春に落ちる恋

まめ太郎

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「今抱えてるプロジェクトさ。本当はもっとチームの人数が多くて、楽に終わらせられるはずだったんだ。でも最初チームの雰囲気がだらけているように俺は感じてな。気持ち引き締めてもらうため、わざと会議でかなりきついことを言ったんだ。やる気あんのか。会議中にスマホいじってるような奴は今すぐ出てけって。まあ、ようするに怒鳴りつけたんだ。…そうしたら、チームの何人かがプロジェクトから抜けたいって。パワハラ上司の下では働けないって、はっきりそう言われたよ」
 将仁さんの表情は何かを思い出したように険しくなった。
「それで結局、残ってくれたメンバーに仕事のしわ寄せがきちまってな。予算も減らされて、全然上手く回ってないのが現状だ」
 俺は繋いだ手に力をこめた。
「話してくれれば良かったのに」
「言えっかよ、仕事の愚痴なんて。お前だって社長になりたいとかほざいてこのざまかって呆れるだろ」
 俺は首を振った。
「呆れたりなんてしない。本社の仕事を知らない俺じゃ、役に立てる事なんてないかもしれないけど、それでも何か将仁さんの力になりたいよ」
 ふいに将仁さんが俺を強く抱きしめた。
「…本当は毎日すごく感謝してんだ。朝起きて、どんなに憂鬱な日だって、お前の寝顔を見ると優しい気持ちになって、会社に行ける。いつもこの部屋を清潔に保ってくれて、疲れて脱ぎ散らかした俺のスーツや靴下まで何も言わずに片付けてくれて…。そんなお前に甘えすぎだと分かっているし、感謝しかしてないのに。それが上手く伝えられないどころか、最低のこと言っちまうし。最近チームの奴らみたいに、俺の元から春が去ってしまったらって…そんなことばかり考えてた」
 珍しい将仁さんの弱音に、余計愛しさが増した。
「俺がいなくなったりするわけないじゃないですか。そりゃこの前はちょっとむかついたけど、あれくらいで別れようなんて思わないよ。俺達、そんな簡単に壊れるような関係じゃないでしょ?」
 たくさん色々乗り越えてきたじゃない。そう思いながら俺は微笑んだ。
「…ああ。そうだった。俺達はそんなやわな関係じゃないよな」
 将仁さんもようやく笑顔になると、俺達はそっと唇を寄せ合った。
 
 キスが深いモノに変わると、将仁さんの手が俺のスエットに潜り込んできた。
「駄目だよ。久世さんがいるのに」
 俺は眉を顰めて、囁くように言った。
「大丈夫だ。あいつ酷い時差ボケだから、今晩は起きねえよ。それに小さい頃から、一度寝たらどんな物音がしても目を覚まさないタイプだったし」
「でも……」
 俺が視線を俯かせると、将仁さんが俺の手を取った。
「お前の実家でだって、したろ?」
「あの時とは状況が、ひゃ」
 俺の指先を将仁さんが齧る。
「喧嘩の後のエッチは燃えんだろ?」
 そう言いながら俺の指に将仁さんが舌を這わす。
 俺は自分の吐息が熱くなるのを感じ、理性が切れる音を聞いた。
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