春に落ちる恋

まめ太郎

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「春…こう考えてくれないか?確かに俺は仕事と親を失ったかもしれない。それでも何にも代え難い大切なものを、今こうやって手にいれたんだって」
 俺は将仁さんの言葉に目を見開いた。
「春、無職の俺は嫌か?好きになれない?」
 俺は首を振った。
「そんなわけない。俺はどんな将仁さんだって好き…」
 勢いよく言い返した俺を将仁さんがぎゅっと抱き締める。

「なら、なんで別れようなんてするんだよっ。この大馬鹿野郎」
 将仁さんを抱きしめ返しながら、俺はこれ以上泣くのを堪えよう目を瞑った。
「ごめんなさい。でも俺と別れた方が将仁さんは幸せになれるって」
「俺が一番幸せなのは今だ。こうやってお前を腕の中に抱いている時なんだよっ。そんな俺がお前と離れて幸せになれる訳がないだろ」
 将仁さんの言葉に俺は何度もこくこくと頷いた。
「俺…嘘ついて、たくさん将仁さんのこと傷つけて…それなのに願ってもいいですか?ここにもう一度戻って来たいって」
 俺はぎゅっと将仁さんにしがみついた。
「当たり前だろ。終の棲家まで用意したんだ。後は墓買って死ぬまで一緒に暮らすしかねえだろ」
 そうきっぱり言い切る将仁さんに俺はふっと笑うと、ゆっくりと目を閉じた。久々のぬくもりにようやく俺の肩の力が抜ける。

 俺は気持ちが落ち着くと、将仁さんの胸に手を置いてほうっと息を吐いた。
「でも隣の家の持ち主なんて俺だって会ったことがないのに、よく連絡がつきましたね。どうやってこの家を買ったんですか?」
 将仁さんが俺の背中を大きな手でゆったりと撫でる。
「最初からこの家に住もうと決めていたわけじゃない。ただお前がこの地域を気に入っているのは知っていたから、ここら辺でいい物件がないか探そうと思ったんだ。それにはまず鶴子さんに俺の決断を許してもらう必要があった」
 将仁さんは俺の額に口づけると、より一層俺をきつく抱きしめた。それはまるで俺をもう二度と話さないと無言で訴えているようだった。
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