春に落ちる恋

まめ太郎

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 日曜日の午前中。
 寝不足だったが、真司さんのことが気になり、早く目が覚めた俺はアパートを訪ねていた。
 何度もチャイムを押すが、真司さんは出てこない。俺の脳裏にふと薬を飲んだ夜の真司さんの真っ白な顔が浮かぶ。
 不安に駆られた俺が扉を思い切り叩くと、むくんだ顔の真司さんがようやく扉を開けた。

「うるせえな。近所迷惑だろ」
 俺はほっとし、握っていた手を降ろした。
「俺が来るって分かってたの?」
 突然の来訪なのに真司さんには驚いた様子は見えなかった。
「いや、ただ訪ねてくるとしたらお前しかいないから」
「友達とかいるでしょ。そうだ。キミは?付き合ってたよね」
「キミ?…ああ、あいつな。もう何年も会ってねえよ。第一付き合ってもいないし。何でそんな風に思ったんだ?」
 俺はトイレで聞いたキミと真司さんの情事を思い出し、顔を赤らめた。
 そんな俺をみて真司さんは、はああっと息を吐く。
「まあ、やることはやってたけど、セフレみたいなもんだったよ」
 真司さんはそう言うと、俺を部屋に入れた。

 部屋の中はむあっとしたアルコール臭が充満していた。
 俺はとっさにセーターの袖で鼻を押さえると、すぐに窓を開けた。
 部屋にはビール缶やウイスキーの瓶が散乱している。
 俺は険しい顔でそれらを睨みつけた

「仕事は?いかないの?」
「落ち着くまで休みとっていいって言われてな。葬式も、全部職場のやつらがやってくれた」
「そうなんだ…」
 知らないうちに真美ちゃんの葬儀が終わっていたことに俺は愕然とした。確かに一週間もあったのだから、執り行われる可能性もあった。俺はこの一週間仕事漬けでそんなことにも頭が回っていなかった。

 よく見れば部屋の隅の箪笥の上に、位牌とお線香が置いてある。日当たりのいい場所で、他は汚れていてもそこだけは綺麗だった。
 俺はお線香に火を点け、手を合わせた。
 真美ちゃんからの最後の手紙、確かに受け取ったからと心で呟く。

「こんな部屋にいたら、真美ちゃん酔っぱらっちゃうよ」
 ぽつりとそう告げた。
 真司さんは何も言わず、壁に背を付け座っている。
 俺が部屋を片付け始めても、真司さんは手伝おうとはしなかった。

「お前、もう帰れ」
 真司さんは俺を見ずに言った。
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