ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「ったく、馬鹿力。俺を窒息させる気かよ」

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 いいやつ。……じゃ、ない。

「恭平だから、したんだ。恭平だから、キスをしたいと思ったんだ」

 男だからとか女だからとか、そういうんじゃなくて。恭平だから。ずっと、想い続けている相手だから。だから、キスをためらい、キスをしたんだ。

 床に着いていた手を離し、恭平に自分の重さを預けて抱きしめる。このままこの腕の中で、恭平がつぶれてしまえばいい。このまま、この胸の奥深くに恭平を閉じ込めてしまいたいと考えながら、腕に力を込める。

「俺は、恭平だから。だから――」

 だから、キスをしたんだ。

「譲。苦しい」

 耳元でうめかれて、はっとして腕を離し飛び退く。

「ご、ごめん」

 必死すぎて、力加減ができなかったらしい。

「ったく、馬鹿力。俺を窒息させる気かよ」

 冗談めかして起き上がる恭平の眉は息苦しそうにひそめられていて、彼が右手で胸元を抑えていることに、本当に苦しかったんだなと推察できた。

「ごめん」

 しゅんとうなだれ身を小さくする譲の肩に、恭平が触れる。

「ったく。譲はほんと、猪突猛進っつうか、なんつうか。これと思ったら勢いのままに行動するんだもんな」

「うう」

 情けなさに、うめくことしかできない。さらに頭を下げて肩を小さくすぼめた譲を、恭平が抱きしめた。

「くだらねぇ遊びに、付き合わせちまったな。いやなら、いやって言ってくれ。アイツらも中止にするつっても、文句を言わないだろ」

 ぽん、と軽く背中を叩いた恭平が離れようとする。このまま離れてしまえば、今までよりも距離が遠くなってしまいそうで、譲は彼の腰を抱きしめ引き留めた。

「譲?」

「別に。俺も、面白がったし。練習期間を設けようって言いだしたのは、俺だし」

「だから。そんなことを気にしなくても別に、かまわねぇんだって。たかだか遊びなんだから。女装した俺と恋人ごっこなんざ、やっぱ気持ち悪いだろ」

「気持ち悪いなんて、思ってない」

 そう。気持ち悪いなど、かけらも思っていない。

「キスも、嫌だったわけじゃないんだ」

 ただ、ずっと想い続けた相手が腕の中にいて、まるでキスを待っているように顔を上げて目を閉じていたから。そんなはずはないのに、自分の思いが先行して、そう見えていただけなのに、キスを求められているような気がして、顔を近づけた。
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