私の番の香り

まめ太郎

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 代わりに一つお願いをした。
「すみません。化粧室だけちょっとお借りしていいですか?」

 先ほど飲んだアイスティーのせいだろう。
 ここに着く直前から尿意がこみあげ、もう我慢できそうもなかった。
「ああ。君はオメガなんだよね?じゃあ問題ないか。貴一はここにいなさい。瑞樹君、こっちへ」
 そう言われて玄関を開けた瞬間、甘ったるい匂いが俺を襲った。
 咄嗟に鼻にハンカチを当てそうになり、踏みとどまる。
 これが成澤さんの母親の発情の香り?

「つきあたり右の扉が洗面所だから」
「すみません」
 お義父さんに言われ、俺はふらふらとそちらに向かい、扉を閉めた。
 大きく息を吐く。
 今まで何人かのオメガのヒートの時の香りを嗅いできた。
 でもこれは今までのどの匂いとも違った。
 甘ったるく、纏わりついてくるような強烈な香り。
 この香りに興奮しないアルファなどいるのだろうか?
 だから成澤さんはこの家に入らなかったんだ。
 まさか……成澤さんの襲ったオメガって。
 いや、まさか。
 不吉な考えを振り払い、さっさと用を足すと俺は洗面所から出た。
 先ほどより匂いが濃くなっている。

 ギシと音がし、振り返ると、小さくて可愛らしい女性のオメガがこちらをみて微笑んでいた。
「貴一の婚約者の方なんですって?私、貴一の母親です」
「はい」
 もう息を吸うのも辛かった。
 熟したマンゴーを鼻に押しつけられているような。
 甘い香りではあるが、限度を超えていて気分が悪くなってくる。

「今日はごめんなさいね。今度きちんと挨拶させて欲しいわ」
「はい」
 無礼なのは分かっていたが、俺はそれしか答えられなかった。
 口を開くと、匂いが流れこんできて胸やけがする。
「じゃあ、また」
 お義母さんはもう一度微笑むと、二階に続く階段を静かに上がっていった。

 俺は必死で玄関に向かい靴を履くと、外に出た。
 四つん這いになり、大きく息を吐き、吸う。
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