春に落ちる恋

まめ太郎

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「そうだ。週末、何食べたい?やっぱり肉がいいか?」
「うん…お肉、いいですね…」
 どうしても先ほどの告白の話がひっかかり、せっかく将仁さんが聞いてくれているのに、俺は上手く返せなかった。
「仕事だったなら疲れてるよな。こんな時間にごめん。今日はもう切るよ。明日また電話する」
 心ここにあらずの俺に気付いたのか将仁さんが言う。
「せっかく電話くれたのに俺の方こそなんかごめんなさい…ちょっと疲れてて。俺もメールします」
「ああ。ゆっくり休めよ。…おやすみ」
「おやすみなさい」
 10分にも満たない通話が終わる。

 俺は本当に疲れ切ってしまい、自分の小さなベッドに仰向けになった。
 将仁さんは俺に嘘はつかないから、本当にきっぱり断ったんだろう。
 でも久世さんは小さな頃の結婚の約束まで覚えているほど、将仁さんのこと好きだったんだよな。それならすぐに気持ちを切り替えるなんてきっと無理だ。

「あーもうっ」
 俺は叫ぶと、枕をぎゅっと抱いた。
 久世さんの気持ちを考えてみたところで本人じゃないんだから分かるはずもない。それに彼女は来週にはイギリスに戻るんだ。将仁さんとこれ以上どうこうなりようもないじゃないか。
 それなのにまた笑いあう二人を思い出してしまい、不安が顔をもたげる。
 俺は必至に自分の考えを逸らそうと、将仁さんに来週何の料理をリクエストしようかスマホでレシピ検索をし始めた。
 そんなことをやっていたら、俺は翌日盛大に寝坊した。

 俺の方の仕事には大口の契約が舞い込み、将仁さんも今週は忙しいとメールがきたので、平日は会わないことになった。
 電話で話すたび、少しでもいいから将仁さんの顔が見たいという気持ちが膨らんだが、お互い余裕のない中で会って、以前のように喧嘩するのも嫌だった。
 週末までの我慢だ。
 そう心で唱えながら、俺はがむしゃらに仕事をこなした。

 金曜日、退社できたのは、あと30分で日付が変わるような時刻だった。しかし明日、土曜の休みは無事ゲットできたし、今日は将仁さんの方が早く上がれそうだから、夕飯は作っておくと今朝メールが届いていた。
 俺は小走りにマンションを目指した。久しぶりに会えるのが楽しみで、エレベータの中でも早く着けと一人足踏みをしていた。廊下も早歩きで通り抜け、急いで鍵をバックから取り出す。俺は笑顔で勢いよく玄関の扉を開けた。

 初めに目に飛び込んできたのは、見覚えのある黒のハイヒールだった。俺は「ただいま」という言葉を飲みこんだ。
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