春に落ちる恋

まめ太郎

文字の大きさ
190 / 336

同窓会13

しおりを挟む
「…久野のこと、ほっておいていいのか?」
 京極は飲み物を物色している久野を見つめながら言った。
「あっ、あいつ?別にどうでもいいよ。ただそこでばったり会っただけだから。ねえ、それよりさあ…」
 高倉が、京極にまた触れようとする。伸ばした爪には、ぎらぎらと光るスパンコールが幾重にも貼られていた。
 その手首を横から本条が掴む。
「千雪…あんた相変わらずだね」
「ユイカ、いたんだ」
 全く笑顔を見せずに、高倉が言う。
「いたんだって、最初から気付いてて無視したくせに良く言う。金持ちのいい男と見ると、すり寄っていく癖、変わってないね。でも京極君はないんじゃない?恥を知りなよ」
 本条は話しながらも、高倉の手首を離さなかった。
「はあ?あんたに言われたくない」
 高倉が、すごい形相で本条を睨んだ。
「確かに私はあの時、最低だった。だから今すごく後悔しているし、隣に座ることを許してくれた京極くんに感謝してる。でもあんたは何?過去のことまるでなかったみたいに振舞って…見てるこっちが恥ずかしい」
 高倉が唇を噛み、もう一方の手を振り上げた。
 京極は急いでその手を掴んだ。
「やめろ。みんな見てるぞ」
 京極の言葉に、高倉は周りを見渡すと、手を降ろした。

「あれえ、ばい菌君じゃん。来てたんだあ?」
 声をした方を見ると久野が、ワイングラス片手に立っていた。
 久野はどこかで飲んでから来たのか、すでに赤い顔をしていた。スーツは借り物なのか、サイズが合っていないようで、久野の細い体が服の中で泳いでいた。
「普通来るかよ」
 そう呟くと久野が一人で笑いだした。

「同窓会なんだ。俺がいたっておかしくないだろう?」
 京極の言葉尻は震えていて、顔も俯いてしまう。
「ふうん」
 そんな京極を馬鹿にしたように見ながら、久野が近づいてくる。
「なあ、お前俺に蹴られて、吹っ飛んで鼻血出した事あったよなあ?明らか涙目なのに、泣いてないって言い張って…あれ笑えたわ。背中もみんなで殴って痣つけてやっただろ。さすがにもう消えてるか」
 そう言いながら、久野が人差し指で、京極の胸をついた。
 久野はあれから身長があまり伸びなかったようで、京極の肩くらいしかなかった。体型も貧相で鍛えてなどいないだろう。今なら喧嘩になったとしても絶対に勝てるのに、過去の記憶が頭をもたげ、京極は直ぐに言い返せなかった。
しおりを挟む
感想 512

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...