春に落ちる恋

まめ太郎

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「どうしたんだよ?」
 将仁さんの問いに俺は固い表情で答えた。
「なんで電話にでたんですか?」
「なんでって…仕事の電話だったから、重要な件だと困ると思って」
「ならせめて、俺に断ってから話してくださいよ」
 俺は立ちあがると、部屋から出て行こうとした。
 そんな俺の手首を将仁さんが掴む。

「何だよ。お前だって、気持ちよさそうにしてただろ」
 俺は怒りで頭がくらりとした。
 将仁さんの手を払い、言う。
「マジで最っ低。仕事が忙しいの分かってるから、我慢してたけど、俺だって同じように働いてるんですよ?もうちょっとこっちのことも気遣ってくれたっていいじゃないですか。エッチだって一ケ月ぶりだったのに」
「仕事よりセックス優先しろって言うのか?」
「そんなこと言ってないでしょ」
 将仁さんはため息をつくと前髪をかきあげた。
「大体、働いてるって言うけど、俺とお前じゃ業務内容が違いすぎるんだよ。本社は人に言われた仕事をただやってりゃいいってわけじゃ……」
 失言だったと気付いたのか、将仁さんが自分の口を手で覆った。
「なんですか、それ。支店の仕事馬鹿にしてるんですか?将仁さん変わりましたね。以前は、お客様と直接やり取りする、支店の仕事が会社の中で一番大事だって言ってたのに。今はまるで見下してるみたい。…本社の仕事ってそんなに偉いんですか?」
「そんなつもりで言ったんじゃない。俺は…」
 そこでまた将仁さんのスマホが鳴った。
「大切な電話なんでしょ?出ればいいじゃないですか」
 俺はそう言って将仁さんに背中を向けた。

 風呂場の浴槽に湯を貯め、入る。
 立てた膝の上に顎を付け、先ほどのやり取りを思い出していると、後から後から涙が零れた。
 自分の言ったことが間違っているとは思わない。
 ただ将仁さんも忙しくて余裕のない状況だと分かっていたなら、もっと言葉を選べばよかったと時間が経つにつれ、後悔が湧いてくる。
 俺が風呂から出ると、将仁さんの姿はもうすでになかった。
「帰りは遅くなる」
 それだけ書かれたメモが食卓に置いてあった。
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