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「おう、お疲れ」
玄関を開けてくれた京極さんはもう風呂を済ませたようで、グレーのスエットに白い薄手のセーターという私服だった。いつもは固められている前髪も彫の深い顔立ちの額に、流すようにかかっていた。
V字から覗くたくましい京極さんの胸板に、一瞬俺の目が釘付けになる。
部屋の中をずんずん進んでいく京極さんの後姿を目で追いながら、俺は慌てて靴を脱いだ。
京極さんは俺からコートとスーツの上着を奪うと、しわにならないようにハンガーにかけてくれる。
意外と甲斐甲斐しいんだよなあ。
俺がこの部屋に初めて泊まりに来てから一ケ月ほど経つが、京極さんは毎回風呂を沸かし、夕飯を作って待っていてくれる。自分であまり料理をしない俺からすると、そういうところは本当にすごいし、有り難いと思う。
「野々原、とりあえず飯食うだろ?」
問いかけに頷くと、京極さんは「少し待ってろ」とキッチンに向かった。
手持無沙汰になった俺は、京極さんの2LDKの部屋を見て回った。
と言っても、京極さんとそういう関係になってからこの部屋には何度も訪れているし、昨日も来たばかりなので、今更目新しい物はない。
広々としたリビングはモノトーンで統一され、観葉植物だけが目に優しい。
まるで雑誌のインテリア特集にでも使われそうな部屋は、いつ来ても綺麗に整頓されていて、俺の脱ぎっぱなしの服で散らかった部屋とは大違いだ。
洋書がずらりと並んだ本棚を眺めていると、昨日までそこになかったはずのDVDが何枚も積みあげられていて、俺は何気なくその一枚を手に取った。
パッケージを見るとごつい男二人が絡み合っていて、俺は目ん玉をひんむいた。
次も似たようなゲイのアダルトDVDで、俺は慌ててそれらを一つずつ確認した。
なんてもん買ってんだよ。あの人は。
DVDは全部で10本以上あり、中には俺の想像を超えるような代物まであった。
「おい、野々原。飯できたぞ」
京極さんが、俺の肩越しに声をかける。
「京極さん、あんたなんでこんなの買ってんですか?俺、こんなプレイしませんからね」
俺は振り返ると京極さんに向かって、いわゆるスカトロ物と言われるゲイDVDをつきつけた。
京極さんは俺の手からそのDVDを取りじっくり見ると、顔色も変えず言った。
「ああ、これな。勉強用に買ったんだ。お前かなり経験あるみたいなこと言ってただろ?そういう奴は絶対にこういうプレイが好きだって、書いてあったから…」
「書いてあったって何にですか?」
俺が目をつり上げ問うと、京極さんは難しい経済学書が並んだところから一冊の本を抜き取った。
玄関を開けてくれた京極さんはもう風呂を済ませたようで、グレーのスエットに白い薄手のセーターという私服だった。いつもは固められている前髪も彫の深い顔立ちの額に、流すようにかかっていた。
V字から覗くたくましい京極さんの胸板に、一瞬俺の目が釘付けになる。
部屋の中をずんずん進んでいく京極さんの後姿を目で追いながら、俺は慌てて靴を脱いだ。
京極さんは俺からコートとスーツの上着を奪うと、しわにならないようにハンガーにかけてくれる。
意外と甲斐甲斐しいんだよなあ。
俺がこの部屋に初めて泊まりに来てから一ケ月ほど経つが、京極さんは毎回風呂を沸かし、夕飯を作って待っていてくれる。自分であまり料理をしない俺からすると、そういうところは本当にすごいし、有り難いと思う。
「野々原、とりあえず飯食うだろ?」
問いかけに頷くと、京極さんは「少し待ってろ」とキッチンに向かった。
手持無沙汰になった俺は、京極さんの2LDKの部屋を見て回った。
と言っても、京極さんとそういう関係になってからこの部屋には何度も訪れているし、昨日も来たばかりなので、今更目新しい物はない。
広々としたリビングはモノトーンで統一され、観葉植物だけが目に優しい。
まるで雑誌のインテリア特集にでも使われそうな部屋は、いつ来ても綺麗に整頓されていて、俺の脱ぎっぱなしの服で散らかった部屋とは大違いだ。
洋書がずらりと並んだ本棚を眺めていると、昨日までそこになかったはずのDVDが何枚も積みあげられていて、俺は何気なくその一枚を手に取った。
パッケージを見るとごつい男二人が絡み合っていて、俺は目ん玉をひんむいた。
次も似たようなゲイのアダルトDVDで、俺は慌ててそれらを一つずつ確認した。
なんてもん買ってんだよ。あの人は。
DVDは全部で10本以上あり、中には俺の想像を超えるような代物まであった。
「おい、野々原。飯できたぞ」
京極さんが、俺の肩越しに声をかける。
「京極さん、あんたなんでこんなの買ってんですか?俺、こんなプレイしませんからね」
俺は振り返ると京極さんに向かって、いわゆるスカトロ物と言われるゲイDVDをつきつけた。
京極さんは俺の手からそのDVDを取りじっくり見ると、顔色も変えず言った。
「ああ、これな。勉強用に買ったんだ。お前かなり経験あるみたいなこと言ってただろ?そういう奴は絶対にこういうプレイが好きだって、書いてあったから…」
「書いてあったって何にですか?」
俺が目をつり上げ問うと、京極さんは難しい経済学書が並んだところから一冊の本を抜き取った。
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