春に落ちる恋

まめ太郎

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 その日から俺は将仁さんの電話もメールも全て無視した。
 将仁さんから送られてきたメールは内容も見ないでごみ箱に入れるのが日課になった。決心が鈍りそうで一通も読むことはしなかった。
 三日間、そういう態度を貫くと、業務時間に俺の机の上の電話が鳴った。

「春。何考えてる?何故、俺からの連絡を無視するんだ」
 内線電話の受話器を上げるなり、将仁さんの切羽詰まった声が聞こえた。
「仕事中の公私混同はよくないと思います」
 周りに聞こえないよう小声でぼそりと俺は言った。
「なら、ちゃんと電話に出ろ。やっぱりこの前親父に何か言われたんだろ?そうなんだな」
「なにもありません。用件がそれだけなら切りますよ」
「今夜仕事を早めに切り上げて、お前のアパートにいく。その時ちゃんと思っていること教えてくれ」
「来ないでください」
 それだけ言って俺は一方的に受話器をおいた。
 俺は神谷さんに断って席を外すと、電話をかけた。

「ごめん、今夜、俺の家に来て欲しいんだ。住所今から言うから、メモできる?」
 相手は俺に何も質問しなかった。
 優しい人だ。俺はその優しさにつけこんでる。
 そう自覚しながらも、計画を中止するつもりはなかった。

 仕事を定時で終えると、俺は急いで自宅に帰った。
 階段を上がると自分の部屋の扉に寄り掛かる人影が見えた。
「もう来てたんだ。待たせてごめん」
 俺がそう言うと、真司さんが顔を上げ微笑んだ。

 「何か飲む?うちビールとかないから、お茶かコーヒーになっちゃう」
「そんなのどうでもいいから、ここに座れ」
 真司さんは絨毯の上に座ると、机を挟んで前を指さした。
 俺は言われた通りの場所に座った。
「いきなり電話を掛けてきたと思ったら、付き合ってる男と別れたいから手伝ってくれだと?」
「うん」
「何だっていきなりそんな」
 俺は目を閉じて頭を下げた。
「お願い。何も聞かないで、協力して」
「春はそいつのことが嫌いで別れたくなったのか?」
「ううん。違うけど」
 俺は本当のことは答えず、言い淀んだ。
「お前、本当にそんなことをして後悔しないんだな?相手も自分も傷つける嘘をつくんだぞ」
 俺は顔を上げると、真司さんの瞳をしっかりと見つめた。
「うん。後悔しないよ。これが彼にとって最善だと思ってるから」
 そう言うと真司さんはため息をついた。
「分かった。で、具体的にどうすればいい?」
「じゃあ、まず服、脱いでくれる?」
 俺の言葉に真司さんは目を丸くした。
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