。全員に配れるほどは無いから、手近なものをつかまえて渡して分けてもらうように言えばいい。私が今まで与えられてきた分を、返したい。ほんの少しでも、返していきたい。
手の甲に涙が落ちる。
「帰りたい」
「ここが、伊佐姫様の家であるのに――?」
首を振り、違うと呟く。
「帰らせて」
「出来かねますな」
「どうして――」
顔を上げれば、別人のように険しく厳しい顔をした奥村の爺様が居た。
「伊佐姫様は、この伊駒家になくてはならぬ存在だからです」
「私には、関係の無いことだ」
「伊駒家の正当な血を引くものは、伊佐姫様しかおらぬのです」
「それは、そっちの都合だろう」
「伊駒家が取り潰しになれば、あの漁村は飢えることになると言えば、帰るわけにもまいりますまい」
「――え」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる