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「今まで通りに、かぐや殿と呼び態度を改めなくとも、良いか」
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ぶわ、と足元からあたたかな風が噴き上がった気がした。
「上がっても、かまわぬか」
頷くと、近貞が傍に寄り、向かいに座った。
「思ったよりも、元気そうで安心をした」
「御心配を、おかけいたしました」
頭を下げようとすれば、手で制止をされた。
「かぐや殿が、どこの誰かを知ってしまった」
あっと口を手で押さえる。そうよ――互いの素性を知らないままでいたほうがいいと、秘密にしあっていたのに。
「あの……」
うろたえると、安心させるように強く頷いて見せた近貞は背筋を正して、胸を張った。
「某は、武藤家の次男で武藤近貞と申す。御父君には、我が父、我が兄と共にお世話になっており申す」
深々と、頭を下げる。家格は、当然のことながらこちらが上で、近貞の態度はしごく当然の事なのだけれど、居心地が悪い。
「朔姫様には、数々のご無礼のほど、ご容赦いただきたく存じまする」
顔を上げてもらいたいのに、今まで通りにしてほしいのに、どうすればいいのかがわからない。
頭を下げたままの近貞の肩が震えて、ぐんと勢いよく顔が上がったと思ったら
「はは――どうにも、落ち着かぬな」
豪快に笑われて、目を丸くする。
「今まで通りに、かぐや殿と呼び態度を改めなくとも、良いか」
にこりとされて頷けば、よかったと呟かれた。
「どうして……」
首をかしげた近貞が、少し考えてから
「たどり付けば、かぐや殿の部屋の場所を教えてもらった。女房殿が茶を用意しておくからと言うので、庭伝いに来た。俺がここに来ることは、前々から決まっていた上に、その……久嗣より、会いたがっていると言われて急いで参った」
少し目を伏せて照れくさそうにする近貞に、くすぐったくてやわらかな気持ちが湧き上がる。けれどそれは、次の言葉で水のかかった綿のように、重たくしぼんだ。
「かぐや殿――朔姫様は、兄上の妻にと父が望んでおるからな」
「――――え」
「いずれは姉上となる方の警護に、少しでも早く参らねばと思うたのだ」
「上がっても、かまわぬか」
頷くと、近貞が傍に寄り、向かいに座った。
「思ったよりも、元気そうで安心をした」
「御心配を、おかけいたしました」
頭を下げようとすれば、手で制止をされた。
「かぐや殿が、どこの誰かを知ってしまった」
あっと口を手で押さえる。そうよ――互いの素性を知らないままでいたほうがいいと、秘密にしあっていたのに。
「あの……」
うろたえると、安心させるように強く頷いて見せた近貞は背筋を正して、胸を張った。
「某は、武藤家の次男で武藤近貞と申す。御父君には、我が父、我が兄と共にお世話になっており申す」
深々と、頭を下げる。家格は、当然のことながらこちらが上で、近貞の態度はしごく当然の事なのだけれど、居心地が悪い。
「朔姫様には、数々のご無礼のほど、ご容赦いただきたく存じまする」
顔を上げてもらいたいのに、今まで通りにしてほしいのに、どうすればいいのかがわからない。
頭を下げたままの近貞の肩が震えて、ぐんと勢いよく顔が上がったと思ったら
「はは――どうにも、落ち着かぬな」
豪快に笑われて、目を丸くする。
「今まで通りに、かぐや殿と呼び態度を改めなくとも、良いか」
にこりとされて頷けば、よかったと呟かれた。
「どうして……」
首をかしげた近貞が、少し考えてから
「たどり付けば、かぐや殿の部屋の場所を教えてもらった。女房殿が茶を用意しておくからと言うので、庭伝いに来た。俺がここに来ることは、前々から決まっていた上に、その……久嗣より、会いたがっていると言われて急いで参った」
少し目を伏せて照れくさそうにする近貞に、くすぐったくてやわらかな気持ちが湧き上がる。けれどそれは、次の言葉で水のかかった綿のように、重たくしぼんだ。
「かぐや殿――朔姫様は、兄上の妻にと父が望んでおるからな」
「――――え」
「いずれは姉上となる方の警護に、少しでも早く参らねばと思うたのだ」
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