ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「ホテル街だよ。安いところ、知ってるから」

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 少し出来すぎている気がしないでもないが、後ろ暗い気持ちがあるからそう思うのだろうと、恭平は疑念を納得に変えた。譲のテンションが妙に高い気もするが、それだけあの映画が気に入ったというだけだろう。

 ちらりとスマホに目を向けて、恭平は時間を確認した。終電まで、あと十分足らず。ここからは、時間を伸ばそうとする必要はない。会計を済ませて駅に走って向かっても、間に合わない。譲も十分に酔っぱらっている。これ以上呑ませてホテルで完全に眠ってしまわれると困る。酔いながらも感じてくれなければ意味が無い。意識を失わない程度の、記憶が無くなるくらいの酔いでなければ。

「そろそろ、出よっか」

「ん。ああ、うん」

 酔いの為に、少しだけ溶けた譲の声に恭平は目を細めた。この声を、酔いではなく快楽に溶けさせたい。とろりとした酔いを浮かべる瞳を、淫蕩に濁らせたい。

 立ち上がり、伝票を手にした譲がレジに向かう。会計を済ませて店を出て、手を繋ぎ駅に向かった。

 その途中で終電が出発したことを、スマホの終電情報でこっそり確認し、恭平はほくそ笑んだ。あとは、駅に着き電車が無くなってしまったことを知った譲を、不自然にならないようにホテルへ誘えばいい。ホテルに入れば、どうとでもなる。

「あ」

 駅に着き、電光掲示板を見て終電を逃したことに気付いた譲が、呆然と立ちすくむ。

「無くなっちゃったね」

 心中でほくそ笑みながら、恭平はすっかり板についた女言葉で話しかけ、繋いだ手を引き譲の目を自分に向けさせた。

「始発まで過ごせるところ、知ってるから」

 そのまま手を引いて歩けば、譲が抵抗無くついてくる。おそらくカラオケか漫画喫茶あたりだと、譲は思っているのだろう。

 居酒屋が立ち並ぶ賑やかでまぶしい通りを突き抜けて、しっとりと静かなくせにライトが煌々と灯る界隈に入る。握る手から、譲の緊張が伝わってきた。

「恭平」

 薫ではなく恭平と呼ばれたことに、不安そうな響きに、恭平の野欲が疼く。

「ここ」

 ごくりと、譲の喉が動いた。

「ホテル街だよ。安いところ、知ってるから」

 振り向かずに言えば、譲の足が止まった。

「譲?」

 振り向けば、ライトに照らされた酔い顔の譲の目が、無表情に細められていた。

「昔の彼女と、来たことがあるのか」
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