春に落ちる恋

まめ太郎

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「京極さん、俺ビール苦手で……」
「お前、歓迎会の時もそんな事言ってたな。いいか、飲み会はまずビールからなんだよ。そんなんじゃ、接待でも困るだろ。俺が鍛えてやる」
 物騒な笑みを浮かべながら京極さんが俺に言う。
「はあ、でも俺本当にビール飲むとすぐ酔っぱらっちゃって」
「おお、きたな。よし、乾杯すっぞ」
 俺の言葉を無視して京極さんはやってきたジョッキの片方を俺に手渡す。
「では、今週もかんばったな。特に俺が。わはは。かんぱーい」
 上機嫌で京極さんがジョッキを持ち上げる。
 俺は愛想笑いを浮かべながら、そのジョッキに軽く自分のを合わせた。

 俺がジョッキに口をつけると、京極さんが目敏くそれを見て言う。
「おら、グイっといけ。ぐいっと」
 京極さんにそう言われ、俺はなんとかジョッキ半分を一気に飲んだ。
 すきっ腹の上に疲労も重なり、おまけに苦手なビールということもあって、俺はもうすでに目の前がぼんやりとしてきた。

「んー。何かつまみ頼むか。お前食えないものとかある?」
「特にありません」
「そうか、じゃあ、枝豆とオムそばと……」
 意外と甲斐甲斐しく、目の前で京極さんがタッチパネルで注文していく。

 そう言えば二人きりで飲むの初めてだな。

 緊張するはずの席なのに、酔いのせいでいつもの恐怖がやってこない。
 俺が目の前の京極さんににこりと微笑むと、京極さんが嫌そうに言う。
「何、こっち見てにやにやしてやがんだ。馬鹿にしてんのか」
「馬鹿になんてしてませんよ」
 俺はため息をつくと苦手なビールを一気に呷った。
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