65 / 84
65
しおりを挟む
「伊佐姫様を見つけたは、そこにある佐野幸正が手柄。宗也様が好むものを朝餉にも用意するため、幸正が漁村に出向き少しでも早く食材を手に入れようとしていた折に、伊佐姫様らしきものの話を聞きつけ調べ、姫様であることをつきとめた。みな、幸正の働きに感謝せよ」
爺様の言葉に、奥歯を噛みしめる。心のどこかで偶然だっただけと思いたがっていた部分が、粉々に砕かれた。――幸正は、命じられて私に接していたのだ。
「姫様は昨日こちらへ到着なされたばかり。未だ落ち着く心地もせぬでしょう。この場はこれでお開きとし、こちらの暮らしに慣れた頃に改めての挨拶と宗也様との婚儀を行う」
爺様が言い、徳が私を促して立ち上がらせる。宗也も立ってゆるゆると退室の為に足を進めるのに従いながら、横目で幸正の姿を見続けた。幸正は、まっすぐに私を見つめていた。何か、言いたいことがあるのだと訴えている。――今すぐ駆け寄り、その視線が含む熱さの意味を知りたい。
思いとは裏腹に、私は大広間の敷居をまたぎ廊下に出て、襖の締まる音を聞いた。そのまま徳と爺様の後に続いて宗也と共に部屋へと進む。誰しもが薄気味の悪い沈黙を纏っている。
無言のまま進み、部屋の前で頭を下げて徳と爺様が去ろうとするのへ
「爺様」
思わず声をかけた。
「少しだけ、話がある」
不機嫌そうに物言いたげな目をした徳を、微笑で制した爺様が頷いた。
「では、徳は宗也様をお送りするように」
不満を隠そうともしない顔で了承した徳が、宗也を連れて去っていく。その背中が角を曲がって見えなくなってから、爺様は肩をすくめた。
「あれは、優秀すぎるがゆえに融通がきかずに困る」
さあ、と促されて部屋に入る。ぴったりと襖を閉めた爺様が先に坐して、私も座った。
「幸正の何を、知りたいと思われておるのですかな」
「――――どうして」
「わからぬほうが、おかしいでしょう。徳も、それを気にして機嫌の悪い顔をしておったのですからな」
「何故、幸正の事を私が知りたがれば、徳が機嫌を損ねるんだ」
「幸正は、身分にこだわりなく振る舞う男。それゆえに、身分や形式を重んじる徳には、不快となるのです。――――幸正の何が、気になりますかな」
問われ、口を開くのに声が出ない。知りたい気持ちと知りたくない思いが交錯し、頭の中にある疑問を音にするのを阻んでいる。口を開いては閉じ、閉じては開いて目をさまよわせる私に微笑み、爺様は膝を寄せてささやいた。
爺様の言葉に、奥歯を噛みしめる。心のどこかで偶然だっただけと思いたがっていた部分が、粉々に砕かれた。――幸正は、命じられて私に接していたのだ。
「姫様は昨日こちらへ到着なされたばかり。未だ落ち着く心地もせぬでしょう。この場はこれでお開きとし、こちらの暮らしに慣れた頃に改めての挨拶と宗也様との婚儀を行う」
爺様が言い、徳が私を促して立ち上がらせる。宗也も立ってゆるゆると退室の為に足を進めるのに従いながら、横目で幸正の姿を見続けた。幸正は、まっすぐに私を見つめていた。何か、言いたいことがあるのだと訴えている。――今すぐ駆け寄り、その視線が含む熱さの意味を知りたい。
思いとは裏腹に、私は大広間の敷居をまたぎ廊下に出て、襖の締まる音を聞いた。そのまま徳と爺様の後に続いて宗也と共に部屋へと進む。誰しもが薄気味の悪い沈黙を纏っている。
無言のまま進み、部屋の前で頭を下げて徳と爺様が去ろうとするのへ
「爺様」
思わず声をかけた。
「少しだけ、話がある」
不機嫌そうに物言いたげな目をした徳を、微笑で制した爺様が頷いた。
「では、徳は宗也様をお送りするように」
不満を隠そうともしない顔で了承した徳が、宗也を連れて去っていく。その背中が角を曲がって見えなくなってから、爺様は肩をすくめた。
「あれは、優秀すぎるがゆえに融通がきかずに困る」
さあ、と促されて部屋に入る。ぴったりと襖を閉めた爺様が先に坐して、私も座った。
「幸正の何を、知りたいと思われておるのですかな」
「――――どうして」
「わからぬほうが、おかしいでしょう。徳も、それを気にして機嫌の悪い顔をしておったのですからな」
「何故、幸正の事を私が知りたがれば、徳が機嫌を損ねるんだ」
「幸正は、身分にこだわりなく振る舞う男。それゆえに、身分や形式を重んじる徳には、不快となるのです。――――幸正の何が、気になりますかな」
問われ、口を開くのに声が出ない。知りたい気持ちと知りたくない思いが交錯し、頭の中にある疑問を音にするのを阻んでいる。口を開いては閉じ、閉じては開いて目をさまよわせる私に微笑み、爺様は膝を寄せてささやいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる