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実家から大学に通うことになった俺は、慣れるまで本当にしんどかった。
ただ寝坊しそうになれば、母親と姉が鉄拳で起こしてくれるので、遅刻することはなかった。
混雑する電車に揺られながら、窓の外で秋の柔らかい光に輝く小川を見つめた。
怜雄はちゃんと起きて授業に出られているかな。
真昼ちゃんがいるのにそんな心配は必要ないなと俺は自分の考えを打ち消すようにひっそりと笑った。
俺が実家に戻ったあたりから、大学のいたる所で、仲良さげに歩く怜雄と真昼ちゃんを見かけるようになった。
怜雄の隣の真昼ちゃんはいつも笑顔で、二人が並ぶと美男美女のカップルそのものだった。
見たくない光景のはずなのに、いつの間にか怜雄を目で追ってしまう自分がいたが、どうしようもなかった。
食欲だけは相変わらずなくて、俺は学食でうどんを三口ほどすすると、箸を置きため息をついた。
「よう。まだ夏バテ中なのか?」
俺の前に、黒いポロシャツを着た結城が座る。
「うん。まだちょっと。」
俺は言葉を濁すと、うどんの器を脇にどけた。
「聞いたぜ。怜雄と別れたんだってな。」
「うん。そういうことになった。って結城口のところどうした?」
俺は顔をあげ、結城を見ると口の端に殴られたような傷ができていた。
「ああ。怜雄とちょっとな。あいつ今おかしいよ。真昼ちゃんの荷物全部持ってやったり、いちいちトイレの前で彼女のこと待ったり。お前は真昼ちゃんの召使かって。」
結城は吐き捨てるようにそう言った。怜雄と喧嘩でもしたのだろうか。
「怜雄、本当は優しいから。」
俺は口元に笑みを浮かべてそう言った。
俺の言葉に結城は探るように俺を見つめた。
「優、聞いたんだろ。あいつの母親の話。」
俺は結城の問いかけに小さく頷いた。
「怜雄は自分の母親のこと女神みたいに崇拝していたけど、俺はあの人のこと苦手だった。俺たちが遊びに行くと、いつもすごく不機嫌な顔して、監視するみたいにずっと後ろから見てるんだぜ。死んだ人のこと悪く言いたかないけど、正直嫌な気持ちだったよ。」
怜雄の話の中のお母さんは優しくて、可愛らしい印象を受けたから、俺はその告白に驚いた。
「まあ、とにかく俺は優の味方だから。困ったことがあったらいつでも相談してくれよ。俺なんかじゃ怜雄の代わりにはなれないけどさ。」
結城はそう言うと、バックを持って立ち上がった。
「結城。ありがと。」
俺の言葉に結城は優しく微笑むと、食堂から出て行った。
今更怜雄の母親の話を聞いたところで、俺は何もしてやれない。
怜雄が受けた傷はきっと真昼ちゃんが癒すのだろう。
俺はため息をつくとトレイを持って、立ち上がった。
ただ寝坊しそうになれば、母親と姉が鉄拳で起こしてくれるので、遅刻することはなかった。
混雑する電車に揺られながら、窓の外で秋の柔らかい光に輝く小川を見つめた。
怜雄はちゃんと起きて授業に出られているかな。
真昼ちゃんがいるのにそんな心配は必要ないなと俺は自分の考えを打ち消すようにひっそりと笑った。
俺が実家に戻ったあたりから、大学のいたる所で、仲良さげに歩く怜雄と真昼ちゃんを見かけるようになった。
怜雄の隣の真昼ちゃんはいつも笑顔で、二人が並ぶと美男美女のカップルそのものだった。
見たくない光景のはずなのに、いつの間にか怜雄を目で追ってしまう自分がいたが、どうしようもなかった。
食欲だけは相変わらずなくて、俺は学食でうどんを三口ほどすすると、箸を置きため息をついた。
「よう。まだ夏バテ中なのか?」
俺の前に、黒いポロシャツを着た結城が座る。
「うん。まだちょっと。」
俺は言葉を濁すと、うどんの器を脇にどけた。
「聞いたぜ。怜雄と別れたんだってな。」
「うん。そういうことになった。って結城口のところどうした?」
俺は顔をあげ、結城を見ると口の端に殴られたような傷ができていた。
「ああ。怜雄とちょっとな。あいつ今おかしいよ。真昼ちゃんの荷物全部持ってやったり、いちいちトイレの前で彼女のこと待ったり。お前は真昼ちゃんの召使かって。」
結城は吐き捨てるようにそう言った。怜雄と喧嘩でもしたのだろうか。
「怜雄、本当は優しいから。」
俺は口元に笑みを浮かべてそう言った。
俺の言葉に結城は探るように俺を見つめた。
「優、聞いたんだろ。あいつの母親の話。」
俺は結城の問いかけに小さく頷いた。
「怜雄は自分の母親のこと女神みたいに崇拝していたけど、俺はあの人のこと苦手だった。俺たちが遊びに行くと、いつもすごく不機嫌な顔して、監視するみたいにずっと後ろから見てるんだぜ。死んだ人のこと悪く言いたかないけど、正直嫌な気持ちだったよ。」
怜雄の話の中のお母さんは優しくて、可愛らしい印象を受けたから、俺はその告白に驚いた。
「まあ、とにかく俺は優の味方だから。困ったことがあったらいつでも相談してくれよ。俺なんかじゃ怜雄の代わりにはなれないけどさ。」
結城はそう言うと、バックを持って立ち上がった。
「結城。ありがと。」
俺の言葉に結城は優しく微笑むと、食堂から出て行った。
今更怜雄の母親の話を聞いたところで、俺は何もしてやれない。
怜雄が受けた傷はきっと真昼ちゃんが癒すのだろう。
俺はため息をつくとトレイを持って、立ち上がった。
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