春に落ちる恋

まめ太郎

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 居間に入ると、昔ながらの大きめのちゃぶ台に、所狭しと料理が並んでいた。
 タケノコご飯。赤だしの味噌汁。裏山でとれた山菜の天ぷら…。

「春がいきなり言うもんだから、ろくなもの用意できなくて、ごめんなさい。良かったら、たくさん食べて行って」
 母がそう言うと、京極さんは「ありがとうございます。全部美味しそうです」と返した。
 酒を飲むわけにいかないから、ウーロン茶で乾杯し、京極さんが蕨のてんぷらを一口齧った。
「美味い」
 思わずという感じで漏れた京極さんの感想に、母が嬉しそうに微笑む。
「それさっき採って来たばかりなのよ。見つからない日もあるんだけど、今日はたくさん生えてたの。お代わりしてね」
 母の言葉に京極さんが「はい」と笑顔で答える。

 京極さんは箸を置くと、持ってきていた羊羹の包みを母親に差し出した。
「お母さん。これ、春君から好きだとうかがったので」
「あらあ、こんなイケメンにお母さんなんて呼ばれると照れるわね。お土産までありがとう。それもこれ高いやつじゃない。春なんていつも一本しか買ってこないのに三本も…まあまあ、本当にありがとう」
 俺を24歳で産んだ母は、年齢の割に童顔だが、今日はいつもよりはしゃいでいて、まるで少女みたいだった。

 京極さんは正座をし、両手を膝に置くと、母親をまっすぐ見つめた。
「先ほども言いましたが、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。昨年から春君と真剣に交際させていただいてます。これからどうぞよろしくお願いします」
 京極さんが深々と頭を下げた。
「そんな、顔を上げてください。春だってもう大人なんだから、二人のお付き合いについて私はとやかく言うつもりはありません。それでもこうしてちゃんと挨拶に来てくれたこと、とっても嬉しいわ」
 母の言葉に京極さんがほっとした顔をする。

「それにしても、春。こんな美形とどこで知りあったのよ」
 母が茶化すように俺に聞いた。
「…同じ仕事場なんだよ。上司なの、京極さんは」
「えっ、それってオフィスラブってやつ?あんたすごいじゃない」
 何がすごいのか、母が俺の肩をばしばし叩く。
「春君と同じ空間で働いているうちに、彼の優しさや、明るさに惹かれ、僕の方から交際を申し込ませていただきました」
 おい、ちょっと待て。だいぶそれ脚色したろ。
 頭の中で京極さんにつっこみを入れている俺の隣で、母がうっとりしたように「素敵ねえ」と呟く。
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