私の番の香り

まめ太郎

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 貴一さんの親馬鹿っぷりは生まれる前からすさまじかった。

 胎教にいい音楽を流したり、自分が家にいる間は俺に家事をやらせようとしなかった。
 お腹の胎児と話せるという聴診器を買ってきては、夜な夜な俺の腹部に話しかける。
 俺は心の中で、そういうのってどうなんだろうと思っていたが、口にはしなかった。
「ほら、今。今話しかけたら、動いた」
 なんて貴一さんが瞳を輝かせながら言うから、俺はつい吹きだしてしまった。
 
 俺が妊娠してからしばらく、貴一さんは俺に性的な触れ合いを求めなかった。
 俺を抱きしめて寝るのは相変わらずだが、それ以上はない。
 寝ている時、貴一さんの股間の昂ぶりが可哀想で、俺はある晩、ついにそこに手を伸ばした。
 目をつぶっていた貴一さんは突然カッと目を見開くと、こちらに背を向けた。
 俺が肩に触れると、びくりと体を震わせる。

 初夜の生娘じゃないんだから。

 俺は貴一さんの背中に向かって語りかけた。
「ねえ、しようよ」
 貴一さんは何も答えない。
「先生に聞いたら、妊娠中にしても問題ないって」
「本当?」

 貴一さんは未だこちらに背を向けたまま問う。
「本当」
 俺がそう言うと、貴一さんは勢いよく振り返り、膨らんできた腹にキスをした。

「少しうるさくするけど、ごめんな」
 貴一さんはそう言うと、そのまま俺に覆いかぶさった。

「それにしても本当に瑞樹幸せそう」
 明紀の言葉に俺ははっと意識を戻した。

 昼間から、それも友人の前で、貴一さんとの熱烈な愛の行為を思い出してしまった自分が恥ずかしい。
「幸せそうって、どうせ俺のこの丸くなった顔を見て思ったんだろ?」
 自分の顔を指さすと明紀が笑いを堪える表情をした。

 貴一さんが栄養を取らないとと言って、美味しそうな物を買ってくるせいで、俺の体重は増加の一途をたどっていた。
 担当の先生からも「これ以上太るのはまずいですね」と言われてしまったばかりだった。
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