春に落ちる恋

まめ太郎

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「春。服を脱いでくれないか?」
 唐突に将仁さんが言う。
「えっ、ここで?」
 先ほど一緒にシャワーも浴び、お互いの裸も見たが、眩い光の差し込む日中のリビングで肌を晒すのは恥ずかしかった。
「うん。さっきは俺が久しぶりで余裕がなくて、お前の体ちゃんと見れなかったから…もう疲れてるだろうし、最後まではしないけど嫌か?」
 眉を寄せてお願いする将仁さんを見ているうちに胸に温かい感情が溢れ、断れるはずもなかった。
「ううん、いいよ」
 俺は着ていた大きめのТシャツを脱ぐと、その勢いで一気にパンツも降ろした。

 でもやっぱ、恥ずかしい。
 体が熱くなっていくのが、自分でもよく分かった。
 ソファの上で、一糸まとわぬ姿で膝を抱え座る俺の足に将仁さんがそっと手を滑らせた。
「見せて……全部」
 将仁さんにそう言われ、俺はおずおずと足を伸ばした。
 俺の片足をソファから降ろし、股の間に将仁さんが体を滑り込ませる。

「春。すごく綺麗だ」
 将仁さんが潤んだ瞳で言い、そっと俺の手を持ち上げる。
「春の爪は小さくて、しじみみたいで可愛い」
 そう言って将仁さんが指先にキスする。
「手首が華奢で…いつも掴んだ時、折れちまうんじゃないかって心配になる」
 将仁さんが俺の腕にゆっくりと触れる。
 首を辿り、俺の頬を片手で包むと照れたように笑った。
「顔もすげえ好み。俺の理想ドストライク」
 将仁さんの言葉に俺もつられて笑った。
「肌、きめ細かくて真っ白。…新雪みたいだ」
 将仁さんの指先が俺の鎖骨に触れ、胸元に落ちる。
 もう羞恥心はなかった。
 ここが明るいリビングだとか、昼間だとかそんなの頭からすっぽり抜けていた。
 ただただ将仁さんの優しい指先を俺は感じていた。将仁さんはガラス細工に触れるみたいに、そっと指先で俺の体をなぞり、綺麗だとため息をつく。
 過去こんな扱いを受けたことなど、俺は一度もなかった。

 比べるのも失礼な話だが、一晩限りの相手が俺の体を「美しい」と誉めそやすような経験は俺にもあった。
 それでも今こうやって改めて将仁さんに触れられると、その言葉がいかに空虚なものだったかがよく分かる。
 将仁さんの言葉にも指先にも愛情が籠っていた。
 俺のことを本当に欲してくれているのに、同時に壊したくないとも思ってくれている。
 俺にこんな風に触れ、こんな風に俺の体を隅々まで自分の言葉で褒めてくれる人は、世界中で将仁さんしかいない。
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