凪の潮騒

水戸けい

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 爺様は、いたずらをする子どものような顔をして、ぺろりと舌を出した。

「爺様」

 はぐらかされたのではと思い、咎めるように呼ぶと爺様は眉を引き締めた。

「この爺は、宗近様のことを深く存じておりますでな。家中の誰にも知られずに、居場所を見つけて様子を探るなど、造作も無いこと。――伊佐姫様が年頃になるまでは、誰にも知らせず宗近様の思うに任せて過ごしていただこうと思うておりましたが、宗近様が亡くなられ、姫様が海で危うく命を落とされかけたと知り、あわてて迎える体制を整えねばと、居場所を改めて探しなおすという態を作り、家中のものにさも今見つけたという風に見せるという細工をせねばならなかったがために、お怪我をなされてからお連れするまで時間がかかってしまいもうした」

 手を着き、頭を下げられる。

「では、爺様は父様がどのように過ごしていたかを――父様が命を落としたことを、知っていたのか」

「数年前に、爺が名代みょうだい――つまり、仮の当主となっている身代わりの代理として他国へ出向くことになり、様子を見るものを内密に出すことが、できなくなりましてなぁ」

 体を起しながら言う爺様は、ひどく悔しそうだった。

「他国に三年ほど滞在せねばならぬ、あのことが無ければ宗近様が亡くなられた後すぐにでも、伊佐姫様をお助けできたかもしれぬと――危うく命を落としかけることもなかったはずと、悔やんでも悔やみきれませぬ」

 さまざまな後悔をにじませた爺様が、拳を握りしめて震えている。手を伸ばし、震える爺様の拳を両手で包めば奥歯を噛みしめ首を振った爺様が、私の手の甲に額を乗せた。

「申し訳、ございませぬ――」

 食いしばった歯の隙間から零れた謝罪に、言葉にできない想いを両手に込めて力を強める。爺様は、父様の居所を知っていた。知っていながら、誰にも何も言わずに見守ってくれていた。そうして、私の事を案じて迎えるために誰の目から見ても不自然にならぬよう、改めての探索を行うという態を作った。――それまでも、探索をするものはあったろう。それでも私がこの年になるまで見つからなかったという事は、爺様が見つからぬように何かをしてくれていたのではないか。父様と私が過ごせるように、配慮をしてくれていたのではないか。私が村に守られていることに気付かなかったように、父様は爺様に守られていたのではないか。

「もっと早く、お声をかけて迎えに行けば宗近様は…………――何も、この爺より先に逝かれずとも、良いではありませんか」
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