ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

文字の大きさ
85 / 110

「抱かれてねぇってんなら、証拠を見せろ」

しおりを挟む
 枝野晴彦に。

「されてないよ」

「じゃあ、これは何だ」

 うっ血を撫で、恭平は怒りに震えた。女の姿をしているとはいえ、男と分かっている相手にキスが出来たのは、そういう経験があったからか。

「彼女なしでも、彼氏はいたってワケかよ」

 喉の奥で、恭平は自分を嘲った。譲への想いを隠すために、好きでも無い相手と付き合って来た。想いは叶わぬと決めつけ、向き合わずに逃げていた。その間に、譲は誰かの手に落ちていて――あるいは初めてが枝野晴彦で。

「恭平? 何、言ってんだよ」

「そうなんだろう」

「だから、違うって」

「抱かれてねぇってんなら、証拠を見せろ」

「証拠って、どうするんだよ」

 恭平がたくしあげた上着を、譲が不機嫌に引き下ろして痕を隠す。その動きすらも、恭平の癪に障った。布に隠された肌の上に、他にもそういう痕が残っているんじゃないのか。

「脱げよ。――抱かせろ」

 譲の上から下りて、ウイッグを脱ぎ捨てる。そのまま上着も脱ぎ捨て、スカートから足を抜き、化粧をふき取り『本田薫』を消した。

「全部、見せろよ。抱かれてねぇかどうか、抱いて判断する」

 男に抱かれたことがあるのなら、かまわないだろう。

 譲が唖然と恭平を見た。

「今の譲の恋人は、期間限定だろうが仮だろうが、俺なんだよ」

 譲の体に、これ見よがしに所有の印をつけやがって。枝野晴彦。アンタの手の中に、譲は戻さない。

 こぼれるほどに目を開いていた譲が、決意をしたように眉をきりりとさせて頷き、上着を脱いだ。緊張気味の手が震えている。ズボンを脱ぎ、靴下を脱ぎ、下着に手をかけ躊躇う譲が、唇を噛んだ。こわばっている手の甲に恭平が指を這わせれば、はっと譲が顔を上げた。

「そこは、俺が脱がせる」

 ふわぁ、と譲の顔が赤くなる。あわてて逸らされた顔に、胸が甘く絞られた。こんなに可愛い譲を、枝野晴彦は見たことがあるのか。

 ちくしょう。

 心の中で悪態をつき、譲に顔を寄せる。がちがちに緊張をしている譲の唇は、いつもよりも硬かった。

「譲」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...