春に落ちる恋

まめ太郎

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 一週間、仕事を頑張った金曜の夜。
 俺は支店近くの居酒屋に、京極さんと木曽さんの三人で来ていた。
 木曽さんの歓迎会としての飲みだったが、神谷さんはお子さんが熱をだして、急きょ欠席になった。

 三人でビールで乾杯すると、木曽さんが一気にジョッキ半分ほど飲み干した。
「おお、いい飲みっぷりだな」
 酒好きの京極さんが嬉しそうに言う。
「はい。私、お酒けっこう強いんです」
 もう大ジョッキを飲み終わりそうな勢いの木曽さんがそう答えた。
「そうなのか。おい、野々原。ちっとは木曽を見習って、お前もジョッキくらいすぐに空けろよ」
 そう言われてもビールの苦手な俺は、今だジョッキ三分の一ほどの量しか飲めていなかった。

「京極さんは普段どんなお酒飲まれるんですか?」
 木曽さんが京極さんと自分の分の追加のジョッキをタッチパネルで注文しながら聞く。
「割となんでも飲むな。最近だと日本酒とかウイスキーとか」
「あっ、日本酒お好きですか?じゃあ、越乃寒梅とか」
「ああ、よく飲むよ」
 二人とも酒好きらしく、日本酒の銘柄の話で盛り上がっている。俺は飲んでも缶チューハイレベルなので、二人の会話は全く分からなかった。

 なんだよこんなことなら、俺来なくたって良かったじゃん。
「俺、ちょっとトイレ行ってきます」
 くさくさした気分で俺は席を立った。
 トイレの個室でスマホをいじり、手を洗って出るとそこには腕を組んで壁に寄り掛かる木曽さんがいた。

「木曽さん、女性用は向こうですよ」
 そう言った俺を木曽さんがキッと睨みつけた。
「野々原君。私、今日きめるから」
 木曽さんの迫力にたじろいだ俺は一歩後ずさった。
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