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103 心菜のノート

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▫︎◇▫︎

「ーー、ー遠、久遠、おい、久遠っ!!」
「………?」

 国語の授業中、受験生心菜が真面目にノートをとっていると、隣の席の立花が小声で話しかけてきた。授業中に話しかけてくるなど言語道断。心菜は無視を決定して、立花に話しかけられたことで一瞬だけ止まっていたノートへのメモを再開する。文字を書くのが遅い自覚がある心菜は、いつも周囲の子たちよりも先に書き始めるということを心がけているのだ。1秒1秒がもったいない。

「………あとで覚悟しとけよ?」

 ニヤッとした意地悪な表情で紡がれた不穏な気配いっぱいの言葉も、一切合切全て完璧に無視。心菜はカリカリと遅れ気味になってしまっているペンを動かし続けた。ただえさえ苦手な国語、ノートを取らずに成績を落とすなどということはできないのだ。

▫︎◇▫︎

「わあっ!!」
「にゃっ!?」

 必死に手を動かし続けた国語の授業終わりの休み時間、心菜は後ろからびゃっ!!っという勢いで叫ばれて飛び上がっていた。犯人は言わずもがな立花。悪戯っ子すぎる彼の奇行のせいで、心菜は誤ってノートにぴゅっと1本線を引いてしまう。必死になって書いたノートが台無しになってしった心菜は、顔から血の気を引かせた。

「いやああぁぁぁ!!」

 悲鳴を上げて頬をお抑えた心菜は、やってしまったノートに悲痛な声を漏らす。あまりのことに、自分でもびっくりだ。心菜は立花をきっ!!と睨みつけると、やってしまった部分を消しゴムで丁寧に消して、元通りに書き直す。いくら丁寧に処置しようとも、1度思いっきりよくやってしまった箇所には跡が残ってしまう。それに、文字を書くのに時間がかかる心菜は、書き直しだけでも多くの時間を必要とする。
 よって、心菜はぐっと地を這うような低い声を出す。

「………末代まで呪ってやる」
「………………そこまで凄む部分か?」

 立花の心ない言葉に、ぶわっと泣きそうな雰囲気を醸し出しておよおよと顔を抑えると、立花が途端に慌てたようにあわあわとし始める。心菜はそれを手の隙間から良い気味だと眺めていると、ピタッと運動会で散々やってくれた『おふざけマン』と目線を合わせてしまった。慌てて目を逸らしてももう遅い。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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