vamps

9

　ヴァンプはタイの願いを叶えたいという本能を持つため、タイになった人間は時に慎重にヴァンプに接しなければならない。
　ヴァンプが本当は嫌なことであっても、タイからの命令であれば拒めないという特性をもつからだ。
　その点を父はよく分かっていて、母と話すときは提案するように自分の希望を述べる。
　そうすれば母も断ることに罪悪感を覚えないためだ。

　タイからの命令をヴァンプが絶対に拒否できないということはないが、断ると喉が締め付けられ、今にも死ぬのではないかという苦しさが数時間は続くらしい。
「別れたくないって私は言ったけど、そうしたらジャックに『俺は一生君の食糧でいなければいけないのか』って。そう言われたら私……もう何も言えなくて」　
　ティアが机に突っ伏し泣き始める。
　母も涙を零し、その母の肩を父が抱く。

「ジャックの家に行って話をつけてこよう」
　父が立ち上がった。
「ティア、お前は来なくていい。ここからは大人の話し合いが必要だ」
　父はジャックの両親に連絡すると、母と一緒にジャックの家にむかった。

　俺は泣き止まないティアの為に、ハーブティーをいれた。
　ようやく少し落ち着いたティアがすっかり冷めてしまったハーブティーを飲む。
「私ね、ずっと自分がヴァンプに産まれて良かったと思っていた。だってすごく運命的じゃない？　好きな相手と同じ薔薇のタトゥーが刻まれて、その人の血しか飲めないなんて」
　ティアの眦に涙が盛り上がり、一筋零れる。
「でも実際は全然違った。タイとヴァンプの関係は何処までいっても食料と奴隷の関係にすぎないのよ」
　ティアはそう呟くと俺を見つめた。

「ねえ、お兄ちゃん。私もう一生誰ともタイの関係は結ばない。だってこんな苦しい思い2度としたくないもの」
　俺は黙ってティアの小さな頭を抱えた。
　ティアが嗚咽を漏らす。
　俺はこちらの胸が苦しくなるくらいのティアの慟哭を聞きながら、何故ヴァンプなんて存在がこの世界には存在するのかという問いが、しばらく頭から離れなかった。