凪の潮騒

水戸けい

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「伊佐姫様を見つけたは、そこにある佐野幸正が手柄。宗也様が好むものを朝餉にも用意するため、幸正が漁村に出向き少しでも早く食材を手に入れようとしていた折に、伊佐姫様らしきものの話を聞きつけ調べ、姫様であることをつきとめた。みな、幸正の働きに感謝せよ」

 爺様の言葉に、奥歯を噛みしめる。心のどこかで偶然だっただけと思いたがっていた部分が、粉々に砕かれた。――幸正は、命じられて私に接していたのだ。

「姫様は昨日こちらへ到着なされたばかり。未だ落ち着く心地もせぬでしょう。この場はこれでお開きとし、こちらの暮らしに慣れた頃に改めての挨拶と宗也様との婚儀を行う」

 爺様が言い、徳が私を促して立ち上がらせる。宗也も立ってゆるゆると退室の為に足を進めるのに従いながら、横目で幸正の姿を見続けた。幸正は、まっすぐに私を見つめていた。何か、言いたいことがあるのだと訴えている。――今すぐ駆け寄り、その視線が含む熱さの意味を知りたい。

 思いとは裏腹に、私は大広間の敷居をまたぎ廊下に出て、襖の締まる音を聞いた。そのまま徳と爺様の後に続いて宗也と共に部屋へと進む。誰しもが薄気味の悪い沈黙を纏っている。

 無言のまま進み、部屋の前で頭を下げて徳と爺様が去ろうとするのへ

「爺様」

 思わず声をかけた。

「少しだけ、話がある」

 不機嫌そうに物言いたげな目をした徳を、微笑で制した爺様が頷いた。

「では、徳は宗也様をお送りするように」

 不満を隠そうともしない顔で了承した徳が、宗也を連れて去っていく。その背中が角を曲がって見えなくなってから、爺様は肩をすくめた。

「あれは、優秀すぎるがゆえに融通がきかずに困る」

 さあ、と促されて部屋に入る。ぴったりと襖を閉めた爺様が先に坐して、私も座った。

「幸正の何を、知りたいと思われておるのですかな」

「――――どうして」

「わからぬほうが、おかしいでしょう。徳も、それを気にして機嫌の悪い顔をしておったのですからな」

「何故、幸正の事を私が知りたがれば、徳が機嫌を損ねるんだ」

「幸正は、身分にこだわりなく振る舞う男。それゆえに、身分や形式を重んじる徳には、不快となるのです。――――幸正の何が、気になりますかな」

 問われ、口を開くのに声が出ない。知りたい気持ちと知りたくない思いが交錯し、頭の中にある疑問を音にするのを阻んでいる。口を開いては閉じ、閉じては開いて目をさまよわせる私に微笑み、爺様は膝を寄せてささやいた。
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