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「おかしな話だ」
自分の捕まえたものを食べていたのが、自分の身代わりとなって当主にさせられた宗也だったとは。
ひやりと肩が暁闇に冷えて、身震いをして横になる。ぴたりと宗也に沿えばあたたかく、ゆっくりと息を吐き出して目を閉じる。――幸正とは違う匂いと、温もり。これからは、私はこの温もりにつつまれ、この温もりをつつんで生きていく。伊駒家のものとして、過ごしていく。
「――伊佐姫」
半分、眠りの中にいる声で呼ばれた。薄目を開けた宗也が、気だるそうな息を吐く。
「まだ、明けていない――眠っていればいい」
自然と口の端が持ち上がり、手を伸ばして髪を撫でた。膿んだ痛みが消えぬままに、宗也の頭を包むように抱きしめて、胸に引き寄せる。昼餉の後、正式に私が伊駒家へ戻った事を知らしめる顔見世があり、宗也を夫として治政をおこなっていくことを宣言することになっている。
もそ、と宗也が動いて私の胸に顔を押し付けてきた。背に腕が回り、小さな子どもにしがみつかれているような気になって、体中でくるむように抱きしめ返した。
「……伊佐姫」
「伊佐でいい」
「――――伊佐」
「うん?」
「伊佐は、幸正を慕っているのか」
問いに、体がこわばった。触れている箇所で伝わっているはずなのに、宗也は少しも気付かぬ様子で私の胸に顔をうずめている。細く長く吐き出された宗也の息が、胸の間にふれてくすぐったく、胸の痛みからあふれ出る膿を吹き分けて傷口を診ようとしているように思えた。
「先ほど、名をつぶやいただろう」
「――聞こえていたのか」
答える代わりに、宗也が腕に力を込めて体を押し付けてきた。
「幸正に、会いたいか」
「…………もう、済んだことだ」
そう、終わったことだ。幸正は命に従って私に近づき、私を案じて親身になっていただけだ。自分が仕えるべき本当の血筋である私を、そのように見ていただけだ。私に知られぬようにとの言葉を忠実に守り、悟られぬように振る舞っていただけだ。そして私は、自分の身分など気付かぬまま幸正はどうして私に、と思いを巡らせ想いを向けて父様の形見を手に取り身に着けた。――幸正と共に在っても恥じぬ身分どころか、仕えさせる身分になってしまった。
自分の捕まえたものを食べていたのが、自分の身代わりとなって当主にさせられた宗也だったとは。
ひやりと肩が暁闇に冷えて、身震いをして横になる。ぴたりと宗也に沿えばあたたかく、ゆっくりと息を吐き出して目を閉じる。――幸正とは違う匂いと、温もり。これからは、私はこの温もりにつつまれ、この温もりをつつんで生きていく。伊駒家のものとして、過ごしていく。
「――伊佐姫」
半分、眠りの中にいる声で呼ばれた。薄目を開けた宗也が、気だるそうな息を吐く。
「まだ、明けていない――眠っていればいい」
自然と口の端が持ち上がり、手を伸ばして髪を撫でた。膿んだ痛みが消えぬままに、宗也の頭を包むように抱きしめて、胸に引き寄せる。昼餉の後、正式に私が伊駒家へ戻った事を知らしめる顔見世があり、宗也を夫として治政をおこなっていくことを宣言することになっている。
もそ、と宗也が動いて私の胸に顔を押し付けてきた。背に腕が回り、小さな子どもにしがみつかれているような気になって、体中でくるむように抱きしめ返した。
「……伊佐姫」
「伊佐でいい」
「――――伊佐」
「うん?」
「伊佐は、幸正を慕っているのか」
問いに、体がこわばった。触れている箇所で伝わっているはずなのに、宗也は少しも気付かぬ様子で私の胸に顔をうずめている。細く長く吐き出された宗也の息が、胸の間にふれてくすぐったく、胸の痛みからあふれ出る膿を吹き分けて傷口を診ようとしているように思えた。
「先ほど、名をつぶやいただろう」
「――聞こえていたのか」
答える代わりに、宗也が腕に力を込めて体を押し付けてきた。
「幸正に、会いたいか」
「…………もう、済んだことだ」
そう、終わったことだ。幸正は命に従って私に近づき、私を案じて親身になっていただけだ。自分が仕えるべき本当の血筋である私を、そのように見ていただけだ。私に知られぬようにとの言葉を忠実に守り、悟られぬように振る舞っていただけだ。そして私は、自分の身分など気付かぬまま幸正はどうして私に、と思いを巡らせ想いを向けて父様の形見を手に取り身に着けた。――幸正と共に在っても恥じぬ身分どころか、仕えさせる身分になってしまった。
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