小さな別れは、淡く儚い恋を呼ぶ

桐生桜月姫

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69 恥ずかしい

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 1時間後、だいぶお腹に余裕ができた心菜は、お風呂の時間まで自習時間ということで必死になってテキストの空欄を埋めていた。勉強強化合宿用に配られたこのテキスト、どうやら終わらなかった分だけ宿題になるという風の噂を耳にしたからだ。
 よって、極力宿題を持ち帰らない主義の心菜は、必死になって空欄を埋めることを繰り返す。
 集中しすぎたことで周囲が疎かになっていたのであろうか、心菜は隣に帰ってきた存在に全くもって気が付かなかった。よって、肩をぽんぽんと叩かれてびくっと身体を揺らし、声にならない悲鳴をあげた。

「~~~~ーーーー………………っ、」
「えっとー、すまん、久遠。そんなに驚くとは思わなかった。だが、今度はお前らの班がお風呂らしいぞ」
「え、あ、えっと、………ありがとう、立花。い、行ってくるね」
(は、恥ずかしいーーー………………)

 心菜は自分のお風呂セットをぎゅっと抱き込んで立ち上がり、急いで班のメンバーの後に続く。顔が真っ赤になっているが、それは多分気のせいであり、それから厚めのお風呂に長時間使ったからである。決して、集中していた顔をのぞきこまれて恥ずかしかったり、お風呂上がりの石鹸のふんわりとした香りに当てられたり、肩を触れられて恥ずかしくなったのではないのである。
 深く深呼吸をした長風呂心菜は、いそいそと自分の席に戻り、学習を再開した。だが、邪念が拭いきれず、宿題になりそうなペースになってしまった。

「はあぁー、」

 思わず漏れ出た溜め息の原因が何か、心菜には心当たりのある原因がありすぎて、よく分からないかった。濡れた髪をまとめるために巻いているタオルキャップの猫耳がゆらゆらと影を落とすのを見て、『猫って自由でいいな~』と漠然と考え込んでしまったあたり、心菜は今日の朝から続いている勉強会で、だいぶ疲れてしまっていたのかもしれない。『ふぁう、』という欠伸を噛み殺した心菜は、それから全員がお風呂に入り終わって、先生方のクソ長い諸注意を聞き終えるまで、ひたすら腱鞘炎となりかけている手首を酷使して相棒たるシャープペンシルを握り続けた。
 ポキっと手元のシャープペンシルの芯の折れる音が、なんだか遠い世界のことに感じられて、心菜は気がつけば自分の班に与えられた寝室へと帰っていた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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