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男はすっと立ち上がるとこちらに向かって歩いてくる。
どうやら165㎝の俺の身長よりも10㎝以上は高そうだ。
俺の前で立ち止まると男が言った。
「お前が今日からここに配属された新人?」
おいおい、声まで完璧なのかよ。
重低音の甘い声が俺の耳に届き、脳を溶かす。
「聞いてんのか?」
俺がぼんやりとその整った顔を見上げ、呆けていると目の前の男はいらだったように言った。
「あっ、はい。すみません。今日からこちらで働くことになりました。野々原 春(ノノハラ ハル)と言います。今年の四月に白金証券に入社いたしました。早く一人前になれるよう頑張りますので、よろしくお願いします」
俺が直角に腰を曲げてお辞儀をすると、目の前の男が低く呟いた。
「ったく、本当にまた新人かよ。使えねえのは要らないって人事に散々言っておいたのに」
俺が恐る恐る顔を上げると、目の前の男はめんどくさそうに頭をかいた。
「はあ、まあいいや。俺は京極 将仁(キョウゴク マサト)。ここの支店長だ。それから、言っておく。俺は将来、この白金証券の社長になるつもりだ。だから絶対に俺の足を引っ張るようなこと、するんじゃねえぞ」
目の前の京極さんはふざけている様子もなく、そう言い放った。
俺と京極さんとの出会いはこんな風だった。
それから事務の神谷さんがやって来て、自己紹介をしあった。
「小さな子供が二人いるから、欠勤とか早退とか多いかもしれない。ごめんね。その分いるときはばりばり働くから、よろしく」
30代半ばに見える神谷さんはそう言うと俺に向かってにっこり微笑んだ。
神谷さんもまるで女優並みの美貌をお持ちだった。
なんだ、この支店。顔面偏差値が高すぎやしないか。
容姿について俺は過去それなりに褒められてはきたが、このメンツの中にいると自信を喪失しそうだった。
俺は京極さんが席を外した瞬間、隣の神谷さんにそっと聞いた。
「あの、京極さんって社長の息子とかなんですか?」
「何それ?違うと思うわよ」
目の前のパソコンから目を離さず、神谷さんが答える。
「えっ、でも京極さん俺に自分は社長になる予定だって……」
神谷さんが俺の言葉を聞いて、軽く吹き出した。
口元を軽く押さえながら肩を震わせる神谷さんに俺は目を見開いた。
「それ、あの人の口癖なのよ。まあ、実際仕事はできるから実現しちゃうかもね。京極さんて27歳なんだけど、その若さで、ずっとこのエリアの売り上げ一位をキープしているの。すごいでしょ?」
俺は奥の席に座り、窓からの光を背に受けながら、ものすごい勢いでキーボードを叩く京極さんを見つめた。
あの人かっこいいうえに、仕事もできるんだ。すげえ、憧れる。
俺は尊敬のまなざしでその日ちらちらと京極さんを盗み見続けた。
どうやら165㎝の俺の身長よりも10㎝以上は高そうだ。
俺の前で立ち止まると男が言った。
「お前が今日からここに配属された新人?」
おいおい、声まで完璧なのかよ。
重低音の甘い声が俺の耳に届き、脳を溶かす。
「聞いてんのか?」
俺がぼんやりとその整った顔を見上げ、呆けていると目の前の男はいらだったように言った。
「あっ、はい。すみません。今日からこちらで働くことになりました。野々原 春(ノノハラ ハル)と言います。今年の四月に白金証券に入社いたしました。早く一人前になれるよう頑張りますので、よろしくお願いします」
俺が直角に腰を曲げてお辞儀をすると、目の前の男が低く呟いた。
「ったく、本当にまた新人かよ。使えねえのは要らないって人事に散々言っておいたのに」
俺が恐る恐る顔を上げると、目の前の男はめんどくさそうに頭をかいた。
「はあ、まあいいや。俺は京極 将仁(キョウゴク マサト)。ここの支店長だ。それから、言っておく。俺は将来、この白金証券の社長になるつもりだ。だから絶対に俺の足を引っ張るようなこと、するんじゃねえぞ」
目の前の京極さんはふざけている様子もなく、そう言い放った。
俺と京極さんとの出会いはこんな風だった。
それから事務の神谷さんがやって来て、自己紹介をしあった。
「小さな子供が二人いるから、欠勤とか早退とか多いかもしれない。ごめんね。その分いるときはばりばり働くから、よろしく」
30代半ばに見える神谷さんはそう言うと俺に向かってにっこり微笑んだ。
神谷さんもまるで女優並みの美貌をお持ちだった。
なんだ、この支店。顔面偏差値が高すぎやしないか。
容姿について俺は過去それなりに褒められてはきたが、このメンツの中にいると自信を喪失しそうだった。
俺は京極さんが席を外した瞬間、隣の神谷さんにそっと聞いた。
「あの、京極さんって社長の息子とかなんですか?」
「何それ?違うと思うわよ」
目の前のパソコンから目を離さず、神谷さんが答える。
「えっ、でも京極さん俺に自分は社長になる予定だって……」
神谷さんが俺の言葉を聞いて、軽く吹き出した。
口元を軽く押さえながら肩を震わせる神谷さんに俺は目を見開いた。
「それ、あの人の口癖なのよ。まあ、実際仕事はできるから実現しちゃうかもね。京極さんて27歳なんだけど、その若さで、ずっとこのエリアの売り上げ一位をキープしているの。すごいでしょ?」
俺は奥の席に座り、窓からの光を背に受けながら、ものすごい勢いでキーボードを叩く京極さんを見つめた。
あの人かっこいいうえに、仕事もできるんだ。すげえ、憧れる。
俺は尊敬のまなざしでその日ちらちらと京極さんを盗み見続けた。
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