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心臓が真綿に包まれたように心地よくて、くすぐったい。
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近貞は、久嗣から私が「会いたい」と言ったことを聞いて、どう思ったのだろう。どう、感じたのだろう。
文の内容や久嗣を傍に置いてくれたことから、気にかけてくれているのだと伝わってくる。けれど、それは私と同じように思っての事だとは限らない。弓の話のできる相手、というだけのことかもしれない。だって、初めて会った時――近貞は満月に弓を引く私の姿を見て、話をしようと思ったのだもの。誰にも邪魔をされずに、ゆるりと弓の話をするためだけに、私を抱き上げたんだもの。
子どもが何か素晴らしいものを見つけた時のような顔をして、近貞は私を運んだ。香の匂いのしない、たくましい腕で抱え上げて。
ほう、と悩ましい息と共に、あの夜の月が胸に満ちていく。目を閉じて、あの時の月を思い浮かべ、手を伸ばし、見えない弓を手にする。
心の真ん中に浮かんだ月は、ふっくらと優しく、白く輝いている。
ああ――。
うっとりと、心が震えた。あの月に心を届かせることが出来たら――。
肩を開き、胸に添うように矢を番えて心の中の月を見つめる。耳に届くわずかな音や、触れている床板の感触。それらすべてが消えうせて、世の中は私と月だけになる。
ああ――。
それだけでも、なんて気持ちがいいんだろう。心臓が真綿に包まれたように心地よくて、くすぐったい。
ぱ――。
見えない矢を抓んでいた指を、開く。音も無く形の無い矢はまっすぐに、月に吸い込まれていく。
ああ、あ――。
仰け反り、身悶えそうになるほどに気持ちがいい。唇から、ほろりと熱い息が漏れる。体の芯が疼いて、矢が的に到着するのを待ちわびている。
ぱぁ……ん――――。
見えない矢が、月に当って粉々に砕けた。
ほう、と熱に浮かされたように息を吐いて、目を開くと庭草の中に近貞の姿があった。
驚きすぎて、声が出ない。
やわらかな笑みを浮かべて草の中にいる近貞は、日の光の中で輝いて見える。
「ここに」
近貞が胸に手を当てる。
「まっすぐに届いた」
文の内容や久嗣を傍に置いてくれたことから、気にかけてくれているのだと伝わってくる。けれど、それは私と同じように思っての事だとは限らない。弓の話のできる相手、というだけのことかもしれない。だって、初めて会った時――近貞は満月に弓を引く私の姿を見て、話をしようと思ったのだもの。誰にも邪魔をされずに、ゆるりと弓の話をするためだけに、私を抱き上げたんだもの。
子どもが何か素晴らしいものを見つけた時のような顔をして、近貞は私を運んだ。香の匂いのしない、たくましい腕で抱え上げて。
ほう、と悩ましい息と共に、あの夜の月が胸に満ちていく。目を閉じて、あの時の月を思い浮かべ、手を伸ばし、見えない弓を手にする。
心の真ん中に浮かんだ月は、ふっくらと優しく、白く輝いている。
ああ――。
うっとりと、心が震えた。あの月に心を届かせることが出来たら――。
肩を開き、胸に添うように矢を番えて心の中の月を見つめる。耳に届くわずかな音や、触れている床板の感触。それらすべてが消えうせて、世の中は私と月だけになる。
ああ――。
それだけでも、なんて気持ちがいいんだろう。心臓が真綿に包まれたように心地よくて、くすぐったい。
ぱ――。
見えない矢を抓んでいた指を、開く。音も無く形の無い矢はまっすぐに、月に吸い込まれていく。
ああ、あ――。
仰け反り、身悶えそうになるほどに気持ちがいい。唇から、ほろりと熱い息が漏れる。体の芯が疼いて、矢が的に到着するのを待ちわびている。
ぱぁ……ん――――。
見えない矢が、月に当って粉々に砕けた。
ほう、と熱に浮かされたように息を吐いて、目を開くと庭草の中に近貞の姿があった。
驚きすぎて、声が出ない。
やわらかな笑みを浮かべて草の中にいる近貞は、日の光の中で輝いて見える。
「ここに」
近貞が胸に手を当てる。
「まっすぐに届いた」
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