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伯爵、拾いました。
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「よいしょ……、と」
店の掃除をあらかた終えて、裏口の集合ゴミ箱へゴミを捨てたシャルは、ふうっと息を吐き出した。
「ああ、疲れた」
ぼやきながらも笑顔のシャルは、髪を包んでいたスカーフを取った。窓から漏れる灯りを、薄茶色の髪が含んで淡く輝く。緑の瞳を夜空に向けて、シャルはつぶやいた。
「いい月夜」
建物の隙間から、月がちらりと見えている。暗く沈む裏通りは月光を受けて薄藍に染まっていた。
今夜は、満月だ。
広大な湖に面した港町ボティルアーモで、シャル・モリトゥは船乗りや肉体労働者向けの食堂兼総菜屋を営んでいた。
もともとは彼女の両親が経営していたのだが、ふたりは対岸の街に行く船旅の途中、嵐に見舞われ帰らぬ人となってしまった。
それからこの店は、シャルがひとりで切り盛りしている。
「ん?」
店の中に戻ろうとしたシャルは、ゴミ箱の影になにかがあるのを見つけた。なんだろうとのぞき込むとそれは人で、月光に浮かぶ肌は病的なほどに青白かった。
「やだ。ねえ、ちょっと……、大丈夫?」
手を伸ばして肩に触れれば、相手はゆっくりと顔を上げた。目が合って、シャルはハッと息を呑む。
年のころはシャルよりも2つ3つほど上に見えた。シルクのシャツは襟元が上品なレースにふちどられている。こんなところで座り込むような身分の人ではないと、ひと目でわかった。
それよりもシャルを驚かせたのは、彼の端正な顔立ちだった。なんてキレイな人なんだろうと、シャルは見惚れる。
柔和なラインの瞳は深紅に輝き、まっすぐにシャルの視線を受け止めている。通った鼻筋と、やわらかな笑みを浮かべる唇。透けるように白い肌は青白く、幽鬼のたぐいかと思うほどだ。
「大丈夫だ」
その声は澄んでいて、けれど力がこもっていない。シャルはキッと眉を持ち上げ、青年の腕を掴んだ。
「ぜんぜん大丈夫には見えないわ。とりあえず、店の中に入りましょう。こんなところに座っていたら、ネズミにお尻をかじられちゃう」
青年はキョトンとしたかと思うと、クスクスと笑いだした。
「それは困るな」
「でしょう。ほら、立てる?」
シャルが引っ張ると、青年はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、すこしだけ邪魔をさせてもらうよ」
青年は思ったよりもしっかりとした足取りで、シャルはすこし安心した。裏口から入り、調理場のイスに座らせる。
「私はシャル。シャル・モリトゥ。この店の店主よ。あなたは?」
「……僕は、サムタンだ」
サムタンはシャルをまじまじと見つめた。健康そうな肌の色。森の木々に似た茶色の髪は、ゆるいウエーブがかかっている。瞳は緑で、まるで森の妖精だなと、サムタンはほほえんだ。
「私の顔に、なにかついてる?」
「いや」
君が森の妖精のようだから、と言ったらおどろかれるだろう。サムタンは「なんでもない」と首を振った。
「そう? それにしても……」
シャルはサムタンをじっくりとながめた。漆黒の髪はランプの灯りに照らされて、青みがかった艶を浮かべている。瞳は赤く、肌はやはり真っ白で、シミひとつ見当たらない。端正な顔立ちを冷たく感じさせないのは、やわらかな目つきをしているからだろう。シルクのシャツにリネンのパンツ。革のレースアップブーツという上品な装いは、このあたりでは見かけない。
「どこから来たの?」
「えっ」
「このあたりの人ではないでしょう」
シャルの店に来る客に、こんな上品な服装の人間はいない。というか、このあたりで見る男たちはみんな、汚れなど気にしなくてもいい簡素な格好ばかりだ。船乗りや荷揚げ人夫、漁師、買いつけに来る商人や行商人はシルクのシャツなど着はしない。
「もしかして、船主かなにか?」
それならばサムタンの服装にも納得がいく。
「いや、ええと……」
なんと答えるべきかと、サムタンは困った。素直に身分を告げるべきか、彼女の言葉に乗って身分を偽るか。
じっと見てくるシャルの緑の瞳に、サムタンの心が温かな風にそよと吹かれた。陽だまりを思い出して、口元がほころぶ。
「なに? ニヤニヤして」
「ああ、いや。――うん、まあ、そんなところだな」
「はっきりしないのね」
「すまない」
「まあいいわ」
シャルは彼に背を向けて、湯を沸かして残り物の総菜をテーブルに並べた。ふたりで食べるにはすこし足りないけれど、しかたない。お茶を入れたら、明日のために寝かしておいたパウンドケーキを出そう。
慣れた手つきで食事の準備をするシャルに、サムタンは感心した。彼女は給仕に慣れているのか。そういえば、彼女は店主だと言っていたな。店の中には彼女のほかに人の気配がない。
「シャル。君はひとりで店を切り盛りしているのか」
「そうよ」
「ずっと、ひとりで?」
ポットに湯を注いでいたシャルの手が止まった。
「シャル?」
「ずっとじゃないわ。2年前に店主になってからよ。それまでは、両親といっしょに働いていたの」
「ご両親は引退なされたのか」
「引退……。そうね、引退したわ。遠いところで、のんびりと暮らしているの」
「そうか。それは、いいね」
うなずいたシャルのほほえみが悲しげに見えたのは、気のせいだろうか? サムタンはシャルの瞳を見て確認したかった。けれど彼女は横を向いて、ポットの中で茶葉が躍るのをながめている。
サムタンの視線を頬に感じながら、シャルはどうして両親が湖に沈んだと言わなかったのか考えた。きっとまだ信じられないからだ。船が沈んだとは聞いた。遺留品として父の時計と母のネックレスが届けられた。けれど、それだけだ。遺体は見つかっていない。だから、もしかしたらどこかで生きているのではと思ってしまう。生きていてほしいと願ってしまう。
はっきりと口に出してしまえば、希望が砕けてしまいそうで……、だから言えなかったのだ。
「さあ、ご飯を食べましょう」
取り皿とフォークを目の前に置かれて、サムタンはおどろいた。
「ふたりで食べるのか」
「こういう料理は苦手?」
テーブルには鳥と野菜の蒸し焼き、小魚の素揚げ、野菜炒めがすこしずつ並んでいる。
「いや……、食べたことがないから、わからないな」
サムタンの食卓はいつも、スープからはじまりサラダやメインなどが、順番に運ばれてくる。食べるものがすべてテーブルに、ごそっと皿によそわれて出されたことはなかった。
「味はいいわよ。これでも人気のお店なんだから」
ほら、とシャルはサムタンに勧めながら、内心はドキドキしていた。どう見ても上流階級の人間としか思えない彼の口に、自分の料理が合うのか不安だった。
サムタンはおそるおそる鳥と野菜の蒸し焼きを皿に取り、口をつけた。噛むと、じゅわりと肉汁があふれた。それを野菜の甘味が受け止めている。
「うん、おいしい」
「でしょう」
そう言いながら、シャルはホッとした。笑顔のサムタンはちょっとかわいい。人懐こい、というか、警戒心がないように思える。きっと大切に育てられたんだろうなと、シャルは両親が生きていたころの自分と比べた。彼の保護者は心配しているに違いない。
「ねえ、サムタン……、って呼び捨てにしてもいいかな」
サムタンはかじりかけた小魚の素揚げを置いて、うなずいた。
「僕も、シャルと呼ばせてもらおう。いいね」
「もちろんよ。――それでね、サムタン。あなたはどうして、ひとりであんなところにいたの? 付き添いの人とか、いたんじゃない?」
サムタンは目をまたたかせた。
「付き人がいるように見えるのか?」
首をかしげるサムタンに、ほんとうに世間のことをなにも知らないのねと、シャルはあきれながら感心した。
「労働者は労働に適した格好をするものなの。そしてこの界隈は、そういう人が過ごす区画なのよ。サムタンみたいな服装の人が来ないでもないけれど、そういう場合は馬車に乗っていたり、お付きの人がいたりするの」
「お付きの人か」
サムタンは苦い顔をした。白銀の髪をした執事が薄青の瞳を細めて、とうとうと説教をする姿が脳裏に浮かぶ。
「いや……、僕はひとりで来たんだ。ちょっと、街に用事があってね」
「どこから来たの?」
すこしためらってから、サムタンは答えた。
「リスタムン島から」
「リスタムン?!」
シャルの声が跳ね上がる。ごまかせばよかったかなと、サムタンは苦味を覚えた。あの話をシャルが知らないはずはない。彼女は僕を追い出すだろう。
「あの島からやってきたの?! ほんとうに?」
「ああ」
「……えっと、じゃあ、もしかして」
シャルはふたたびサムタンの服をながめ、彼の上品な物腰をたしかめた。
「レムン伯爵、なんてことは言わないわよね」
「そのとおりだよ、シャル。僕はサムタン・レムン。あの島の所有者であり、この界隈の土地を所有しているレムン伯爵だ」
ぼうぜんと、シャルはサムタンを見つめた。レムン伯爵といえば、このボディルアーモ街だけでなく、近隣の農村や牧場などの土地を所有し、リスタムン島の周囲の湖域を管理している雲の上の存在だ。その姿を見たものはなく、許可のある人間しか島には近寄れない。御用商人のみ取引を許され、その商人ですら使用人としか対話ができない。――レムン伯爵は存在しないのではないか、というウワサが立つほど、謎の存在だった。
それよりも人々の間で昔から語られているものは、レムン伯爵は吸血鬼という話だった。レムン伯爵だけでなく、リスタムン島にある城で働くものはみな、人ならざるものだと言われている。島の傍でセイレーンを見ただとか、空を子どもが飛んでいただとか、いろいろなウワサがある。
謎と言われていた人間が、目の前にいる。シャルはゴクリと喉を鳴らした。
「ほんとうに、サムタンはレムン伯爵なのね?」
念押しにサムタンは苦笑した。彼女は僕を追い出すだろうか。僕が吸血鬼であることは、この界隈では知れ渡っていると執事のトリオローノが言っていた。だから、むやみに城の外に出てはならないと。
数代前のレムン伯爵に聖職者が挑んできたことがある。なにも悪さをしていなかったというのに、ただ吸血鬼というだけで迫害をしに来たのだと、トリオローノは見てきたように語った。だから、商人が来てもサムタンは対面をさせてもらえず、島の住人以外の来訪がある間は、城の自室で過ごすように言われていた。
人は異質を嫌うのです。
トリオローノの声が耳奥で響く。シャルは僕に怯えるだろうか。それとも、教会に逃げてしまう? 追い払おうと銀のナイフを振り上げるかもしれない。
サムタンは静かな目でうなずいて、シャルの反応を見た。
シャルはじっとサムタンの青白い肌と赤い瞳を見つめて、なるほどねと思った。こういう容姿なら、吸血鬼というウワサが立ってもしかたがないわ。
「それで? どうしてひとりで街に出てきたの」
「えっ」
「なに?」
「追い出さないのか」
「どうして追い出さなきゃいけないのよ」
キョトンとするシャルに、サムタンはおどろいた。
「吸血鬼は嫌われるものなんだろう?」
「そんなの、ただのウワサでしょ。気にしないでいいわ。きっと肌が白くて目が真っ赤だから、吸血鬼なんて言われるのね。どうやって湖を渡ってきたの? いつ街について、どうやって過ごして、どうして私の店の裏で倒れていたの」
質問を重ねられて、サムタンはあわててすべての返答を口にした。
「商人が城に来たから、こっそりと船に隠れて乗ったんだ。街についたのは昼過ぎだったと思う。それからあちこちを歩きまわって、気がついたらそこの通りに立っていたんだ」
昼過ぎについて歩き回っていたのなら、疲れて当然だとシャルは思った。それに昼間に出歩いていたのなら、やっぱり吸血鬼なんてただのウワサなんだわ。吸血鬼は日光に当たったら、灰になってしまうんだもの。
「食事はしたの?」
「いや。街についてから、これがはじめての食事だ。なにをどうすればいいのか、さっぱりわからなくて」
眉をさげてほほえむサムタンに、なるほどねとシャルはため息をついた。
「歩き疲れた上に空腹で、倒れてしまったというわけね」
「ああ、そうか。……そういうことなんだな。いい匂いがして、それにつられて路地に入ったんだ。それで――」
倒れるまでの記憶をたどり、サムタンは皿を見た。この料理の匂いに惹かれて、僕はここにたどり着いた。歩き疲れて、空腹で倒れるなんてはじめての体験だ。そんなことがあるなんて想像もしたことがない。島の中を散歩するときは、適度にトリオローノが休憩をうながしてきたし、空腹を感じるころには食事が用意されていた。
「ほんとうに、なにをどうしていいのか、さっぱりわからなくって困っていたんだ」
情けないなと落ち込むサムタンに、シャルは心の奥をうずかせた。この人を助けてあげたい。商人の船に単身乗り込み、街に出てきたからには重大な理由があるのだろう。
「なんのために、街に出てきたの?」
「それは――」
吸血鬼は愛を知れば、血を吸わなくても生きていけると知ったから。そう言えばシャルはどう答えるだろう。彼女はどうやら吸血鬼の存在を信じていないらしい。
「城の外を知りたかったんだ」
それはもうひとつの目的だった。愛を知りたい。そして、島の外にある世界を見てみたい。
「僕は島の中の暮らししか知らないんだ。人々がどんな生活をしているのか、統治をしているはずの僕が知らないなんて、変だと思うだろう?」
「そうね。――たしかに、そうかも」
力なく笑うサムタンの理由に、シャルは納得した。伯爵がどんな人かなんて、シャルは気にしたことがない。吸血鬼だとウワサしている人々も、伯爵の人柄や生活なんて気にしたことはないだろう。働く人間は税金として、売り上げのなかの微々たる金額を役場に納めている。それが伯爵の生活を支えているのだと知ってはいるが、実感はなかった。税金は港や町の整備にも使われるからだ。自分たちの街を維持するために、売り上げの一部を役場に預ける。そんな感覚で人々は暮らしている。
税金は伯爵家にも、ちゃんと届けられていたのね。
本人の口からそう言われるまで、シャルは伯爵家を意識したことはなかった。そのくらい、街の人々と伯爵家とは距離がある。港に行けば島影が見えるというのに、互いの存在はそれよりもずっと遠い場所にあった。
「だから、島を抜け出したんだ」
「お城で働く誰かに、連れてきてもらったらよかったんじゃない?」
サムタンは首を振った。
「何度も言ってみたさ。けれど、聞き入れてもらえなかった。島の外は危ないからと」
ずいぶんと過保護に育てられたのねと、シャルはサムタンがかわいそうになった。そんな生活をしているから、サムタンの肌は青白いのだ。
「つまり、家出をしてきたってことでいいのかしら」
「家出……。そうかもしれない。僕は目的を達するまでは、帰らないつもりだ」
「つもりって……。なにも知らないのに、どうやって生活をするの? お金がないと宿には泊まれないし、ご飯も食べられないわよ。働くって言っても、できることがある?」
サムタンは赤くなった。たしかに僕は、働くということを知らない。そもそも、働くとはどういうことかがわからない。人の役に立って賃金を受け取る、という知識だけは持っているが、どんなことができるのか、どういうことが役に立つ行為なのかがわからない。
うつむいたサムタンの姿に、シャルは2年前の自分を重ねた。両親を亡くし、途方に暮れていたころ。店を再開したものの、手伝いをしていたというのにわからないことだらけだった。常連客になぐさめられ、はげまされてここまできた。サムタンはいま、教えてくれる誰かを求めている。彼は生まれたてのヒヨコとおなじで、世の中をなにも知らないのだ。
私を支えてくれた人たちのように、私がサムタンに教えてあげよう。
「ねえ、サムタン」
「お金はないけれど、宝石なら」
サムタンは慌てて袖からカフリンクスを外した。シルバーのカフリンクスにはルビーがついている。これを売れば金になるのではと、シャルに差し出す。
「これを売れば、街に滞在できるだろうか」
シャルはゆるく首を振った。この程度の装飾品では不十分なのかと、サムタンは落胆する。
「あのね、サムタン。それを売らなくても街で過ごせる方法が、ひとつだけあるんだけれど聞いてくれる?」
「えっ」
「お店の上は私の家で、両親の部屋は空いているの。おとうさんの服があるからそれを着て、この店で働いてみない?」
提案に、サムタンは言葉を失った。なんて魅力的な提案だろう。ここにたどり着いたのは、なにかの導きではないかと、サムタンは考える。
「僕にできる仕事があるだろうか」
「それを探すのよ、サムタン。伯爵としての立場を忘れて、私たちの生活に交じるの。なんでも自分でしなくちゃいけない生活だけど、大丈夫?」
シャルはサムタンの顔をのぞきこんだ。料理の匂いに導かれてここに来た彼を、放り出すわけにはいかない。これもなにかの縁だろう。拾ったんだから、責任を持たないとね。
そんな覚悟での提案に、サムタンはホッとした笑みを返した。
「なにができるかわからないけれど、がんばるよ。よろしく、シャル」
「こちらこそ。よろしくね、サムタン」
シャルが右手を差し出すと、サムタンはちょっと首をかしげてからその手をにぎった。
店の掃除をあらかた終えて、裏口の集合ゴミ箱へゴミを捨てたシャルは、ふうっと息を吐き出した。
「ああ、疲れた」
ぼやきながらも笑顔のシャルは、髪を包んでいたスカーフを取った。窓から漏れる灯りを、薄茶色の髪が含んで淡く輝く。緑の瞳を夜空に向けて、シャルはつぶやいた。
「いい月夜」
建物の隙間から、月がちらりと見えている。暗く沈む裏通りは月光を受けて薄藍に染まっていた。
今夜は、満月だ。
広大な湖に面した港町ボティルアーモで、シャル・モリトゥは船乗りや肉体労働者向けの食堂兼総菜屋を営んでいた。
もともとは彼女の両親が経営していたのだが、ふたりは対岸の街に行く船旅の途中、嵐に見舞われ帰らぬ人となってしまった。
それからこの店は、シャルがひとりで切り盛りしている。
「ん?」
店の中に戻ろうとしたシャルは、ゴミ箱の影になにかがあるのを見つけた。なんだろうとのぞき込むとそれは人で、月光に浮かぶ肌は病的なほどに青白かった。
「やだ。ねえ、ちょっと……、大丈夫?」
手を伸ばして肩に触れれば、相手はゆっくりと顔を上げた。目が合って、シャルはハッと息を呑む。
年のころはシャルよりも2つ3つほど上に見えた。シルクのシャツは襟元が上品なレースにふちどられている。こんなところで座り込むような身分の人ではないと、ひと目でわかった。
それよりもシャルを驚かせたのは、彼の端正な顔立ちだった。なんてキレイな人なんだろうと、シャルは見惚れる。
柔和なラインの瞳は深紅に輝き、まっすぐにシャルの視線を受け止めている。通った鼻筋と、やわらかな笑みを浮かべる唇。透けるように白い肌は青白く、幽鬼のたぐいかと思うほどだ。
「大丈夫だ」
その声は澄んでいて、けれど力がこもっていない。シャルはキッと眉を持ち上げ、青年の腕を掴んだ。
「ぜんぜん大丈夫には見えないわ。とりあえず、店の中に入りましょう。こんなところに座っていたら、ネズミにお尻をかじられちゃう」
青年はキョトンとしたかと思うと、クスクスと笑いだした。
「それは困るな」
「でしょう。ほら、立てる?」
シャルが引っ張ると、青年はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、すこしだけ邪魔をさせてもらうよ」
青年は思ったよりもしっかりとした足取りで、シャルはすこし安心した。裏口から入り、調理場のイスに座らせる。
「私はシャル。シャル・モリトゥ。この店の店主よ。あなたは?」
「……僕は、サムタンだ」
サムタンはシャルをまじまじと見つめた。健康そうな肌の色。森の木々に似た茶色の髪は、ゆるいウエーブがかかっている。瞳は緑で、まるで森の妖精だなと、サムタンはほほえんだ。
「私の顔に、なにかついてる?」
「いや」
君が森の妖精のようだから、と言ったらおどろかれるだろう。サムタンは「なんでもない」と首を振った。
「そう? それにしても……」
シャルはサムタンをじっくりとながめた。漆黒の髪はランプの灯りに照らされて、青みがかった艶を浮かべている。瞳は赤く、肌はやはり真っ白で、シミひとつ見当たらない。端正な顔立ちを冷たく感じさせないのは、やわらかな目つきをしているからだろう。シルクのシャツにリネンのパンツ。革のレースアップブーツという上品な装いは、このあたりでは見かけない。
「どこから来たの?」
「えっ」
「このあたりの人ではないでしょう」
シャルの店に来る客に、こんな上品な服装の人間はいない。というか、このあたりで見る男たちはみんな、汚れなど気にしなくてもいい簡素な格好ばかりだ。船乗りや荷揚げ人夫、漁師、買いつけに来る商人や行商人はシルクのシャツなど着はしない。
「もしかして、船主かなにか?」
それならばサムタンの服装にも納得がいく。
「いや、ええと……」
なんと答えるべきかと、サムタンは困った。素直に身分を告げるべきか、彼女の言葉に乗って身分を偽るか。
じっと見てくるシャルの緑の瞳に、サムタンの心が温かな風にそよと吹かれた。陽だまりを思い出して、口元がほころぶ。
「なに? ニヤニヤして」
「ああ、いや。――うん、まあ、そんなところだな」
「はっきりしないのね」
「すまない」
「まあいいわ」
シャルは彼に背を向けて、湯を沸かして残り物の総菜をテーブルに並べた。ふたりで食べるにはすこし足りないけれど、しかたない。お茶を入れたら、明日のために寝かしておいたパウンドケーキを出そう。
慣れた手つきで食事の準備をするシャルに、サムタンは感心した。彼女は給仕に慣れているのか。そういえば、彼女は店主だと言っていたな。店の中には彼女のほかに人の気配がない。
「シャル。君はひとりで店を切り盛りしているのか」
「そうよ」
「ずっと、ひとりで?」
ポットに湯を注いでいたシャルの手が止まった。
「シャル?」
「ずっとじゃないわ。2年前に店主になってからよ。それまでは、両親といっしょに働いていたの」
「ご両親は引退なされたのか」
「引退……。そうね、引退したわ。遠いところで、のんびりと暮らしているの」
「そうか。それは、いいね」
うなずいたシャルのほほえみが悲しげに見えたのは、気のせいだろうか? サムタンはシャルの瞳を見て確認したかった。けれど彼女は横を向いて、ポットの中で茶葉が躍るのをながめている。
サムタンの視線を頬に感じながら、シャルはどうして両親が湖に沈んだと言わなかったのか考えた。きっとまだ信じられないからだ。船が沈んだとは聞いた。遺留品として父の時計と母のネックレスが届けられた。けれど、それだけだ。遺体は見つかっていない。だから、もしかしたらどこかで生きているのではと思ってしまう。生きていてほしいと願ってしまう。
はっきりと口に出してしまえば、希望が砕けてしまいそうで……、だから言えなかったのだ。
「さあ、ご飯を食べましょう」
取り皿とフォークを目の前に置かれて、サムタンはおどろいた。
「ふたりで食べるのか」
「こういう料理は苦手?」
テーブルには鳥と野菜の蒸し焼き、小魚の素揚げ、野菜炒めがすこしずつ並んでいる。
「いや……、食べたことがないから、わからないな」
サムタンの食卓はいつも、スープからはじまりサラダやメインなどが、順番に運ばれてくる。食べるものがすべてテーブルに、ごそっと皿によそわれて出されたことはなかった。
「味はいいわよ。これでも人気のお店なんだから」
ほら、とシャルはサムタンに勧めながら、内心はドキドキしていた。どう見ても上流階級の人間としか思えない彼の口に、自分の料理が合うのか不安だった。
サムタンはおそるおそる鳥と野菜の蒸し焼きを皿に取り、口をつけた。噛むと、じゅわりと肉汁があふれた。それを野菜の甘味が受け止めている。
「うん、おいしい」
「でしょう」
そう言いながら、シャルはホッとした。笑顔のサムタンはちょっとかわいい。人懐こい、というか、警戒心がないように思える。きっと大切に育てられたんだろうなと、シャルは両親が生きていたころの自分と比べた。彼の保護者は心配しているに違いない。
「ねえ、サムタン……、って呼び捨てにしてもいいかな」
サムタンはかじりかけた小魚の素揚げを置いて、うなずいた。
「僕も、シャルと呼ばせてもらおう。いいね」
「もちろんよ。――それでね、サムタン。あなたはどうして、ひとりであんなところにいたの? 付き添いの人とか、いたんじゃない?」
サムタンは目をまたたかせた。
「付き人がいるように見えるのか?」
首をかしげるサムタンに、ほんとうに世間のことをなにも知らないのねと、シャルはあきれながら感心した。
「労働者は労働に適した格好をするものなの。そしてこの界隈は、そういう人が過ごす区画なのよ。サムタンみたいな服装の人が来ないでもないけれど、そういう場合は馬車に乗っていたり、お付きの人がいたりするの」
「お付きの人か」
サムタンは苦い顔をした。白銀の髪をした執事が薄青の瞳を細めて、とうとうと説教をする姿が脳裏に浮かぶ。
「いや……、僕はひとりで来たんだ。ちょっと、街に用事があってね」
「どこから来たの?」
すこしためらってから、サムタンは答えた。
「リスタムン島から」
「リスタムン?!」
シャルの声が跳ね上がる。ごまかせばよかったかなと、サムタンは苦味を覚えた。あの話をシャルが知らないはずはない。彼女は僕を追い出すだろう。
「あの島からやってきたの?! ほんとうに?」
「ああ」
「……えっと、じゃあ、もしかして」
シャルはふたたびサムタンの服をながめ、彼の上品な物腰をたしかめた。
「レムン伯爵、なんてことは言わないわよね」
「そのとおりだよ、シャル。僕はサムタン・レムン。あの島の所有者であり、この界隈の土地を所有しているレムン伯爵だ」
ぼうぜんと、シャルはサムタンを見つめた。レムン伯爵といえば、このボディルアーモ街だけでなく、近隣の農村や牧場などの土地を所有し、リスタムン島の周囲の湖域を管理している雲の上の存在だ。その姿を見たものはなく、許可のある人間しか島には近寄れない。御用商人のみ取引を許され、その商人ですら使用人としか対話ができない。――レムン伯爵は存在しないのではないか、というウワサが立つほど、謎の存在だった。
それよりも人々の間で昔から語られているものは、レムン伯爵は吸血鬼という話だった。レムン伯爵だけでなく、リスタムン島にある城で働くものはみな、人ならざるものだと言われている。島の傍でセイレーンを見ただとか、空を子どもが飛んでいただとか、いろいろなウワサがある。
謎と言われていた人間が、目の前にいる。シャルはゴクリと喉を鳴らした。
「ほんとうに、サムタンはレムン伯爵なのね?」
念押しにサムタンは苦笑した。彼女は僕を追い出すだろうか。僕が吸血鬼であることは、この界隈では知れ渡っていると執事のトリオローノが言っていた。だから、むやみに城の外に出てはならないと。
数代前のレムン伯爵に聖職者が挑んできたことがある。なにも悪さをしていなかったというのに、ただ吸血鬼というだけで迫害をしに来たのだと、トリオローノは見てきたように語った。だから、商人が来てもサムタンは対面をさせてもらえず、島の住人以外の来訪がある間は、城の自室で過ごすように言われていた。
人は異質を嫌うのです。
トリオローノの声が耳奥で響く。シャルは僕に怯えるだろうか。それとも、教会に逃げてしまう? 追い払おうと銀のナイフを振り上げるかもしれない。
サムタンは静かな目でうなずいて、シャルの反応を見た。
シャルはじっとサムタンの青白い肌と赤い瞳を見つめて、なるほどねと思った。こういう容姿なら、吸血鬼というウワサが立ってもしかたがないわ。
「それで? どうしてひとりで街に出てきたの」
「えっ」
「なに?」
「追い出さないのか」
「どうして追い出さなきゃいけないのよ」
キョトンとするシャルに、サムタンはおどろいた。
「吸血鬼は嫌われるものなんだろう?」
「そんなの、ただのウワサでしょ。気にしないでいいわ。きっと肌が白くて目が真っ赤だから、吸血鬼なんて言われるのね。どうやって湖を渡ってきたの? いつ街について、どうやって過ごして、どうして私の店の裏で倒れていたの」
質問を重ねられて、サムタンはあわててすべての返答を口にした。
「商人が城に来たから、こっそりと船に隠れて乗ったんだ。街についたのは昼過ぎだったと思う。それからあちこちを歩きまわって、気がついたらそこの通りに立っていたんだ」
昼過ぎについて歩き回っていたのなら、疲れて当然だとシャルは思った。それに昼間に出歩いていたのなら、やっぱり吸血鬼なんてただのウワサなんだわ。吸血鬼は日光に当たったら、灰になってしまうんだもの。
「食事はしたの?」
「いや。街についてから、これがはじめての食事だ。なにをどうすればいいのか、さっぱりわからなくて」
眉をさげてほほえむサムタンに、なるほどねとシャルはため息をついた。
「歩き疲れた上に空腹で、倒れてしまったというわけね」
「ああ、そうか。……そういうことなんだな。いい匂いがして、それにつられて路地に入ったんだ。それで――」
倒れるまでの記憶をたどり、サムタンは皿を見た。この料理の匂いに惹かれて、僕はここにたどり着いた。歩き疲れて、空腹で倒れるなんてはじめての体験だ。そんなことがあるなんて想像もしたことがない。島の中を散歩するときは、適度にトリオローノが休憩をうながしてきたし、空腹を感じるころには食事が用意されていた。
「ほんとうに、なにをどうしていいのか、さっぱりわからなくって困っていたんだ」
情けないなと落ち込むサムタンに、シャルは心の奥をうずかせた。この人を助けてあげたい。商人の船に単身乗り込み、街に出てきたからには重大な理由があるのだろう。
「なんのために、街に出てきたの?」
「それは――」
吸血鬼は愛を知れば、血を吸わなくても生きていけると知ったから。そう言えばシャルはどう答えるだろう。彼女はどうやら吸血鬼の存在を信じていないらしい。
「城の外を知りたかったんだ」
それはもうひとつの目的だった。愛を知りたい。そして、島の外にある世界を見てみたい。
「僕は島の中の暮らししか知らないんだ。人々がどんな生活をしているのか、統治をしているはずの僕が知らないなんて、変だと思うだろう?」
「そうね。――たしかに、そうかも」
力なく笑うサムタンの理由に、シャルは納得した。伯爵がどんな人かなんて、シャルは気にしたことがない。吸血鬼だとウワサしている人々も、伯爵の人柄や生活なんて気にしたことはないだろう。働く人間は税金として、売り上げのなかの微々たる金額を役場に納めている。それが伯爵の生活を支えているのだと知ってはいるが、実感はなかった。税金は港や町の整備にも使われるからだ。自分たちの街を維持するために、売り上げの一部を役場に預ける。そんな感覚で人々は暮らしている。
税金は伯爵家にも、ちゃんと届けられていたのね。
本人の口からそう言われるまで、シャルは伯爵家を意識したことはなかった。そのくらい、街の人々と伯爵家とは距離がある。港に行けば島影が見えるというのに、互いの存在はそれよりもずっと遠い場所にあった。
「だから、島を抜け出したんだ」
「お城で働く誰かに、連れてきてもらったらよかったんじゃない?」
サムタンは首を振った。
「何度も言ってみたさ。けれど、聞き入れてもらえなかった。島の外は危ないからと」
ずいぶんと過保護に育てられたのねと、シャルはサムタンがかわいそうになった。そんな生活をしているから、サムタンの肌は青白いのだ。
「つまり、家出をしてきたってことでいいのかしら」
「家出……。そうかもしれない。僕は目的を達するまでは、帰らないつもりだ」
「つもりって……。なにも知らないのに、どうやって生活をするの? お金がないと宿には泊まれないし、ご飯も食べられないわよ。働くって言っても、できることがある?」
サムタンは赤くなった。たしかに僕は、働くということを知らない。そもそも、働くとはどういうことかがわからない。人の役に立って賃金を受け取る、という知識だけは持っているが、どんなことができるのか、どういうことが役に立つ行為なのかがわからない。
うつむいたサムタンの姿に、シャルは2年前の自分を重ねた。両親を亡くし、途方に暮れていたころ。店を再開したものの、手伝いをしていたというのにわからないことだらけだった。常連客になぐさめられ、はげまされてここまできた。サムタンはいま、教えてくれる誰かを求めている。彼は生まれたてのヒヨコとおなじで、世の中をなにも知らないのだ。
私を支えてくれた人たちのように、私がサムタンに教えてあげよう。
「ねえ、サムタン」
「お金はないけれど、宝石なら」
サムタンは慌てて袖からカフリンクスを外した。シルバーのカフリンクスにはルビーがついている。これを売れば金になるのではと、シャルに差し出す。
「これを売れば、街に滞在できるだろうか」
シャルはゆるく首を振った。この程度の装飾品では不十分なのかと、サムタンは落胆する。
「あのね、サムタン。それを売らなくても街で過ごせる方法が、ひとつだけあるんだけれど聞いてくれる?」
「えっ」
「お店の上は私の家で、両親の部屋は空いているの。おとうさんの服があるからそれを着て、この店で働いてみない?」
提案に、サムタンは言葉を失った。なんて魅力的な提案だろう。ここにたどり着いたのは、なにかの導きではないかと、サムタンは考える。
「僕にできる仕事があるだろうか」
「それを探すのよ、サムタン。伯爵としての立場を忘れて、私たちの生活に交じるの。なんでも自分でしなくちゃいけない生活だけど、大丈夫?」
シャルはサムタンの顔をのぞきこんだ。料理の匂いに導かれてここに来た彼を、放り出すわけにはいかない。これもなにかの縁だろう。拾ったんだから、責任を持たないとね。
そんな覚悟での提案に、サムタンはホッとした笑みを返した。
「なにができるかわからないけれど、がんばるよ。よろしく、シャル」
「こちらこそ。よろしくね、サムタン」
シャルが右手を差し出すと、サムタンはちょっと首をかしげてからその手をにぎった。
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