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「これは、ふざけて付けられただけで」
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◇◆◇
こんなに緊張をしているのは、初めてだ。
恭平はホテルの室内に心音が反響しているのではないかと危ぶむほど、全身を包むように苦しく鳴り響く自分の鼓動を聞いていた。
譲も、話があるという。
見れば、譲も相当に緊張をしていた。言う内容にだろうか。聞かされる内容にだろうか。
俺のように、両方だろうな。
気を落ち着かせるために細く長く息を吐き、恭平は上着を脱いでハンガーに掛けた。固い顔をし、突っ立ったままの譲に手を伸ばす。
「上着」
「あ、ああ。うん」
さびた音がしそうなほど硬い動きで譲が上着を脱ぎ、それを恭平の伸ばした手に渡した。受け取る恭平の目が驚愕に硬直し、譲が首をかしげる。
「恭平?」
恭平の目は、譲の首筋で止まっていた。色を失い硬直した恭平の目に、譲の首筋にある歯形が圧倒的な存在感を持って映っていた。
あっと気付いた譲が、あわてて首を手で押さえる。ひきつった譲の頬が、それがどういう意味を持つものかを理解していると示していた。
「誰に、付けられた」
恭平の頭には、一つの名が浮かんでいた。気圧されたように、譲が半歩下がる。
「これは、ふざけて付けられただけで」
「誰に付けられたのかと、聞いてんだ」
恭平の腹の底から、地を這うような声が出た。自分の体が怒りで大きく膨らんでいることを、恭平は感じた。譲を覆い尽くすほど、この怒りが膨らんで彼を縛り、譲をまるごと飲み込んでしまえばいい。
「言えねぇのかよ」
一歩進めば、譲が一歩下がる。困惑と怯えを纏う譲に、怒りの中から嗜虐が生まれた。
譲が、こういうことを苦手としていることは知っている。昔から、自分は関係なくとも、自分の横で誰かが叱られれば、怒鳴り声に怯えて硬直する。それが自分に向けられているとなれば、なおさらだ。思考は停止し、ただ困惑し、怒りをぶつけられ終えるのを待つ。
そうして八つ当たりをされたり、理不尽な事を言われたりする譲を、俺はいつも守ってきたんだ。
それなのに、今は譲を追い詰めている。こんなふうに迫れば、譲は答えるどころじゃなくなると、知っていながら。
止められない――。
「うわっ」
追い詰められた譲が、ベッドに足を取られて沈むように座った。逃さぬように、恭平は譲の肩を掴む。
こんなに緊張をしているのは、初めてだ。
恭平はホテルの室内に心音が反響しているのではないかと危ぶむほど、全身を包むように苦しく鳴り響く自分の鼓動を聞いていた。
譲も、話があるという。
見れば、譲も相当に緊張をしていた。言う内容にだろうか。聞かされる内容にだろうか。
俺のように、両方だろうな。
気を落ち着かせるために細く長く息を吐き、恭平は上着を脱いでハンガーに掛けた。固い顔をし、突っ立ったままの譲に手を伸ばす。
「上着」
「あ、ああ。うん」
さびた音がしそうなほど硬い動きで譲が上着を脱ぎ、それを恭平の伸ばした手に渡した。受け取る恭平の目が驚愕に硬直し、譲が首をかしげる。
「恭平?」
恭平の目は、譲の首筋で止まっていた。色を失い硬直した恭平の目に、譲の首筋にある歯形が圧倒的な存在感を持って映っていた。
あっと気付いた譲が、あわてて首を手で押さえる。ひきつった譲の頬が、それがどういう意味を持つものかを理解していると示していた。
「誰に、付けられた」
恭平の頭には、一つの名が浮かんでいた。気圧されたように、譲が半歩下がる。
「これは、ふざけて付けられただけで」
「誰に付けられたのかと、聞いてんだ」
恭平の腹の底から、地を這うような声が出た。自分の体が怒りで大きく膨らんでいることを、恭平は感じた。譲を覆い尽くすほど、この怒りが膨らんで彼を縛り、譲をまるごと飲み込んでしまえばいい。
「言えねぇのかよ」
一歩進めば、譲が一歩下がる。困惑と怯えを纏う譲に、怒りの中から嗜虐が生まれた。
譲が、こういうことを苦手としていることは知っている。昔から、自分は関係なくとも、自分の横で誰かが叱られれば、怒鳴り声に怯えて硬直する。それが自分に向けられているとなれば、なおさらだ。思考は停止し、ただ困惑し、怒りをぶつけられ終えるのを待つ。
そうして八つ当たりをされたり、理不尽な事を言われたりする譲を、俺はいつも守ってきたんだ。
それなのに、今は譲を追い詰めている。こんなふうに迫れば、譲は答えるどころじゃなくなると、知っていながら。
止められない――。
「うわっ」
追い詰められた譲が、ベッドに足を取られて沈むように座った。逃さぬように、恭平は譲の肩を掴む。
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