楽園の在処

まめ太郎

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 俺の料理が気に入ったのか、翌日から全員が食べたい物を作れとばかりにリクエストしてくるようになった。
 硝はラーメンがお気に召したようで、「毎日、ラーメンでもいい」としきりに言う。

「昼間のテレビで見たふわふわのパンケーキ、美味しそうだったぁ」
「ねえ、海。パンケーキ作れる?」
 俺の作ったかに玉の夕飯を食べながら、星が問う。
「パンケーキ?んなもん飯にならねえじゃん」
 俺が言うと、星が無言で唇を尖らせる。
「ねえ、ねえ。じゃあ、アンコウ鍋は?アンコウって吊るしてさばくんでしょ?」
 月の言葉に俺は顔を顰めた。
「プロの板前じゃねえんだ。そんなことできっかよ。お前らなんかお子様ランチで充分だ」
 俺の嫌味に月と星が不思議そうに二人で首を傾げた。
「お子様ランチって何?」
 俺は驚いて二人を見た。
「ほら、あれだよ。レストランによくあるだろ?オムライスに旗が刺さった…」
「なんでオムライスに旗刺すの?食べにくいじゃん」
 星のもっともな意見に俺は返す言葉を失った。
 それまで黙っていた藤崎が自分のスマホを操作して、月と星に画面を見せる。
「ほら、こういうのだ」
「へえ、可愛いね」
「うん。うん」
 お子様ランチはこんな俺でさえ何度か食べたことがあった。
 母親の機嫌がたまたまその日良かっただけだろうが、幼い頃、レストランに連れて行かれ、好きなものを頼んでいいと言われた時、俺はいつも迷わずににプリンや小さなハンバーグの乗ったそれを注文した。

「俺の育った国にはこういうのなかったな」
 スマホを見ながら隣の硝が呟いた。
 こいつの生い立ちもほとんど謎だった。
 どう見ても日本人ではないが、どこで生まれ育ったのか、家族はいるのか。
 気になったら聞けばいいのだが、顔の火傷のこともあり、今いち踏み込めずにいた。
 藤崎はスマホをズボンのポケットにしまうと、俺ににこりと微笑みかけた。
「海。明日の夕飯はお子様ランチにしようぜ」
「はあ?嫌だよ。めんどくせえ」
 そう言った途端、持っていたフォークを藤崎が机に突き刺した。
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