純歪ー王と王弟のはざまでー

水戸けい

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【覚悟】

13.

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 たき火に照らされ鈍く輝く大きな翡翠と、よりそう三人の姿を民はただ、ながめていた。

   ***

 寝台を囲む緑の幔幕が開く。

 ホスセリの後から堂々と入ってきたシキタカが、寝台の足元に控えた。それにトヨホギは淡い笑みを浮かべる。

「トヨホギ」

 ホスセリが寝台に上がり、トヨホギの頬に触れる。

「ホスセリ」

 トヨホギはすこし顎を持ち上げて、唇を薄く開いた。

(トヨホギはもとから、壊れていたのではないか)

 ホスセリは彼女のはかない笑みを唇ですくいながら思う。ホスセリの妻として、エミナを支えて守ることが使命だと言われ続けていたトヨホギは、自分の人格の中に周囲の期待という名の呪いを織り込み、己に気づけなくなっていたのではなく、気づいていてもそれを無視して、期待どおりの姿になろうとしていたのではないか。

 疑いながらも、ホスセリはトヨホギの唇をついばんだ。トヨホギは静かにそれを受けている。

 周囲の期待とシキタカへの気持ち、そしてホスセリを想うシキタカの心を尊重するために、トヨホギは人ならざるものの存在を持ち出したのではないか。

「んっ、んん……っ、ふ、う」

 ホスセリがそんなふうに考えているとはつゆ知らず、トヨホギは口づけを受け止めていた。

 トヨホギの内側では周囲の期待こそが己の考えであり、幼いころから当たり前のものだった三人で過ごす日々は、命が尽きるときまで続く日常だった。戦で彼等がいなくなるまで、トヨホギは当然のように三人で共にいられるものと、思う必要もないくらい自然な状態として受け止めていた。

 しかしそれは間違いなのだと、男手が戦に出てから思い知らされ、祈るように彼等との時間を望んでいるうちに、無意識下にあったシキタカへの恋心とホスセリの妻になるという意識がゆがみ、いつしか三人は共に在らなければならないというものへと変化した。

 それは子どものころと変わらぬ日常を、三人で過ごさなければならないという考えに育った。ホスセリの考えているように、シキタカの兄を想う気持ちや周囲の期待をおもんぱかっているわけではなく、三人でいる理由を求めた結果が、ホスセリは人を超えたものになったという発言になっただけだった。

 ただ三人で過ごしたいという望みのために、ホスセリが王であり続けられる理由を見つけて提示しただけにすぎない。そしてトヨホギは無意識に、その考えを暗示として自分にかけた。

 そんなトヨホギに薄々感づいているホスセリとは違い、シキタカはトヨホギが純粋にホスセリを慕い、敬う気持ちが強すぎたために、戦での傷を神の処遇と考えたのだと思っていた。

 シキタカはホスセリを通してトヨホギの想いを知ったあとも、トヨホギはやはりホスセリを第一に慕っているのだと受け止めている。
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